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十三話 上陸


 出発から約一週間。漸く予定日当日となった。

 前日に確認したところ、船を使わずとも全員を住まわせられる仮小屋は完成していた。ただ、仮小屋なのでクオリティーは高くない。

 住宅が完成するまでは船で生活することも認めようと思う。反発の意思が完全に無いと判断出来るなら、連れて来た奴等の中で希望者を対象に用意してやると言ってある。



 サンは俺に対しての敵意は見られない。今後の仕事割り振りとも関係してくるからルナとも会わせておきたい。

 そうした理由で、サンには部屋を提供した。俺の昼食を作りたがるワンコみたいな料理人、アレン・シュガーライドにもキッチンは提供しておいた。



「より一層精進いたします! 全てはフェリーチェ様にお喜び頂くために!」


 アレンは単純な料理好きだった。初めて俺が食べた時に褒められたことで「フェリーチェ様のために」などと叫ぶようになったそう。彼の父親曰く。


「ああ。期待しているぞ、アレン」

「お任せください!」

 俺がこんな言葉を掛けるだけでアレンは喜ぶ。悪い大人に騙されないか、不安で仕方がない。

 まだ十代らしいし。しかも大学生相当年齢というわけでは無く、普通に中学生。

 オリヴァーよりは年上だけれど、それでも俺と五歳しか離れてない。十五歳って言えば高校受験前だ。日本ならまだ働き始める事もない。法的に禁止されている年齢。さぞ純粋なことだろう。




「それ本気で言ってる?」

 バゲットに齧り付きながら窓を見ていたオリヴァーが呆れの色を含んで俺を見る。


「え? どういうことだ?」

「シュガーライドのこと。男が料理を趣味にするなって言われてきたらしいよ。でもフェリーチェに褒められたことで料理も全面的に許可されたって。だから、フェリーチェはシュガーライドの恩人。あの子、もうフェリーチェ以外に何言われても靡かないと思うよ」


 懐かれたか。しかし……料理禁止って頭固すぎだろ。理久も男だったし、こっちでも父さんが料理してた。価値観が古過ぎるんだよ。…………古いか。産業革命前だもんな、古くて当然だ。



「そういや、何でアレンのこと知ってるんだ? まだ上陸前だぞ?」

「ルナから使用人の身辺については大体聞いてる。だからシュガーライドの父親が騎士だったってことも、母親がメイドだったってことも知ってる。家庭環境まで全部」


 詳しく聞くと、ルナは使用人の身辺について片っ端から調査する趣味があったらしい。

 浮気調査の探偵とか出来そう。そこで見聞きしたことをノートに纏める癖もあった、と。そこまで来ると最早恐怖。ストーカー的な怖さが出てくる。



「ルナは主をフェリーチェとしながら俺のサポートに回るって言ってくれてるんだ。良いよね?」

「ああ、それは構わない。俺にも部下が出来たからな」


 サンは目立つ髪を黒に染めるか被り物をすれば忍者として使えそうだった。身体能力があり得ない程高いのだ。属性は火だが、強化属性の人と同じくらいの力もある。

 打診したら二つ返事で了承してもらえたので、落ち着いたら改めて指名するつもりでいる。



「あ、何か見えて来たよ?」

 操舵室のガラスから、海底が見え始めた。陸地は近い。


「だな。皆に伝えておいてくれ。俺は船の舵調整をするから」

「了解、行ってくるね」



 あの大陸には珊瑚礁があった。船底でそれを抉り取らないように少し迂回したルートで船を停め、陸地まではボートで向かってもらう。珊瑚礁が無い場所には岩があるのでそれで船底を傷付けられるのも嫌だ。ということで、予め用意しておいた木のボートを使うというわけだ。



 簡易的な桟橋を作っておいたのでそこから上陸してもらうつもりだ。


 船が海上に出たところで俺も外に出る。何でかって? それは、この船にエンジンが無いから。ブレーキを掛けたければ海底にブレーキパーツを擦り付けることになる。  



 乗り物の仕組みが分からないとこうなるのだ。物理で止めるしか無い。幸い波を当てているだけなのでそれを止めればゆっくり減速して止まる。俺が外に出たのは万が一に備えて、だ。俺自身がブレーキパーツになる気は無い。



