第23回 劉焉、益州行きを希望する
「どうぞ、益州の悪政、その乱れ、私自ら匡すべく、益州牧への任命をお願いしたく。」
劉焉はこう言って、頭を床に何度も叩きつけた。そのせいで、床に血が滲みで出て、更には湧いてくる様に見えた。
宦官の「十常侍」筆頭の「張讓」が、さも、天子の様な態度で厳かに答える。
「劉焉よ。その心意気や、よし。そなたを、益州牧に任命する。まずは、益州を乱す者たちを、官、民、賊を問わず、討伐することを許可する。」
「ははっ!この劉焉、命に代えましても、天子様の為に益州に平和をもたらすよう、尽力致します。」
こうして、いよいよ、劉焉の益州入りの「戦い」が始まる。
何故、戦いかといえば、現在益州を治めているのは益州刺史である「郤倹」であるが、その悪政は中央まで聞こえてきており、郤倹を更迭して劉焉が益州牧に着任する、というのが劉焉の描いた筋書きである。
しかし、劉焉と郤倹は会うことも戦うこともなかった。
何故なら、劉焉が益州に向かう最中に、「馬相」という者が黄巾を称して反乱を起こし、郤倹を殺害してしまったのである。そして、あろうことか馬相は「天子」を称したのである。
劉焉は怒りに震えた。待中の董扶が言う。
「まさか、先んじて天子を称する者が現れるとは・・・。これは、一刻も早く倒さねばなりますまい。」
董扶は既に、劉焉に随行することが決まっている。劉焉が言う。
「もちろんだ。早急に益州に入り、馬相なる者を討たねばならん。しかし、私には軍事経験が・・・。」
ここが劉焉の弱点である。劉焉は、軍事行動をほとんど経験せず、ここまできた。兵法自体は、将来必ず必要になると先んじて学んできたわけだが、それを実践する機会は今までなかったのである。
董扶が言う。
「軍事は軍事の専門家に任せればよろしいでしょう。劉焉様は、大局の見極めをすればいいのです。」
「誰か、いい者はおるのか。」
「はい。太倉令の趙韙という者です。」
「太倉令と言えば、文官ではないか。私が欲しいのは武官だぞ。」
「趙韙はもともと武官をつとめていましたが、一時体を壊して現在の職務についています。今はすっかり健康になり、趙韙自身も武官に戻りたい旨の申請を出しております。」
「そういうことか・・・。しかし、武官としての実力、そこはどうなのだ。」
「辺境の地で異民族討伐の戦の指揮など、実戦経験も積んでおり問題ないかと。」
「わかった。一度会いたい。今夜にでも、私の所に連れてきてくれ。酒食を用意しておこう。」
―その夜―
董扶が趙韙を伴ってやってきた。
劉焉は二人を立って迎えた。
趙韙は恐縮し、拝礼した。劉焉が言う。
「趙韙殿、董扶からは話は聞いておるか。」
「はい。董扶殿より、私を武官として必要としてくれていると伺いました。」
「実際のところどうであろう。正直に言うが、私は軍事の経験が皆無と言っていい。」
「存じております。私は、劉焉様を儒学の大家として、以前より尊敬しておりましたので。」
劉焉は驚いて聞いた。
「私を尊敬してくれていたとは、真のことか。」
「はい。それ故、今回、お声をおかけ頂いたのも、自分としては運命を感じています。」
「そうか。険しい道を歩むことになるかもしれないが、その覚悟はある、ということか。」
「無論です。この趙韙、命を懸けて劉焉様に尽くします。」
こうして、益州入りの前に劉焉には文官の董扶、武官の趙韙という二人の部下が加わり、以後、劉焉を支えることになるのである。




