第34回 劉璋、張魯の母を処刑する
劉焉の死は、劉璋が知らせるまでもなく、張魯の耳にも届いていた。現在の張魯は、漢中を五斗米道の王国にすることに注力をしている。
そしてそれを裏で操っていた劉焉が亡くなった。
「劉璋に劉焉と同様の度量は無い。」
益州から入ってくる情報で、張魯は既に劉璋を見限っていた。
「本当の五斗米道の王国をつくり、全てから独立をする。」
張魯は、決心をした。
まず、劉璋に以後、益州の意志には従わないといった、絶縁の書状を送り付けた。
漢中は既に、益州の後ろ盾が無くても十分にやって行けるだけの国力を身に付けていたのである。
劉璋は怒りに震えた。張魯への譴責の使者を送ると同時に、張魯の母親を呼び出した。そして言う。
「そなたの息子は、私には従えない。これから、漢中は自分が完全に支配すると言ってきた。そういう話は、聞いているか?」
「いえ、私は政には口を出さないと決めておりますので、息子からその様な話は聞いておりません。」
「左様か・・・。母親のそなたに知らせず、この様なことをするとは、親孝行の気持ちが無いと見える。自分が益州から独立したら、益州にいる母親に迷惑が掛かると考えるのが普通であろう。」
「確かにそうかもしれませんが、息子には以前から、何かを為すときに私の存在は気にするな、と言って育てました。故に、今回も知らせてこなかったのでしょう。」
「なるほど。そして張魯は、確実に私をなめているのだ。きっと、劉璋なら自分の母に手は出さないと。」
「私は、如何なる罰でもお受けします。息子の邪魔にはなりたくありませんので・・・。」
「息子をたしなめる気は、あるか?」
「いえ。息子も考えての行動でしょう。私が出しゃばる気持ちはありません。」
「たとえ、極刑に処されるとも、その決意は変わらぬか。」
「はい。私如きのことで、息子の進む道を邪魔したくはありません。」
「わかった。そなたを含め、張魯の一族郎党は、全て処刑とする。」
「・・・。悔いはございませぬ。」
こうして劉璋は、張魯への報復として、張魯の母をはじめ、益州在住の関係者を一斉に捕らえ、全員を斬首とした。
この出来事は、周囲を驚かせた。どうせ何も出来ないであろうと思われていた劉璋が、何ら迷うことなく決定をして多くの者を処刑したのである。
劉璋は普段は穏やかそのものであるが、時折、こういった残虐性が顔を出すときがあった。まるで、父親の劉焉がとりついたかのように見えるほどであった。
結局、この一事をもって、漢中の張魯とは完全に決別することになり、当然に仇敵関係となった。今までは漢中が益州の盾となっていたところ、今度は脅威の存在となっていくのである。