 俺の想定通り、船はしっかり止まってくれた。後は潮に流されないようにしっかり固定して停めればもう降りるだけ。用意してきた木のボートを四隻出して準備は完了だ。


「皆、上陸の準備できた。ボートが用意してあるから順番に乗り込んで」

 ボートは連れてきた奴の中から有志で募った四人が漕ぐ。何度も往復することになるので筋肉必須。

 騎士の有り余る体力を発散させるのと、衰えていく筋力の維持のためにこうした。こっちサイドには騎士居ないし、強化属性持ってても級は下のことが多いから……。

 こういう時に対処するためにも、オリヴァーの意見を聞いて連れて来て良かったと思う。



 順番としては、まずは大人達。次に小供、最後にまた大人。男女比率は大体同じになるようマリーに組んで貰った。


 俺は全員分の荷物持ち。乗る時に荷物が大きいと邪魔になるからな。乗れる人は少なくなるし、船の重心も安定し難くなる。良いこと無い。



 上陸したら点呼して、誰も欠けていないことを確認した上で船を無限収納に仕舞う。念の為結界は張りっぱなしだが、それでも心配なので。船がすっぽり入りそうな大きさの入り江だけ見つけておいたので、船が不要になるまではそっちに移動させておく。不要になったらまた俺の無限収納に取り込めば良い。



 いつか、俺の船にうちの文明レベルが追い付いたらホテルみたいな感じで開放しても良い。

 国としての土台が出来るまで暫くは鎖国生活だろうけど、いつかこの島を開放して人を呼び込みたい。その時に目新しい物の一つや二つ、あっても良いだろう。



 通貨も変える予定だが、既存の金貨や銀貨に価値は合わせるし、来た人から金を取れるなら取ってしまえ。そうなると、両替施設も必要になってくるな。実現が一体何年後になるかは分からないが、まあ頑張ろう。


 全員の移動が完了したことを確認し、俺は船を入り江の方に移動させるべく拠点とは反対側の海に足を運んだ。

 この世界にも満潮と干潮があるようで、見つけておいた入り江も時間によって海面の高さが違う。満潮時でも足元が濡れない場所に船をドスンと置いた。素人のDIYだからよく見ると不格好だが、遠くから見たら結構様になっている。



「お待たせ。預かってた荷物返すから取りに来て」

 オリヴァーやルナ、サンにも手伝ってもらって、全員分の荷物返却が終了した。


 俺の荷物は出さない。ずっと収納しっぱなし。この後は食事を挟んで、今度はここに居る全員でこの島を一つの国にしていく。



 俺が船を操縦? している間にオリヴァーが書いてくれていた各人物の職業一覧表。これを参考にしながら開発を進めていくつもりだ。

 家具職人は俺が与えた部屋の家具を気に入ったようで、何とか再現すると言っていた。服飾師も、俺がデザイン画を渡すからそれ通りの物も作って欲しいと言ったら「任せて」と答えてくれた。



 俺みたいに髪がビビットだとどうなるか分からないが、父さんとオリヴァーは茶髪、マリーは黒髪だから和装は似合うはずだ。

 一度で良いから見てみたい。完全な和装じゃなくて、和ロリ? みたいなデザイン。男物は……どうしようか。和洋折衷も見てみたいけどまずは無難に袴からかな。浴衣はまた後で良い。今すぐ祭りやるわけでもないし、寝巻きもズボンの方が動きやすいし。



 そして、デザイン画以外で俺が唯一役に立てそうなのは演奏。サンに聞いたら、音楽が好きな人は半数以上居るらしい。船で来た人達は含めず。



 時間が取れるようになったら弦楽器やりたい。ヴィオラだったからメインはそれしか弾けないが、ヴァイオリンとチェロだけは体験入部でやったので少しは分かる。

 コンバスはマジでわからん。俺の代で募集してなかったってのもあって一度も、触ったことすらない。精々演奏会での運搬くらい。しかも楽器ケースに入った状態の。



 見た瞬間弾けたら俺、天才。絶対音感を持つ事と、楽器をそっなく弾きこなすことは違うのだ。ということで、暫くは前世で弾き慣れたヴィオラを使う。


 譜面にはチマチマ起こしていたので二曲は完成している。チャルダッシュ譜面と、技巧練習用技巧曲譜面。練習曲の方は俺が中学の時に部活の課題で作ったもの。

 高校でも下級生に教えるのによく使っていた。我ながら鬼畜譜面が出来上がっている。音符一つ一つをオタマジャクシと称する人が見たら卒倒しそうなくらい真っ黒。割と平気な俺も、この量の蛙が出てきたら引くかも。



「フェリーチェ、何してるの? …………ゔっ……何それ気持ち悪いわね」

 マリーが俺の手元の譜面を覗き込み、苦々しい表情を浮かべる。無理なタイプらしい。


「演奏したら、ちゃんと化けてくれるんだけどねぇ……」

「するの? 演奏。今」

「やろうと思えば出来る。ただ――」



「みんなーー! フェリーチェが演奏見せてくれるって!」

「あ、ちょっ……! マリー!」


 完全に俺の声が聞こえていないのか、単にスルーしてるだけか分からないが、マリーは周りに声を掛けに行ってしまった。



「フェリーチェ、演奏出来るの? 楽器とか持ってないのに」

 オリヴァーが不安気な表情を浮かべる。そうか、俺が転生者ってとこまでは言ってなかったな。


「楽器はあるし、弾くことも出来る。ただ、皆に求められてるかが分からないんだよ」

 これから大変になっていくのに娯楽なんて、とか休ませてくれ、とか言われそうなのだ。ピアノ譜ではあるが、俺が一番好きだったバラードがあるからそれも書き起こしておきたかったし。まだ序盤しか書けてない。暗譜は当然しているけども。



