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蜀主二代ー三国志・劉焉と劉璋ー  作者: 涼風隼人


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第46回 劉璋、張松を斬殺する

 劉備は相変わらず、動かない。

 劉備の目は漢中を見ているように演じているが、実際は成都に向いている。今回の入蜀の明確な目的は、この益州を自領に取り込むことなのである。

 しかし、情勢は何ら変化が無い。ここで、龐統が一計を案じた。

 

 「劉将軍。こちらから劉璋に少し揺さぶりをかけてみては如何でしょうか?」

 「どのようにするのだ。」

 

 「はい。まず、劉璋に、孫権領に曹操軍が侵攻してきて、援軍の要請があった。そのため、戻らなければならぬ。ついては、増援の兵一万とそれらの兵糧を用意してくれまいか、とお願いするのです。」

 「それで?」

 

 「劉璋はおそらく、まずは引き留めるでしょう。しかし、劉将軍が呉との同盟を疎かにすることはできないことを理由に戻るというのを、止めることは出来ますまい。しかし、恐らくではありますが、劉将軍の希望通りの兵と兵糧の用意はしないであろう、と考えます。」

 「その理由は?」

 「入蜀以来、劉将軍は何もしていないからです。」

 二人は笑いあった。劉備が言う。

 

 「確かに。それで?」

 「これで、ひとまずは全く動かない状況に少しの変化を与えるはずです。そして、後の事は、その変化を見極めてから、改めて検討を致しましょう。」

 「わかった。私自ら、劉璋に会って話そう。」


―五日後―

 劉備は成都に入り、劉璋に面会を求めた。

 劉璋は劉備自らとは何事かと思い、すぐに会うことにした。


 劉璋が言う。

 「劉将軍自らおいでとは、前線で何かありましたか?」

 「いえ。漢中は問題ありません。しかし、私の大事な同盟相手である呉の孫権のところに曹操軍が侵攻してきたとの報せが入りました。」

 「なんと、それは厄介ですな。」

 「はい。そこで、二つお願いがあります。」

 「なんでしょうか?」


 「まず、益州から去ることをお許しいただきたい。そして、援兵として一万の兵とその兵糧をお貸し頂けないかと。」

 「劉将軍自ら戻らねば対応をできないのでしょうか?荊州にも、劉将軍自慢の家臣団がおられると思いますが。」

 「おっしゃる通り、任せられる人材はいますが、こちらに率いてきた二万の兵は我が軍の主力。やはり戻らねばなりませぬ。」

 

 「・・・。それならやむを得ませんな。しかし、援兵一万の兵と兵糧をすぐ出せとお言われても、我が方も苦しい。この点に関しては、少しお時間を頂く。」

 「わかりました。それでは、私は葭萌関に戻り、準備を致します。」

 

 この話を劉璋の側で聞いていた張松と法正は驚いた。

 呉との同盟が大切なのはわかるが、ここで劉備に去られてしまっては、恐らく二度と益州に呼び込むことはできまい。以前と違い、劉璋は劉備を完全に信用しているわけではない。

 

 張松は急ぎ書面を認めた。

 「何故、この機に何もせず、益州を放棄なさるのか。ここで益州を去れば、もう二度と、この地を手に入れる機会には恵まれませぬぞ。」

 

 この書面を急ぎ届けようと準備をしていたが、張松が厠に立った時に、この書面を兄の張粛は見てしまった。

 明らかに、劉璋に対する裏切り行為である。例え、弟の行いといえども見逃すことは出来ぬと、劉璋に手紙の内容を告げた。

 

 劉璋は激怒し、張松を呼びつけた。そして、詰問する。

 「張松。お前は私を裏切るのか。」

 「劉璋様。何をおっしゃっているのか、私にはわかりかねます。」

 「張粛よ。出てこい。」

 

 すると、兄の張粛が出てきた。そして言う。

 「松よ、私はお前の兄であるが、その前に劉璋様の恩顧を頂いている身である。先に用意していた手紙、劉備へのものであろう。そのことを全て、劉璋様にお話しした。」

 

 張松は黙って、目を閉じた。まさか、兄の裏切りにあうとは思わなかった。今から、どんな言い訳をしても始まるまい、と覚悟を決めた。張松は言う。

 

 「劉璋様、私を殺したければ殺してください。ただ、私が何故、あなたを裏切ったのか。それは、あなたは益州牧の器ではなく、このままでは益州の平和を保つことが出来ないからです。ご自分の無能さが、家臣を裏切りに走らせた、と自覚していただきたい。」

 劉璋は顔を真っ赤にして、激怒した。

 そして、外に連れ出された張松は斬殺された。

 

 張松は事前に、劉璋からの呼び出しがあったことを、法正に知らせた。法正はことが露見したと感じ、劉備陣営へ一足早く駆け込み、事なきを得た。以後、劉備の配下となる。

 

 ことが一気に進展したが、劉備は悪い方向に進んだと思い、焦る気持ちがあった。しかし、龐統は言う。

 「張松の件は残念でございますが、これで成都から兵をあげて劉将軍に襲い掛かるなど、劉璋にはできますまい。」

 

 「流石に、今回は違うのではないか?」

 「いえ、何も変わりませぬ。そればかりか、早く出ていって欲しくて、間もなくいくばくかの兵士と兵糧をもってくるでしょう。そうしたならば、遠慮なく受け取ればよろしいかと思います。」 

 「そんな楽観した姿勢で大丈夫か。」

 「はい。全く問題ありません。」


 実際、龐統の言うとおりになった。いつ出ていくのか、せっつかれたが、曹操の侵攻は既に食い止めたと呉から連絡があったのでご心配には及ばず、といってそのまま葭萌関に居座ったのである。


 この様に居直る劉備が劉備なら、それを認めてしまう劉璋も劉璋であった。劉備入蜀の際の反対派が、劉備を処断すべきとの声を挙げたが、動かなかった。劉璋も普通の感覚で測れる人間ではないと言えよう。

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