第24回 劉焉、雒県に入る
馬相は勢いに乗って、一気に事を為し、天子を称した。
軍勢は数万とのことだが、その装備は非常に脆弱であるとの情報が劉焉に入ってきた。
劉焉は、中央から軍を預けられているわけではない。
劉焉がもともと養っていた私兵に今回の益州入りで募集をかけて応じた者を随行させた形となっており、その数は五百人弱であった。
とてもこれでは、いくら敵の装備が脆弱といえども、太刀打ちすることは出来ない。劉焉は趙韙に聞く。
「今後、我らが兵は増える見込みはあるのか。」
「はい。今回劉焉様の益州入りは、現地では歓迎されている模様。よって、益州の豪族や軍閥の力を借りれば、馬相を討つには十分かと思います。」
「私の益州入りが歓迎されている・・・。」
「はい。劉焉様は、ご自分が思っている以上に儒学の大家としてそのお名前は天下に知れ渡っております。」
儒学の大家が、長年、宦官に膝を屈してきたというのか、と自嘲的な笑いが出そうになったが、ここは抑えた。そして、劉焉は趙韙の言うことを信じることにした。信じない事には何も始まらず、動き出さないからである。
劉焉が益州に向かって進んでいると、早馬の使者がやってきた。益州の豪族である「賈龍」という者からであった。
劉焉は早速引見した。使者が言う。
「劉焉様。我が主の賈龍他、益州の有力な豪族は劉焉様のお越しを歓迎しております。まずは、その証拠に、天子を称するなどした国賊の馬相を討ち取りましたこと、ご報告いたします。」
劉焉は驚いた。
馬相には装備が脆弱ながら数万人の兵力があると聞き、現実問題として対処できるのか悩んでいたところ、なんと、既に討伐したという。劉焉は言う。
「馬相は数万の軍勢を有していると聞いていたが。」
「はい。しかし、所詮は烏合の衆。我が主賈龍を中心にした豪族の連合軍の方が、その実力ははるか上。今後は、劉焉様の益州統治のお役に立ちたい、とのことです。」
「それはありがたい・・・。しかし、どう報いればよいのか。」
「今回の事で、何かして欲しい、などと思っておりません。まずは、馬相の乱で荒廃が進んでしまいましたが、益州の州都である雒県にお入り頂ければと思います。先導は、私の方でさせていただきます。」
「何から何まで、世話になり申し訳ないが、よろしく頼む。」
こうして、戦いを覚悟していた劉焉たちであったが、血を流すことなく、益州の州都、雒県に入城したのである。
劉焉は「幸先やよし」と心中呟き、喜んだのである。




