第35回 劉璋、東州兵を龐羲に任せる
劉璋は苦悩した。
漢中の張魯の存在である。
劉璋は感情に任せて、益州在住であった張魯の母をはじめ一族郎党を全て処刑した。その事に関する報復行為を名目に、漢中と隣接している地域での小競り合いが度々起きるようになったのだ。
張魯軍は、劉璋の想像を超えた強さであり、劉璋軍が押し込まれることが増えてきたのである。
漢中は、益州の完全に脅威の存在となったのである。
劉璋は、五斗米道は宗教であり、張魯の国も所詮は宗教国家と侮っていたが、軍事国家の側面も持つほどに軍備も充実していた。
そして、本来であれば国を挙げて漢中の張魯への対策を練らねばならないのだが、益州内では依然、東州兵と豪族の争いが続いている。
「こういう時に、董扶がいたならば・・・。」
劉焉の益州入りのきっかけになった董扶は、実はもう劉璋の側にはいない。劉璋が益州牧を正式に継いだのを見届け、体調不良を理由に引退をしたのである。
劉璋はもちろん、趙韙も慰留したが、本人の意思は固く、認めざるを得なかった。
後の劉璋には、名だたる参謀たちが集まる時期もあるが、この頃はまだ人材が不足しているときであり、劉璋が諮問できるのは、趙韙くらいのものであった。
劉璋は趙韙を呼び出して言った。
「趙韙よ。そなたには今、豪族の管理と監視をかませているが、合わせて、東州兵の管理と監視も頼みたい。」
趙韙は驚いた。利害が完全に対立する二つの組織を同時に見よ、という命令だからである。趙韙は言う。
「劉璋様。この話は無理というものです。正直に申し上げますと、怒り心頭に発している豪族を抑えて何とかしているのは、私でございます。その私が、東州兵にも加担するとなれば、豪族からの信頼は崩れ、よもや、何が起きるかわかりません。」
「・・・。そうか、東州兵を何とかできる適任者はいないのか。」
「・・・。何とか出来るか、正直わかりかねますが、最近、東州兵の中では校尉の龐羲が人望を集めております。まずは、この龐羲に劉璋様のご意志を伝えてみるのは如何でしょうか。」
「龐羲か・・・。趙韙、悪いが手配を頼む。」
趙韙は拝礼して、退出した。
―数日後―
龐羲が劉璋のもとにやってきた。劉璋が言う。
「龐羲よ。お前なら東州兵の統率をできると、趙韙から推薦があった。どうだ、自信はあるか。」
「東州兵の統率・・・。はい、ご命令とあらばお受けさせて頂きます。」
「そうか、お主は話が早いな。よろしく頼む。」
こうして龐羲は、東州兵の統率を任される将軍職に就いたのである。




