第45回 劉璋、劉備に不信感を抱く
劉備軍が葭萌関に入って三ケ月が過ぎた。
しかし、全く動く気配がない。
白水関から高沛と楊懐がやってきた。
高沛が劉備に言う。
「劉将軍。こういっては何だが、あなたたちは、我々を助けに来てくれたのではないのか?」
「高沛殿。当然のことを何故、疑問に思われる?」
「いや、劉将軍は戦上手と聞いている。そこで、すぐに動くのかと思っていたのだ。」
「ははは。私が戦上手、とは。つい最近まで、根無し草だったのですぞ。」
「しかし、荊州四郡を手中に収めた手並みは、鮮やかであったと聞いていますぞ。」
「それは、たまたまです。こちらから、漢中を毎日何度も見ておりますが、張魯軍に隙は無いように見受けられます。高沛殿、楊懐殿のご意見は?」
楊懐が答える。
「確かに、漢中の張魯軍は良くまとまっております。その兵の総数も三万を超える勢いとなっており、今のところ、付け入る隙が見当たらないのは、事実です。」
「そうでしょう。その中で、我が軍が先鋒ですぐに勝てる、という約束はできるわけありません。今しばらく、漢中を注意深く見る必要があるでしょう。」
劉備は存外、口が上手い。高沛、楊懐程度であれば、言い負かされるのは当然である。
しかし、しびれを切らしたのはこの二人だけではない。
劉璋も、さすがに動く気配のない劉備軍にやや、不信感を持ち出した。法正に聞く。
「劉将軍は、酒を酌み交わした時はすぐにでも張魯を平らげる、といった勢いを感じたが、全く動く気配がない。どういうことか。」
「劉将軍は、毎日じっくりと漢中の様子を伺っていると聞いております。戦上手の劉将軍が動かないのは、それだけ漢中の張魯軍のまとまりが良く見えているのでしょう。」
「そういうものか。劉将軍がいれば、白水関の高沛と楊懐と連携して、すぐに片付くと思ったのだが・・・。」
「そう簡単なお話ではないと思います。劉将軍に託した以上、今しばらくお待ちいただくべきかと。」
「わかった。焦ったところで何も変わらぬからな。今しばらく、待つとしよう。」
法正は、劉璋の不信感を極力抑えるのが自分の役目であると肝に銘じている。まずは、その役目を果たした。
しかし、口八丁手八丁でどれだけの期間、劉璋を納得させられるのかはわからない。そのため、本音としては、法正自身も劉備には早く動いてもらいたいと思っている。
張松と法正にとっても、我慢の時であった。




