第19回 劉焉、劉璋の冠礼の儀を祝う
西暦一八一年(光和四年)、劉璋は二〇歳となり、冠礼の儀を迎えた。
宋路が劉焉一家を招待する形で、陽城山の宋路庵で行われることになった。
この話を聞きつけた洛陽の名士たちも、是非、我らにもお祝いをさせてください、ということで、宋路庵には、入りきれないほどの人が訪れた。
祝宴は和やかに進み、劉璋が字を発表する時となった。
劉璋は言う。
「この度は、私の様な若輩者の為に、これほどの人にお越し頂き、心から感謝いたします。」
少し間をおいて劉璋は続ける。
「私の字でございますが・・・。”季玉”と致します。」
父である劉焉が聞く。
「季玉・・・。いい響きの字だ。どうして、これを選んだ。」
「はい。“季”に関しては、私は末子なのでその序列を示しています。“玉”に関しましては、道徳を重んじる品位のある儒者になりたいという願いと、名の“璋”との相性の良さから選びました。」
「そうか、皆様方、本日より、この璋のことは季玉、とお呼びください。」
周囲の者たちは拍手喝采した。
祝宴も落ち着いてきた頃、宋路が劉焉のところにやってきた。二人してゆっくり話すのは久しぶりである。劉焉が言う。
「兄者よ。季玉をよくぞ導いてくださってありがとうございます。立ち振る舞いなど、二年前とは全然違う。」
「君郎よ。季玉はお前の様に、決して器用になんでもこなせる型の人間ではないが、地道に継続して積み重ねることに関しては、かなりのものがある。私は、大器晩成とみている。」
「そうですか・・・。末子である故、ゆっくり育ってくれて、一向に構いませぬ。今後とも、ご指導、お願い致します。」
「ああ。こちらも、今となっては季玉がいなければ生活が成り立たぬ。こちらこそ、よろしく頼む。」
こうして、劉璋の冠礼の儀は終わりを迎えた。
帰りの馬車で、妻の喬蘭に聞いた。
「季玉は立派になった。我が子たちの中でも、一番落ち着きがあるように感じたが、どうだ。」
「そうですね。あなたの言い方を借りれば、“暖かい風”の様な穏やかさを感じます。師である、宋路様のお導きでございましょう。」
「ほう、暖かい風か。なるほど。して、蘭よ。お前は他の三人の息子からはどの様な風を感じるのだ。」
「長男の範、次男の誕からは、真っすぐで吹き返らない様な実直な風、三男の瑁は、体は弱いですが、思いやりのある優しい風を感じますわ。」
「なるほど。範と誕は、年子であるからか似ているところが確かにある。もう少し器用であってもいいように思うが、真っすぐであることは悪いことではない。瑁は、体の弱さはもう、しょうがない。優しさを忘れず生きてくれればそれでよい。」
「そうですね。皆が仲良く暮らしてくれるのが、私の唯一の願いでございます。」
喬蘭はよく見ている、と劉焉は感心した。
しかし、まだまだ先の話であるが、劉範と劉誕には、避けることのできない「凶風」が襲い掛かることまでは、流石に誰の目にも見えていなかったのである。




