第1回 劉焉、誕生する
「旦那様!旦那様!やりました、男の子ですぞ!」
かなり興奮気味に家宰が知らせにやってきた。
「そうか・・・。男子であったか。」
静かに喜ぶ男がいる。
姓は劉、名は正という。
荊州江夏郡竟陵県で晴耕雨読の生活をしている。
現在は四〇歳である。二〇代の時は、洛陽にて中朗をつとめていたが、体調を崩して退官し、今に至っている。
今は、生涯をかけて打ち込んできた儒学を自ら学び、希望する者たちがいれば教えることが生きがいとなっている。
決して裕福ではないが、人並みの生活は送れている。
若い時はやはり立身出世する自分を想像したりもしたが、今はそういった気持ちは無い。
実際、退官してからも何度か官途に戻る機会はあったが、理由を作っては断りを入れていた。
劉正は、家宰に連れられ妻子に会いに行った。
妻は田冬という。既に三人の娘の母であり、今回初の男子は、第四子にあたる。田冬が言う。
「旦那様。ようやく、世継ぎを生むことが出来ました。」
「冬よ、本当によく頑張ったな。この正、心より感謝するぞ、ありがとう。」
田冬は劉正の優しい言葉にうっすらと涙を浮かべて感謝の気持ちを瞳に表しながら言った。
「旦那様、この子に名をお与えください。」
「うむ・・・。」
劉正はもし、待望の男子が生まれた場合に備えて、いくつか名前の候補を考えていた。
しかし、生まれたばかりの男子の顔を改めてみると、どれも似つかわしくないように感じてきた。
素晴らしく、静かで、安らかな感じを与える顔の赤子であった。
「よし、“焉”と名付けよう。この子の顔から、静謐と安寧、という言葉が出てきた。これらの言葉を一文字で表すと焉になるのだが、どうだろうか。」
「素晴らしいお名前、ありがとうございます。必ずや、焉を旦那様の世継ぎにふさわしい人間に育ててみせますわ。」
「冬よ、本当にありがとう。これからも、よろしく頼む。」
こうして、西暦一三〇年(永建五年)、劉焉は生まれたのである。




