十一話 旅路 一
約束の日。俺は一度国に戻り、領主館に来ていた。俺に下った奴で、この場に居ない人間は誰一人居ない。俺が殺した騎士の遺族なんかは居ないが。
俺、恨まれてそうだな。相当。
追加で騎士百名程度とその親族、そしてオリヴァーの一言で一命を取り留めた領主の息子、サンが加わった。
サン……太陽、だよな? ルナは月。
名前の傾向とか、髪色とか、どこか兄弟っぽいんだよなぁ。義弟の一言で追い出されたってルナは言ってたから、もし兄弟だとしたらサンがルナを屋敷から追放したことになるけど。
いや、暴走した親が弟の名前を使って兄を追い出した線もあるけど。
男だろうが女だろうが、俺達の船が到着するまでは開拓に参加させる。畑を作るための土作りとか。仮小屋を建てたりとか。サンがそこでどう動くかによって今後の対応を変える事とする。
本当にルナとサンが兄弟で、お互いが望むならそこは二人に任せるし、拒絶すれば後から傘下に加わったサンの方を地方に飛ばす事だって出来る。要は左遷だな。サンの運命は、己の働きとルナの動き方次第だ。
「五人ずつ転移させる。お前達には一週間、無人島の開拓をしてもらう。仕事は向こうで割り振るから、取り敢えず五人組になれ」
五人組……。日本史の授業でやったわ……。連帯責任制度。あれ俺ちょー嫌いだったんだよなぁ。
だからここで言う五人組は当然、五人で一組になれって意味だ。連帯責任を負わせるつもりなど毛頭無い。
それにしても、俺が命令する側って何か違和感あるな。大学は入学してから半年ちょっとくらいで終わったし、中・高の部活も上下関係は無きに等しかった。つまり、命令って難しい、ということだ。
だが、都合の良いことに、誰一人として俺の内心には気付いてないようで、簡単に指示に従ってくれた。
一人だけ、サンだけ余ったようだが。
四人以下は認めるが、六人組は認めない。俺の転移上限が俺含めずで五人までだから。今更指示を変えるのも面倒だし、このままゴリ押しで進めよう。
無人島に降り立った人達はその温かさに驚いているようだ。エクレシアって高緯度地域にあるのか知らないけど、夏でも普通に寒いんだよな。
次々と上着を脱ぎ始めている。この島の冬が何度になるか分からないが、エクレシアくらい冷えるなら上着や暖炉は必須アイテム。気候はこれから計測していこう。
「あの、フェリーチェ様……。ここを開拓って……」
サンを残し、全員が降り立ったところで、こんな質問を投げられた。
何だ、怖気付いてるのか? それとも何すれば良いか分からないとか? そりゃそうだよな。まだ指示出してないんだから。
「畑を作るための土作りもそうだし、仮小屋も作ってもらわないと。あと、炊き出し場所の確保も。お前達の分の仮住居は建ててやったから、このメモ通りに進めて」
「で、ですが、年齢的にも厳しい者が……。病人もおまりすし……」
「全員働け、なんて言ってないわ。働けない奴は自分で出来ること見つけて。それくらいなら出来るだろ? それに、勉強を教えることだって仕事の一つだ。働ける奴はちゃんと働けよ。サボりは許さないからな」
休憩するのなら許すが、面倒だからとサボるのは許さない。暗くなる前に終わらせるのは構わない。そこは個々の判断で。
「これがやることリスト。時計持ってる奴居るか? 遅くても九時か十時には開始。六時には終わらせるように。分かった?」
残業事故に対する保障はしない主義。だって、命令を破って勝手に事故ってるわけだから。うちは会社じゃない。事故るなら自己責任で。
「はっ。仰せのままに」
よし、最後にサンの迎え行くか。
「サン。一つ聞きたいことがある」
「……はい、何でございましょう」
ぎゅっと拳を握って俺への恐怖に耐えるサン。心なしか、上目遣いになっているような。それ、変態の前では絶対にやめた方が良い。加虐心刺激するだけだから。
「兄弟はいるか」
「兄弟……。義理の兄が、一人…………おりました」
「名前は? 身体的特徴は?」
「ルナ・エトワール。父の前妻の、第一子になります。身体的特徴……翡翠のような髪と瞳を持っていて、身長は、フェリーチェ様よりも少し大きいくらいです。あまり食事を摂っている印象がありませんので、体もかなり細いと思います」
よし、俺が拾ったルナで合ってそうだな。ルナは義弟に追い出されたと言った。だが、サンからそのような気配を全く感じない。あれは本当のことなのだろうか。
