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蜀主二代ー三国志・劉焉と劉璋ー  作者: 涼風隼人


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第9回 劉焉、婚礼の儀を挙げる

 西暦一五六年(永寿二年)、劉焉は父劉正の服喪をまわりの人たちが感服するほど、見事に成し遂げた。

 次に進む道は当然、師の祝公、兄弟子の宋路の待つ洛陽にて、官途に復すことである。

 

 一番気になるのは、曹騰は何故、官途を辞して二〇年を越そうとしている祝公を呼び戻し、祝公は何故、当然の様にそれに呼応したのか、ということである。

 

 劉焉は母である田冬に後事を託して洛陽へ旅立とうとした。しかし、田冬が言う。

 「お前は立派に劉家の嫡男として、父上の喪を成し遂げました。しかし、もう一つ嫡男としての義務があなたにはあります。」

 

 劉焉は考えたがわからない。田冬に問う。

 「母上、愚息の不明をお許しください。もう一つ、とは何のことでしょうか?」

 「・・・婚礼の儀を挙げて妻を持ち、子を作ることです。」

 「婚礼の儀・・・。しかし、喪が明けたばかりですよ。」

 

 「確かにそうですが、あなたが今後も立派にやっていく上では、早めに妻を持つのもいいでしょう。それとも、洛陽に意中の女性など、もういるのですか?」

 「いえ、おりません。仕事と勉学に励むばかりでしたので・・・。」

 「そうでしょう。ですから、洛陽に行く前にここで婚儀を挙げていきなさい。そうでなければ、洛陽行きは許しません。」

 

 「しかし、婚儀はお相手あってのものでは・・・。」

 「あなたの喪に服する姿に心を打たれたという方が多くあり、婚儀の申し込みも一つや二つではありません。私が相手を選びますが、いいですね?」

 

 更に続ける。

 「言い忘れましたが、もちろん、あなたの師である祝公様にも今回、こちらで婚礼の儀をあげ、その後しばらくしてから洛陽に向かわせる旨、既にご承知を頂いているので、そちらも心配ありません。」

 「はい、畏まりました・・・。全て、母上のおっしゃる通りに致します。」

 こんなに強引な母は初めてであった。

 

 しかし、母は母なりにこの劉家の為を思って言ってくれているのであろう。

 劉焉は、洛陽行きを遅らせることにした。


―三ケ月後―

 劉焉は母である田冬が選んだ荊州名士の家柄である喬氏の娘「喬蘭」と結婚することとなった。

 年齢は一八歳の麗しき娘である。教育もしっかり受けており、教養もあり、その上、奥ゆかしさも兼ね備えているという、この辺りでは評判の娘であった。喬氏からの申し出で成立した結婚である。

 

 劉焉が父劉正の喪が明けたばかりということで、婚礼の儀もそれほど派手には行われなかったが、親族縁者や数多くの名士が出席し、慎ましくも華やいだものとなった。

 

 劉焉は喬蘭に言う。

 「蘭よ。私は、洛陽にて天子様のお近くに仕えるつもりでいる。よって、そなたも荊州を離れることになるが大丈夫かな?」

 「はい、わかっております。どこであろうと旦那様についていくように、と父からも言われております。」

 「そうか。苦労を掛けるかもしれんが、よろしく頼む。」


―三ケ月後―

 劉焉は妻となった喬蘭を伴い、洛陽に到着した。まずは宿をとり、喬蘭を残し、劉焉は復職の手続きと結婚の報告の為に尚書台に向かった。


 受付の者に言われた。

 「この度も、所属は光禄勲府。お役目は“議郎”である。しかし、喪が明けたと同時に結婚するとは、忙しきことよ。」 

 劉焉は、結婚に関することは聞き流した。やはり一定数、喪が明けたと同時に結婚することを疑問に感じる人たちがいる。儒者であれば、なおさらである。しかし、それを気にしていたら今後はやっていけない。故に、喪明けの結婚という話題は、聞き流す、と決めていた。


 「私が、議郎、ですか。」

 「聞いていないのか?お前の師である太常の祝公様のお引き立てによるものだ。」

 「畏まりました。精進致します。」

 

 劉焉は驚いた。議郎になったこともそうだが、祝公が既に太常という高位にあり、人材の配置などにも政治力を発揮していることに。

 太常は儒教官僚の頂点と言っていい役職で、かなりの高位である。国家の礼制や後進の育成のための太学を統括するなどの役目がある。地位としては、三公に次ぐ九卿の一人であり、さらに言えばその筆頭となる。

 

 劉焉が拝命した議郎は、天子への諫言や政策提言をする役目があり、高位に上る儒者たちが登用される登竜門的要素を持っている。

 「君郎の字に、また一歩近づけたな。」

 劉焉は心の中で、師である祝公に感謝した。

 

 祝公は当然にもう一人を議郎に引き上げている。

 祝公の弟子であり、劉焉の兄弟子、宋路である。

 祝公は二〇年官途を離れて、名士として名を上げていたが、まともにとった弟子がこの宋路と劉焉の二人だけなので、官界の若手から、この二人は羨望の眼差しを向けられる存在となった。

 

 この動きを作り出したのが宦官の頂点を極めた曹騰であったならば、この動きを注視しているのは、今や権勢を究めた大将軍の梁冀であった。梁冀が側近に言う。

 「曹騰は何故、今更祝公の様な者を高位に付けたのか。」

 「曹騰は宦官ながら、今までにも優秀な儒者をことある度に推薦しております。今回もその流れかと思いますが。」

 「・・・。まあ、いい。太常ごときが例え曹騰に味方して何かしようにも、俺にたどり着くことはあるまい・・・。ただ、監視の目は緩めるな。」

 「畏まりました。」


 権勢を究めながらも、決して隙を見せない梁冀。宦官の頂点として、宮廷内に隠然たる勢力を張る曹騰、そして突然現れた儒学の申し子ともいえる祝公。しばらくは、この三人を中心に世の中が動くであろう、と多くの者が感じていた。

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