第28回 劉焉、豪族たちの徴税権に手を付ける
董扶が劉焉に報告をした。
「豪族たちの徴税は、それはひどいものでした。民からほとんどのものを取り上げ、国にはそのほんの一部だけを供出しているのが実態です。」
「比率で示すなら、どんな感じだ。」
「はい。まず、民からは七割、八割方は徴税し、その一割かそれに満たないものを国に供出する、という感じです。」
「それは、ひどいな。民も国も潤わず、ただただ豪族たちが潤うだけではないか。」
「はい。しかし、徴税の話だけは簡単に片付きますまい。」
「そうだな・・・。まずは、東州兵の編成を急ごう。」
益州牧であり、宗室出身の劉焉といえども、「税」に関する豪族の特権に関しては、すぐに手を出すのは躊躇した。
いま、もし豪族に一斉に歯向かわれたら、取り返しのつかぬことになりかねないからである。
まずは、軍備を整え、少なくともその点だけでも「対等」以上に、持っていく必要がある。
しかし、軍を養うというのは、当然金がかかる。なんせ、飯を食わせて、給金も出さなければいけないからだ。
今のところ、劉焉が自らの財から拠出をして賄っているが、さすがにそう長くは続けられない。
そうこうしているうちに、州都移転の準備が出来たと賈龍から報告があった。劉焉は賈龍に礼を述べ、すぐさま綿竹に移動をした。もちろん、東州兵も伴った移動である。
賈龍が劉焉に聞く。
「劉焉様にお尋ねしたい儀がございます。」
「何であろうか。」
「一部の豪族より、董扶殿とその部下と思われる者たちが我々の領土で、税に関する調査をしているのでは、という報告が届いていますが、事実でしょうか。」
「ああ、事実である。」
「何故、その様な調査を秘密裏に行う必要があるのですか。概要などでしたら、直接お聞きいただければ、私で答えられると思います。」
「・・・。確かに。しかし、私が知りたかったのは、税の概要ではなく、実情、を知りたかったのだ。」
「実情、ですか。」
「率直に言おう。賈龍を含めた豪族一同がどれくらいの税を民衆から取り立て、どれくらいのものを国に納めていたのか。その実情が、知りたかった。」
「・・・。それで、実情は把握されたのでしょうか。」
「ああ。ある程度はな。しかし、だからと言って、今すぐどうこうするつもりはない。ただ・・・。」
「ただ、何でございましょう。」
「東州兵にかかる資金に関しては、税で賄いたいと考えている。その分を上乗せした税を国に供出してほしい。」
「上乗せ分とは、どれくらいの話なのでしょうか。」
「率直に言えば、現状の三倍はお願いしたいところだ。」
「三倍・・・。いくら何でも、大過ぎではございませぬか。」
「賈龍・・・。こちらの調査では、お主ら豪族たちは、民からその七割、八割を徴税して、その一割かそれにも満たない量しか国に供出していないと聞いているぞ。」
「・・・。誰がその様なことを・・・。」
「いたるところからの報告をまとめるとそういう計算になる。それだけの取り分があれば、国に出す量が多少増えても、問題は無いのではないか。徴税権自体を取り上げる、と言っているのではないのだ。」
「・・・。私一人で答えを出せる問題ではございません。皆と相談してから、結論を申し上げましょう。」
「わかった。いい返答を期待しよう。」
賈龍は劉焉と別れてから、怒りが込み上げてきた。
税を二倍どころか三倍出せというのだ。
これは、豪族たちの話を聞くまでもなく「否」という答えに決まっている。ただ、唯一、「徴税権を取り上げない」という言質が取れているのが救いである。
徴税権まで取り上げられれば、それは豪族という特権階級の崩壊につながるからである。税の増加を飲む代わりに、徴税権を担保する。そこで、妥協できるかどうかの話し合い、ということになる。
賈龍の下に豪族たちが集まった。
当然、最初は全員が「否」という答えになった。
しかし、徴税権が担保されるなら、それはそれで妥協点としてはいいのでは、という意見も少数ながら出てきた。そこで、賈龍は言う。
「俺たちは、馬相という小者を殺して、とんでもない化け物を引き入れてしまったのではないか・・・。徴税権の担保という約束もいつまで守られることやら・・・。」
皆そう思ったのか、誰も何も言わなくなってしまった。
賈龍は言う。
「今回の落としどころであるが、三倍は飲めぬ。せめて二倍で我慢しろ、ということと、徴税権の担保を書面で全員の連署をして保証してほしい、ということでどうであろうか。」
全員、賈龍のこの案以上の対案を思いつくはずもなく、この意見でこの場はまとまった。
―後日―
賈龍は、主要な豪族一〇家の頭領を伴って、劉焉の所を訪ねた。そして、話し合いの結果を伝えた。劉焉は苦しい条件ではあるが、当面、という条件も書面に盛り込むことで合意するに至った。
こうして、劉焉はまず、東州兵を養うことが出来る最低限の体制を整えることに成功したのである。