「あの、僕聴きたいです!」

「わたしも! わたしも!」

「ぼくも!」

 結局、小供達の懇願によって俺はゲリラライブを開催することに。

 チューニングはもう勘で行く。基準の音が無いから、自分の耳以外は信じずに。



「よし、もういける」


 今回は俺がピアノやってた時に弾いたバラード達の中で特に満足度が高かった物を重点的に弾いていく。

 俺の最推しクラシック曲、『愛の挨拶』に始まり、『カノン』や『月の光』なんかもあるな。『アルルの女 メヌエット』も気に入ってる曲の一つだ。この際もう、時間が許す限り弾いてやろうじゃないか。



「ステージの設置も終わった。マリーが声掛けたら凄い数の人が集まって来たよ。ほぼ全員居るんじゃないかな」

「分かった。サクッと士気上げてくる」


「そんな簡単に……?」

「まあ、客席で聴いてろよ」



 まだ不安そうなオリヴァーだったが、俺の過剰とも取れる自信に押されてか、即席で用意された観客席の方に去って行った。


 観客を前にするとコンクールを思い出す。中学の時に出たピアノのコンクール。残念ながら地元では弦楽器のコンクールはなかったが、もしあったとしたら似たような物だったろう。多分。



 一つ呼吸をして弓を引く。どれもピアノ譜発だから伴奏(左手パート)が無いのは少し違和感。

 ソロって言っても伴奏有る曲は普通に有るからな。管だろうが、弦だろうが。打楽器は知らん。



 俺が一音目を弾いた瞬間、空気が変わった気がした。十年以上のブランクがあるし、現役時代と比べて力強い演奏とは言えないかもしれない。

 でも、興味無さそうだった人も含め、大勢の視線を集めるに足る程のものだったらしい。



 曲が作られた当時の情景を思い浮かべることは俺には出来ないが、自分の趣味で再解釈したクラシック七曲をメドレー式に演奏した。


 演奏を終えた俺はもう疲労困憊。満身創痍。久しぶりに弦楽器演奏したからやっぱり体は鈍ってる。七曲弾けただけでも凄い方だろう。



「凄い! 凄いわフェリーチェ!」

「本当だよ! フェリーチェがこんな才能を持っていたなんて!」

 礼をした俺を、家族やオリヴァー達が取り囲む。


「結構良い感じだっただろ?」

「結構なんてものじゃないわ! 貴族子女が霞むわね!」



 幼少期、貴族令嬢として芸術に触れてきた母さんもベタ褒めだ。要は、今まで聴いてきた貴族のも含めてどんな演奏よりも良かったって事が言いたいわけだ。ただただ嬉しい。


「喜んでもらえたなら嬉しい」



「あ、あの……」

「……? 何か?」


 無理矢理連れて来た内の一人が俺の元にやって来た。使用人じゃ無かったと思うから、身内側だと思う。



「無礼を承知でお願いがございます。わ、私も楽器の心得がございます。楽団など作る際は、私も加えていただきたいのです……!」


 え、マジで言ってる? 楽団員立候補してくれんの?



「楽器は、何出来るんだ?」

「ヴァイオリンと、ピアノ……です」

「フェリーチェ様。彼女の腕は私が保証しますよ。よく聴かせてくれましたから」


 ルナ曰く使用人ではなく、偶に呼ばれて演奏する単発バイトみたいなことをしていた人だったらしい。

 ピアノとヴァイオリンはどちらも花形楽器だし、画で観た時に一台でも映える。


「分かった。将来作る予定の楽団員として認めよう。作る事になったら声を掛けに行くからそれまで精進してくれ」

「は、はい!」



 彼女の名前はセロ・ドルチェ。ヴァイオリン奏者なのに名前はセロなのか、というツッコミはおいておく。

 実際に俺の楽器を貸して演奏させてみたが、少し練習すればどこかの国の重鎮に見せても恥ずかしくないくらいのクオリティに仕上がるだろう。



 俺の作った練習曲を渡しておいたから、いずれそれも完璧に演奏しこなすと思う。部内でも俺の曲は鬼畜だと有名だった。弾きこなせて、更に自分でアレンジまで加えるようになったら大したものだ。



 今後の成長に期待出来る人材だった。楽団員の人選も任せることにする。初心者でも練習すれば出来るようにはなる。誰でも最初は初心者なんだから。

 あ、ちゃんと楽器職人も居たから後の楽器作りは全部任せる。

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