第44回 劉璋、王累の諫言を聞かず
劉璋は、劉備との会談を終えて涪城から成都に戻った。
その途中、成都が大騒ぎになっているという情報が劉璋に入ってきたのである。
なんと、劉備の入蜀に反対の意を示していた王累が、城門で自ら逆さ吊りとなり、劉璋の帰還を待っているのだという。
「なんと、馬鹿なことを・・・。」
劉璋は心の中で呟いた。王累はまことに忠義の厚い男で、劉璋も重用してきたが、時折、その忠義が度を過ぎることもしばしばで、強情なところが劉璋は苦手であった。
城門に近付くと、確かに人が逆さ吊りになっている様子が見える。しかも、片手には剣を握っている。
珍しく、劉璋が大声で呼びかける。
「王累よ、この奇行は何事だ!」
王累は少し間をおいて、大きな声で返す。
「劉璋様!私は何度も劉備をこの地に入れない様にお願いしました!しかし、あなたはとうとう劉備を受け入れた。これでは、同じ土地に二人の王がいるのと同じことですぞ!」
「王累!何故、そこまで劉将軍のことを悪く言うのだ。私は、将軍と膝を交えて昨日、語り合った。まことに情の厚い、信のおける人物だ。実際、既に葭萌関に入られているのだぞ!」
「それが、劉備のやり口です。人の懐に入り込むのが実にうまい。ある時は曹操に身を寄せ、ある時は、袁紹、劉表にも身を寄せた。そして今度は、劉璋様、あなたの懐に入ってきた。」
王累は逆さ吊りで苦しい中、更に続ける。
「そして、劉備は今までと違い、荊州四郡を有し、更なる領土拡大を狙っている。その領土はどこか、ここ益州、蜀の地であるのですぞ!今からでも遅くは無い、劉備を追い出す。もしくは、討ち取るべきです!」
劉璋は怒り、更に大声で返す。
「何を言うか!我が方を助けるために来てくれた方を殺せだと!いくら、王累でも許さぬぞ!撤回しろ。」
王累は、涙を流しながら言う。
「ここまで言っても、お聞き届けいただけませぬか。」
そう言うと、剣を自分の首筋に当てて言った。
「王累、最後のお願いです。劉備を早く追い出すように。」
王累は自ら命を絶った。成都の城門は血の雨に濡れたが、その思いは、結局劉璋には届かなかった。
「今日の出来事が劉将軍のお耳に入らない様にせよ。」
劉璋はこう言うだけで、城の中に入っていた。




