第37回 劉璋、趙韙の乱を制す
西暦二〇一年(建安六年)。
益州に、劉璋に衝撃が走る。
劉焉益州入りの立役者であり、人望も実力も兼ね備えた人物、趙韙が、益州豪族のために反乱を起こすに至ったのである。ほとんどの豪族が趙韙に従った。
反乱の名目は東州兵の横暴に何ら手を打たず、無為無策の劉璋を糾弾するというものであった。
趙韙は益州では誰もが忠臣と認める存在であり、その趙韙が反乱に走ったことは、益州中に大きな動揺を誘った。
劉璋は思う。
「あの趙韙が、まさか。」
しかし、入ってくる情報ではまぎれもない事実であった。
こうなれば、頼れる人物は一人しかいない。
踏襲軍を率いる龐羲である。
しかし、趙韙率いる反乱軍の勢いは想像以上に凄まじく、反乱は益州内で拡大をしていった。成都周辺の豪族たちも一斉に蜂起し、劉璋は成都に籠城するまで追い込まれた。
劉璋は龐羲に言う。
「龐羲よ、東州兵の普段の勢いはどうした。こういう時に力を発揮せねば、優遇してきた意味がないではないか。」
「劉璋様。今回の反乱、趙韙はかなり時間をかけて、我々に気付かれぬように準備をしていたようです。成都周辺の豪族のほとんどが趙韙の味方に付いた以上、そう容易に解決できるものではありません。」
「なら、どうするというのだ。」
「幸いにも、この成都は我々が抑えております。援軍が期待できるわけではありませんが、籠城にて対処する所存です。」
「籠城で、どれくらいの期間、この成都は持つのだ。」
「現在城内には東州兵二万がおります。この兵力でしたら、数年持つだけの兵糧の備蓄はありますので、何ら心配に及びません。」
「この成都で数年耐え続けろということか。趙韙の勢いはそれほどものなのか。」
「はい、今のところは。しかし・・・。」
「しかし、何だ!もったいぶらずに早く言うがよい。」
「趙韙のこの勢いが持つはずはありません。必ずや、豪族たちの中で綻びが生じ、その結束は崩れる時が必ず来ます。今は、それを待つのが最上の策かと。」
「・・・わかった。東州兵のことも、趙韙の事も、龐羲、お前に任す。事が無事済んだら、それなりの褒賞を取らせる。故に、命を懸けて成都を守り、趙韙を討ち取るのだ。」
「はっ。お任せください。」
こうして、劉璋は全てを龐羲に託した。
趙韙の豪族連合軍は、兵力は約四万である。
何とか、成都の兵を城外に引っ張り出したいが、どう仕掛けても成都から兵が出てくる気配はない。
いくら豪族が味方をしているとしても、これだけの兵数の兵糧を保てるかといえば、さすがに苦しい。兵糧の量自体は、圧倒的に成都が有利であることを趙韙は知っている。
「龐羲め・・・。やはり籠城してきたか。」
打開策のないまま、刻一刻と日は過ぎていく。豪族たちの最初の勢いはもはや感じられず、誰から見ても士気が停滞しているのは明らかであった。
「まずい、このままでは・・・。」
趙韙に焦りが生じた。そして、趙韙は豪族たちに更なる兵糧の追加命令を出した。
しかし、豪族たちも出したくても出す兵糧が無く、一部の者たちはこの命令に大きな不満を抱えるようになった。
成都の城壁から、龐羲は毎日注意深く趙韙と豪族たちの様子を見ている。そして、「ここだ」確信が出来た。
―深夜―
龐羲は城門を開き、夜襲をかけた。
士気も衰え、緊張感もなくなってきた豪族たちは、散り散りになり、逃げまわった。龐羲の一撃で、勝負は決まったようなものだった。
趙韙は夜陰に紛れ逃亡したが、一部豪族の裏切りに会い、捕らわれて、龐羲に引き渡された。
「趙韙の身柄確保」の一方は、深夜ではあるが、劉璋に届けられた。劉璋は、趙韙と会うことにした。そして言う。
「趙韙よ。そなたほどの忠臣が何故、この様なことになったのだ。」
「今更理由を言ってもしょうがない。敢えて言うなら、あなたの無為無策、優柔不断に家臣としてついていくことが出来ない、と思ったまでだ。」
「そういった君主を支えるのも家臣、の役目ではないのか。」
「それにも限界があります。劉焉様は、本当に素晴らしかった。その決断力と行動力、何故、息子のあなたにはないのであろうか。」
趙韙は笑いながら言った。
劉璋は、もし、趙韙が命乞いをするのならば、その命は助けてもいいのではないか、と考えていた。しかし、今の言葉と、趙韙の失笑でその考えは消えた。
「趙韙と豪族の主だった者、全て斬首して市中にさらすように。」
こうして、趙韙の反乱は龐羲に敗れて終わりを迎えた。
龐羲は、今回の褒賞として、巴西太守に任ぜられた。




