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蜀主二代ー三国志・劉焉と劉璋ー  作者: 涼風隼人


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第15回 劉焉、洛陽県令になる

西暦一七〇年(建寧三年)。

劉焉の陽城山での学問三昧は、実に八年間の長きにわたった。八年間の間に、自らが紹介状を書いて官途に就かせた者も多くいる。

「あの劉焉の弟子」といえば、それだけで箔がついた。


 兄弟子である宋路も、官界で歯を食いしばって奮闘をしていた。自分に才覚があると思っていない分、努力家であり、謙虚であることから、周囲からも信頼され、現在は司徒府の「祭酒」という儒学の教科を担う監督者の様な重職を任されるまでになっていた。「祝公の弟子」という以外、出自のはっきりしない者としては異例の出世といえる。


 そして、官界もさすがに劉焉をこのまま「隠者」にする気は毛頭なく、「賢良方正」の制度を使って、尚書台より「洛陽令」に任ぜられた。首都である洛陽の県令であるため、非常に重要な役目となる。


 洛陽に居を戻した劉焉のところに、早速宋路がやってきた。

 「君郎よ。まさか八年も山籠もりするとは・・・。もう、戻ってこないものかと思ったぞ。」


 「恐れ入ります。弟子入りしたい、学びたい、という者がひっきりなしに訪ねてくるので・・・。気づいたら八年、とうとう尚書台に呼び戻されました。」


 「そうか。陽城山の生活も満更でもなかったようだな。教えるのに忙しかったろう。自らの学問はどうだった。」


 「はい。私は儒者ゆえ、儒学を一から学びなおしました。その上で、これからの時代は激動の時代にならざるを得ないと考え、自分なりに兵法書にもあたりました。」


 「ほう、兵法書か・・・。奇遇だ。お前ほどではないだろうが、私も兵法書を入手して一人で学んでいた。」


 「やはり、兄者も。私は、兵法に手を出すなどけしからん、と一喝されるものかと思いました。」


 「学ぶべき基本は絶対に揺るがない。それは、儒学だ。しかし、時代の変化に合わせて学ぶことが増えていくのは当然のことと言える。師である祝公様も、そういう意味でお前に陽城山に行け、と言ったのかもしれぬな。」


 「確かに・・・。陽城山に行かなければ、兵法書にあたる、という考えには至らなかったやもしれませぬ。」


 「しかし、本当にいい時期に陽城山に行っていてよかった。」


「ええ。“党錮の禁”ですね。」


「党錮の禁」は二回記録されている。

 まずは、西暦一六六年(延熹九年)、宦官による儒者の弾圧事件であり、「濁流派」の宦官から見て「清流派」と目される邪魔な官僚や儒者たちは官職の剥奪から追放、投獄されるという大事件である。

 主導していたのが、劉焉も知る曹節や王甫という宦官であった。この頃から、完全に宦官が権勢をほしいままにする時代が始まったといえる。

 

 そして、一六九年(建寧二年)には、外戚である竇武や清流派の陳蕃が中心になり宦官排除に動き挙兵したが、宦官が偽造した詔勅により、逆に反逆者として打ち取られてしまった。

 その後、宦官は弾圧の手を緩めず、多くの清流派の者たちを逮捕、殺害、生涯官職につけない禁錮刑に処した。

 

 この粛清の嵐を、劉焉は陽城山にいることで、巻き込まれずに済んだのは幸いであった。宋路は、清流派にも濁流派にも属さない中立の立場をとり、この難所を乗り切って今があるのである。

 

 劉焉も宋路も、今は「宦官の時代」と認めざるを得なくなった。

 打倒宦官を声高に叫んだとしても、竇武の二の舞になるのがわかりすぎるくらい、わかっていた。

 

 劉焉と宋路は話し合った。

 まず、宋路であるが、今は儒学を教える立場にあり、その若手の官僚の卵たちが過激な思想を持って三回目の党錮の禁を起こさない様、導くことに注力することにした。

 そして、劉焉であるが、行政官の役目は初めてであり、こちらも宦官を刺激せず、民の為にやるべきことはやっていく、ということに決めた。

 こうして、劉焉は行政官として、改めて官途に入ったのである。

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