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蜀主二代ー三国志・劉焉と劉璋ー  作者: 涼風隼人


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第47回 劉璋、二将を失う

 劉備が葭萌関に入って、はや、半年が過ぎようとしていた。


 張松の裏切りに関することへの詰問の使者なども全く送られてこなかった。


 当然、劉備は未だに漢中に出撃していない。


 しかし、張魯側は劉備が葭萌関に居ることで、下手な動きは出来ぬと自重しており、奇妙な状態での小康状態が保たれている。


 白水関をあずかる高沛と楊懐も、当然張松の件は聞いている。それで何故、劉備に葭萌関を任せたままなのか。劉璋の感覚もわからない。そして、居直るが如く、未だに何もせず葭萌関にいる劉備の存在が不気味でならなかった。

 

 楊懐が高沛に言う。

 「高沛よ、前々から考えていたのだが・・・」

 「何だ?」


 「俺は、劉備に自分の背中を預けて戦うことは出来ないと思っている。」

 「それは、俺も同じだ。いつ、裏切られるかわからないからな。」


 「ああ、そこで、先手を打たないか?」

 「どのようにしてだ。」


 「数日中に、葭萌関に夜襲をかけよう。」

 「葭萌関に夜襲だと?」


 「ああ、俺たち二人で劉備と龐統、そこに逃げ込んで平然としている法正の首を挙げるのだ。」

 「しかし、そんな簡単に行くか?劉備は、百戦錬磨。そして、あの“鳳雛”と呼ばれている龐統を軍師として帯同しているのだぞ。」


 「確かに、簡単じゃない。しかし、一度作戦を練ってみないか?」

 「その前に、劉璋様に相談した方がいいのではないか?」


 「いや、無駄だろう。あの人は、決められない人なのだ。我々が独断で劉備を殺したとしても、それはそれで受け入れると思うぞ。」

 「確かに・・・。よし、早速打ち合わせをしよう。」

 

 二人が密談している様子を遠目で見ている男がいた。

 劉備の軍師である龐統である。

 龐統は、白水関の様子を伺うため、何かと用事を付けて、定期的に出入りをしていた。

 「そろそろか・・・。」

 龐統は、心の中で呟く。

 

 龐統は白水関から戻ると、すぐに劉備に会い、言った。

 「劉将軍。高沛と楊懐を殺しましょう。」

 

 劉備は、驚いて言う。

 「龐統よ。何故、いきなりあの二人を殺す。」


 「私は、あの二人が密談しているところを見かけました。結論として、劉将軍を殺す話し合いとみて間違いありません。」

 「それは、まことか?」


 「はい。先にやらねば、こちらが殺されます。」

 「・・・。わかった。軍師殿の言うとおりにしよう。」


 劉備は、高沛と楊懐に一席設けるので、葭萌関に来て欲しい、と招待した。

 高沛と楊懐は、夜襲の計画を立て始めた矢先の突然の招待を不審に思いつつも、無下に断る方があらぬ疑いをかけられると思い、二人は劉備のもとを訪ねた。


 酒食が用意されている。劉備と龐統の二人がいる。

 劉備が立ち上がって言う。

 「さあ、どうぞ、どうぞ。こちらにおかけください。」

 二人は、誘われるがまま、席に着いた。


 四人ともそれなりの酒量となり、酔い始めた頃、龐統が突然立ち上がり言う。

 「さあ、この二人を捕らえよ!」


 あっという間に、高沛と楊懐は捕縛された。

 龐統が言う。

 「お主たちは、劉将軍の殺害を企んでいるであろう。故に、この様にさせて頂いた。」


 高沛が言う。

 「何を言っている?誰から、そんな話を聞いたのだ。」


 楊懐も言う。

 「龐統殿。何を証拠にこの様なことを。客分とはいえ、許されることではないですぞ。」


 龐統が答える。

 「私が、お主たちの密談を目撃した。証拠は、これで十分。」


 劉備が言う。

 「申し訳ないが、この場で死んでもらう。兵士たちには手を出す気はない、安心しろ。」

 劉備はこう言うと、二人の首を自ら斬り落とした。


 劉備は、この首をもって、急ぎ白水関に向かった。

 劉備の来訪を聞いて、白水関の門は開かれた。

 劉備はここにいる兵士を全て集めよと命令し、何事かと兵士たちが集まってきたところで、二人の首を掲げて言う。 


 「高沛、楊懐は結託して、この劉備を殺害しようとした。故に、止むを得ず処断した。今から、この白水関も私が全面的に指揮を採る。納得できない者は、今日中にここを去れ。止めはしない。残った者は、我が軍の兵士とする。」


 二将の兵たちはざわついた。ほとんどの兵が去ると思っていたが、思いの外、多くの兵が残った。残った兵は宣言通り、劉備軍に編成された。


 戻った兵士たちにより、高沛と楊懐が殺され、劉備が白水関の指揮を掌握したことはすぐに劉璋の耳に入った。

 「劉将軍が、まさか・・・。」


 劉璋は、気が動転して、思考が止まった状態になった。

 「王累が正しかったのか・・・。」

 そう考えることくらいしか出来なかった。


 劉璋は戻ってきた兵士たちに、一部の兵士は劉備軍に加わったことを告げられた。

 さすがの劉璋も怒りを覚えた。しかし、今度は劉備からの使者がやってきた。その使者は、軍師の龐統である。


 劉璋は龐統に向かって言った。

 「こちらには、劉将軍が高沛と楊懐を斬殺し、白水関の指揮も劉将軍が掌握したと聞いた。更に、白水関の兵も自軍に取り組んだとも。何故、この様なことになったのか、軍師殿、聞かせてくれようか。」


 龐統は拝礼して答える。

 「劉璋様。我々としても、高沛殿、楊懐殿を斬るというのは苦渋の決断でした。しかし、二将軍は我が主である劉備を殺そうと企んでおりました。」


 「高沛と楊懐が、劉将軍を殺す?」

 「はい。実際にこの龐統、二将軍がその様な話をしたところを見聞き致しました。そして、止むを得ず・・・。」


 「殺したと申すか。仮に、そうであっても、こちらに事前に一報を入れて然るべきことではないのか。ここは劉将軍の国ではありませぬぞ。」


 「事前にご報告するような時間はありませんでした。それ故、独断専行の部分は否定しませんが、二将軍をこちらで処断しました。」


 劉璋は、高沛と楊懐が劉備の入蜀に反対していることは知っていた。しかし、白水関という要所を任せられるのはこの二人だと思い、敢えて配置換えもしなかった。それが仇になったか、と劉璋は自分を責めた。そして、龐統に言う。

 「軍師殿の言うことはよくわかった。この件は、お互いこれで終わりにしよう。それでよろしいか?」


 「劉璋様の恩情、痛み入ります。」


 「しかし、こうなったら、張魯とのこと、完全に劉将軍にお任せ致す。涪城も防衛拠点としてお使いくださるよう、お伝え願いたい。」


 「畏まりました。我が主劉備に伝え、迅速に行動致します。」


「張魯の事は必ず、お願いしますぞ。ここまでこちらは忍耐と譲歩をしているのだから。もうこれ以上の猶予もできません。必ず、張魯の事はお願い致す。」

 龐統は拝礼して退出した。


 周囲にいた劉璋の側近たちは、驚いて言葉も出なかった。

 二将を殺害され、軍も奪われたというのに不問に付すばかりか、重要拠点となる涪城までも劉備に与えてしまったのだ。

 誰もが、劉璋の感覚を疑った。


 「これは、亡国の始まりではないか・・・。」

 皆、同じことを考えていたのである。

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