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蜀主二代ー三国志・劉焉と劉璋ー  作者: 涼風隼人


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第33回 劉璋、益州牧となる

 劉焉の急死で益州はざわついたが、益州入り前から劉焉を支えていた董扶と趙韙が遺言通り、劉璋を劉焉の後継者として打ち立てたため、懸念された豪族の反乱や、異民族の侵入などの大きな事件は起きなかった。

 

 劉璋は漢の臣として、劉焉が死亡したこと、混乱を抑えるために自らが益州牧の後継になることを中央に願い出た。

 当時、実権を握っていたのは李傕と郭汜であったが、意外にもこの申し出をあっさりと承認している。おそらく、中央の統制で忙しく、益州の様な僻地にはさほど興味が無かったのであろう。

 こうして、劉璋は正式に益州牧となった。

 

 劉焉の益州支配は、東州兵の編成が整った頃から、「力」による支配の匂いが強くなる。歯向かう豪族たちを粛清し、徴税権を取り上げ、更には必要に応じて、金で異民族を雇って戦わせたりしたこともある。こうして劉焉は、力を利用して、益州の効率的な統治を成し遂げてきた。しかも、晩年に近付くほど、ほとんどを一人で決める「独裁者」の様相も呈してきた。

 

 一方、後継者である劉璋はどうか。

 劉璋の母、喬蘭がかつて、劉璋のことを「暖かな風」と評していたように、心根の優しいのが劉璋の特徴であった。三三歳になった今も、本質的には変わりはない。

 その点は父親の劉焉もよくわかっている様であった。

 

 「とにかく、この国を維持せよ。」

 これが、劉焉の遺言である。

 劉璋自身もわかっているが、国を発展させる、ましてや領土拡大の為に外に討って出るような大それたことが出来る部類の人間ではない。

 

 「私の仕事はこの益州を維持すること。これだけに邁進することに、人生を賭けよう。」

 劉璋は、劉璋なりの覚悟を決めて、益州牧としてやっていくことにした。

 

 さて、周囲の目はどうか。

 皆、まずは様子見といったところである。

 そして、最初に動き出したのが「東州兵」である。

 東州兵は、中原や東方からの流民で編成をされており、劉焉に対する忠誠度は非常に高いものがあった。食い詰めているところを、拾ってもらった恩義というのもあったからである。そして、その忠誠心は息子の劉璋にもそのまま向けられるものであると思っていたが、そうではなかった。

 

 今の東州兵は、「自分たちがいなければ、劉家による益州支配は成り立たない」と増長しつつあった。

 そして、一部の東州兵が暴徒化し、賈龍の反乱の時に凋落した豪族の部落などを襲って略奪を働くようになった。

 

 東州兵の創設につとめた趙韙は厳しく罰するように劉璋に進言したが、一事の誤りで勲功高き東州兵を罰するべきではない、ということで、今回限りとしたうえで、不問に付すことにした。

 しかし、この劉璋の「恩情」が更に東州兵を増長させ、似たような事件が頻発するようになった。

 さすがの劉璋も、主だった者を厳罰に処そうとしたが、東州兵側から涙ながらの謝罪を受け、またもや不問に処すとの決定をした。

 

 これに腹を据えかねたのが豪族たちである。

 そして、それを助けたのは何と、趙韙であった。

 趙韙は劉璋に進言する。

 

 「劉璋様。東州兵による豪族への所業、もう許されるものではございません。今の益州統治には、豪族たちの力も必要不可欠であることをお分かりください。」

 「趙韙よ、もちろんわかっている。しかし、東州兵はそなたが創設に関わったのであろう。そなたの力で、何とかならんのか。」

 

 「確かに、私は東州兵の創設に関わり、その調練の指揮も取っておりました。しかし、賈龍の乱の後に関しましては、劉焉様より豪族たちの管理・監視を命じられ、東州兵から離れて久しく、私では抑えが効きませぬ。」

 「趙韙よ、お前が抑えられない東州兵を、私が抑えられると思うか。出来るわけがないであろう。」

 

 「いえ、出来ます。劉璋様は、益州牧、益州の軍事と政治の総責任者なのですから。」

 「・・・。わかった。考えてみよう。」

 趙韙は拝礼して退出したが、

 「また、考えるだけか。」と苦虫を嚙み潰した。

 

 現状において、東州兵と豪族、どちらに非があるかなどは誰の目から見ても明らかである。完全に、東州兵に非があるのである。しかし、劉璋は、仮に厳しく処罰した場合、その矛先が自分に向かってくる可能性を感じており、何もできないで今に至っている。

 

 豪族たちは、趙韙に何度も何度も相談をしたが、こちらも埒が明かず、豪族たちの怒りも頂点に達していた。

 趙韙は、豪族たちを何とかなだめることしかできなかった。

 趙韙は人望があったため、豪族たちも最後の一線を越すことなく、何とか耐えていたのである。

 しかし、その一線を越さざるを得ない時が、少しずつではあるが近付いていることを、劉璋はまだ気づいていなかった。

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