第3回 劉焉、学問に励む
劉焉は、祝公の下で学問漬けの日々を送っていた。
とはいえ、祝公の身の回りの世話や、家のことなど、雑用的なこともこなさなければならない。しかし、その合間を縫い、少しでも時間があれば、時に一人で、時には兄弟子の宋路と共に学問をする充実した時間を過ごしていた。
「小賢しい」
当然に、誉め言葉ではない。
しかし、「小」を取れば「賢い」につながるという祝公の一言で、自分の目指すべき道が見えた、と感じている。
儒学を学べば学ぶほど、新しい気持ちが劉焉に芽生えてきた。
「この学問を人々の為に役立てたい」という思いである。
このためには、何を目指すべきなのであろうか。
父の劉正や師の祝公の様に、弟子を取り教えることか。
それとも、政に役立てるための官途に就くことなのか。
劉焉は、そのどちらに進むべきなのか、悩みだした。
時間は十分にあるので、焦る必要が無いのはわかっているが、進むべき道を、とりあえずでも決めた方が、学問により一層身が入るような気がした。
とりあえず考えてみよう、と一人で考え出したが中々答えが出ない。うなり声が漏れ出すくらい、悩みに悩んだ。しかし、答えが出ない。兄弟子の宋路に聞いてみることにした。
「兄者。お聞きしたいことが。」
「何であろう。まずは、一人で考えた上での質問か?」
「はい。出来得る限り、考えた上での質問です。」
「わかった。聞こう。」
「私の将来についてなのですが、父や師の様に地域に根を張り学問を広げることがいいのか、自分の学問を政に役立てるために官途を目指すのがいいのか、悩んでいます。兄者は、ここで学んだことをどう活かすか、既にお考えでしょうか?」
「まず、その二つの道があるとして、学ぶべきことは変わらない。いずれにしても、学問を突き詰めていく必要がある。」
劉焉は頷く。宋路は、続ける。
「私は、学問を多くの人々の為に役立出たいと思っている。それが出来るのは政に関わることではないかとも思っている。よって、私は今のところではあるが、官途を目指そうと考えている。」
「なるほど。父や師の様な活かし方、そして政での活かし方、時と場合と人により、その活かし方は変わる。」
「そうだ。焉のいう二つの道、どちらを選ぶのが正しい、間違えているという問題にはならない。自分の志を果たすのにどうするのかを考えればいいのではないか。」
「わかりました。兄者、ありがとうございます。私も官途を目指し、政を通して多くの人々の為に学問を役立てます。」
「そんな簡単に決めていいのか?」
「はい。父も師も捨てた官途を、子であり、弟子である自分が目指していいのか、という思いが心底にありましたが、兄者のお導きで払拭されました。」
「そうか。それならよかった。お互い、励もうぞ。」
劉焉は宋路に拝礼した。
こうして、少年劉焉は、官途を目指すことを目標とし、自分を磨いていくことになるのである。