「ルナは俺の保護下にある。義弟が自分を嫌って追い出したのだと言っていたが。両親に訴えて追放してもらったのか?」
まあ、十中八九違うだろうけど。
「いいえ。そのようなことは誓ってしておりません。居なくなってほしいと願ったことも、自分の優位性を保ちたいと思ったこともございません。義兄が追い出されたというなら、恐らく母が『可愛い息子の頼みだから我慢してね』とでも言っているでしょう。自分の存在が義兄の負担になっている事は承知しておりましたので、なるべく関わらぬよう心掛けておりましたが……。貴方様の元に居るのなら、自分は行かない方が良いですね」
この子……。自分の名誉に執着心とか無いんかな。冤罪ふっかけられてるのにこの淡白さ。
それとも内に溜めるタイプか? 爆発させるのは止めてほしい。てか、大事な労働力連れて行かない訳無いだろうが。
「いや、お前は必要だから連れて行く。俺、政治とかよく分からないし」
日本式の政治ちょっと齧ったくらいで。しかも公民と現社。大学は理久の希望でクリエイティブ系に行ったから政経やらなかったし。少しでも知識がある人が欲しい。ルナ一人じゃ厳しいだろうから。
「ひつ、よう…………?」
「そんなに驚くことか? で、来てくれるんだろうな」
来ないなら契約不履行と見做すことになるが。クーリングオフ? そんなものは無い。訪問販売じゃあるまいし。まあ、乗り込みはしたけども……。
「生涯、私サンは家名を捨て貴方の臣下として生きたいと存じます」
「そうか、安心した。じゃ、行くか」
ルナの身元も分かった。脅されてじゃない忠誠も貰った。これは大きな収穫だな。俺に一番近い位置に居て欲しいのはオリヴァーだが、そのサポーターとしてサンとルナを付けて良いかもしれない。
島に着いたサンも、気候に戸惑いつつ、先に来ていた奴らに作業のことを聞いている。あと数時間もすれば完全とは言わずとも、馴染めそうだな。
「おかえり」
操舵室に帰ると、オリヴァーがパンを食べていた。俺が作ったキッチンで母さん達が料理をしていたらしい。俺が連れて来た人達の中にはパン職人も居たようで。詳しい作り方は知らない。料理がド下手な俺がそんなこと知る訳無い。
「ただいま」
「その籠の中身、フェリーチェのだってさ」
「ありがとう。……ん、これ美味いな」
少し甘みがある。蜂蜜か? だとしたらよく持ってたな。この世界だと蜂蜜って馬鹿高いんだよ。多分日本だったら、蜂蜜一瓶で中古の軽自動車くらいは買えるんじゃないか?
「僕もそれ好きだったよ。ほんのり甘くてさ。皆、喜んでた。これから沢山大変なこと有るだろうけど絶対着いて行くってさ」
「絶対?」
「僕はそう聞いた」
「頼もしいな」
こっちも初心者だ。街づくりゲームくらいしかやった事は無いし、建物のデザインもやっていたのは外装ばかり。分からないことだらけだ。
失敗は出来るだけ避けるようにするが、行動した結果がどうなるかは最後まで分からない。そんな時に反乱の心配が無いというのはかなりありがたい。
「なあ、オリヴァーはさ。俺が建国して、王になっても、側に居てくれるか?」
「…………。何当然の事聞いてるの? 僕もマリーも、フェリーチェから離れるつもりなんて毛頭無いよ?」
「宰相……みたいな地位に居て欲しいって言ってもか?」
「まあ、難しそうではあるけどね。出来ることは頑張るよ。して欲しければ、宰相だろうが何だろうが引き受けるし」
一旦は安堵。オリヴァーは、そこに居てくれるだけで心強い。
「フェリーチェ」
「うん?」
「住みやすい国、一緒に作ろうね」
「……! ああ、そうだな。一緒に」
住みやすい国。勿論、金銭的な余裕も必要だ。でも、それ以上に言論の自由が認められた国を作りたい。前世を思い出した俺の目的は最初からそれだ。
言論の自由。日本では当然のように認められている権利。為政者を陰でイジっても罪に問われない。だが、ここでは上への不満と見做された時点でアウト。レッドカードで退場だ。この世から。そんな国は嫌だ。住むのも、作るのも。
国は一人で作れるものとは思わない。だから、オリヴァーの「一緒に」という言葉は心に深く刺さった。柄にもなく、感動で泣きそうになったくらい。
こんな友達を持てたのは、この世界に来た俺にとって一番の幸福だな。




