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蜀主二代ー三国志・劉焉と劉璋ー  作者: 涼風隼人


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第6回 劉焉、旅立つ

 西暦一四九年(建和三年)、時の天子は桓帝である。

 一四四年は沖帝、一四五年は質帝、と目まぐるしく変わり、そして一四六年からが桓帝の時代となる。

 

 この年、劉焉は二〇歳となった。

 五年前、兄弟子である宋路は冠礼の儀を迎え、官途に就いた。祝公の紹介状を携え、まずは地元である荊州江夏郡竟陵県で役人をつとめ、その勤勉な態度から三年目には推挙され、現在は首都洛陽にて「郎」をつとめているという。

 「郎」にも色々な役目があり、「待郎」という主に文書の処理係として活躍をしているという。大変な出世である。

 兄弟子である宋路の話を聞く度に、「私も早く兄者に追いつきたい」と考えるようになっていた。


 劉焉の冠礼の儀は、劉正庵で行われることになった。

 劉焉が祝公の弟子になってから一〇年、劉焉は実家である劉正庵にはほとんど戻らずに過ごしてきた。時折、祝公に頼まれて、届け物をするくらいの時間しか戻らなかった。


 その短い時間の「里帰り」をいつも待ちわびてくれていたのは優しい母と、今はすっかり女らしくなってきた三姉妹であった。三姉妹とも既に近隣に嫁いでいたが、劉焉に会うためにわざわざ戻ってきていたのだ。

 この母と三姉妹が、劉焉の門出である冠礼の儀の準備に張り切らないはずはなく、かなり入念な準備が行われた。


 招待客も周囲の名士はもちろん、近所の者たち全てを招待し、非常に華やいだものになった。

 劉焉の想像のはるか上を行くものとなり、劉焉は心からの謝意を母と三人の姉に示した。


 さて、劉焉の字を皆に披露する時間となった。

 劉焉は、この辺りでは一番の出世を期待されている若者であり、皆が注目をしていた。劉焉が言う。

 「私の字は、“君郎”と致します。」

 父である劉正が言う。

 「焉よ。君郎とした意を、皆様に説明しなさい。」

 「はい。」

 劉焉は説明した。

 「まずは“君”でございますが、君子としての徳を身に着け、劉家の嫡男として恥ずかしくない男でありたい、という意味を込めました。」

 更に続ける。

 「そして“郎”でございますが、私には尊敬する兄弟子宋路様がおり、宋路様は今、洛陽にて待郎に任ぜられ、立派におつとめに励んでいるとのこと。宋路様に負けぬよう、私も“郎”となり、天子様の為に、国の為に働き、民の生活を静謐で安息のあるものにしたいと考えた次第です。」


 劉正がいう。

 「よくわかった。お前の進むべき道を、明確に示したいい字だ。祝公先生、どう思われますか。」

 祝公が少し間をおいてから言う。

 「劉焉らしい、と言っておこう。非常に具体的な意味合いを持つ字である。まずは、その字に到達することを目指し、精進せよ。そして、いつか、自分の字を乗り越えることを最終的に目標にすればよかろう。」

 劉焉は、劉正、祝公に拝礼した。

 こうして劉焉は無事、冠礼の儀を終えた。


 官への紹介状は、師である祝公と、父の劉正二人がそれぞれ書いたものを持っていくことになった。

 当初は、祝公のものだけの予定であったが、父が思うところがあるらしく、改めて用意してくれたのだ。


―数日後―

 準備を整えた劉焉は、まずは荊州江夏郡竟陵県の役所に向かった。紹介状を二通とも提出し、しばし待て、と言われたのでそのまま待っていたところ、中に通された。


 応対したのは、竟陵県の県令であった。

 まさか県令がいきなり面談とは思わず、劉焉は拝礼した。

 県令は言う。

 「劉焉、いや、劉焉殿。そなたほどの者、ここで受け入れるわけにはいかん。早々に洛陽を目指し、そこで改めて二通の紹介状を出すように。」

 「どういうことでしょうか?」

 「父である、劉正殿からは何も聞いていないのか。」

 「はい。特には・・・。」


 県令は劉正の紹介状の中身を説明してくれた。

 劉焉の家系は、前漢の景帝の時代から続く由緒ある家系で、分家といえども「宗族」であり、宗族には宗族としての官途の入り方があり、この様な地方ではなく、中央で任官を受けるべき、ということであった。

 よって、今から洛陽に向けて旅立て、ということであった。


 劉焉は驚いたが、洛陽までの旅程に耐えられるほどの準備はしていなかったので、一旦戻ろうと思ったが、劉正の書状には旅費の立替の依頼が認められていたそうで、県令が用意してくれた。後にわかったことだが、県令と劉正は友人関係であったのだ。

 劉焉は思わぬ父からの「贈り物」によって、自らのつけた字「君郎」になるために洛陽へと旅立ったのである。

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