第20話 働き者
戦いを見ていたオレは頭を抱えた。
「あちゃ~。あれでもやりすぎたな。見切りも間合いも禁止にすればよかったな・・・いや、いっそ本当に目隠しすればよかったか」
ハンデが足りない。
アマルの戦いを見てそう思ってしまった。
あいつの驚異的な実力は、もっと隠すべきだったかもとちょっと後悔した。
待てよ。
目を隠した方がもっと目立ってしまったかもな。
どっちにしろ。
出ない方が良かったんじゃないか。
あいつが化け物過ぎてさ。
◇
時間が経過して、お昼が過ぎて。
大会は大人部門で再開。
一回戦第一試合。
「それでは入場です。一回戦の第一試合を始めます。西側から紹介します。ヴィジャル騎士団の武闘家ウォン選手! 東側からは先程の子供大会で優勝した剣聖。その師である男。剣聖の師ルルロア選手です!」
紹介文がおかしい。
あれ、無職は!?
あれ、さっきまで選手のジョブって紹介されていたよね。
あれ、無職は?
「マジかよ。剣聖の師って・・・なんか無職で呼ばれるよりも恥ずかしいわ。大層な通り名になっちゃったね」
とオレは悲しい顔でリングに上がったのである。
これだったら紹介文、無職にして欲しかったな。
◇
目の前の人は、騎士団の人だけど武闘家らしい。
武器を何も持っていなかった。
「・・・よろしく・・・」
無骨な感じで話しかけてきて、右手を出してきた。
「はい。よろしくです」
オレも簡単に答えて、右手を出し握手を交わした。
「両者の挨拶が済んだので、試合を開始します。銅鑼を!」
『ガシャン』
となって始まる。
幾度か拳を交えてわかる。
この人はあまり強くない。
それになぜか武闘家の動き方じゃなかった。
手と足がおぼつかない印象を受ける。
滑らかさがないと言ってもいい。
動きが別な職種に感じる。
数度の殴り合いの後、至近距離になった瞬間、敵の声が変わった。
「ルル。聞いてくれ」
「うお! え。誰。ウォンさんじゃなくね?」
「俺だ。俺。エラルだ。一回俺を飛ばせ、ここで長く会話したら怪しまれる」
「お。おお」
目の前の人を突き飛ばした。
その後、男性はすぐに立ちあがり、戦う振りをしながら近づいて、オレと会話をする。
拳と拳を交換するかのように握り合う。
「よし。聞け。ルル」
「おっさん。あんた・・・変身か? それ?」
姿ががらりと違う。
一つもおっさんの要素が無かった。
「ルル、時間がないから聞いてくれ。お前に会うためにスキルを使った。奇術師のスキル『奇想天外』だ!」
「・・・ああ・・・あれか」
奇想天外は、変身スキルである。
人物やモンスターなど、見た目だけはそのものになれるスキルである。
ただし、見た目だけと言っているように、見た目だけが似て、その人物が使えるスキルは使えないので注意。
それと、人物の性格や口調を掴んでいないと、親しい人にはバレてしまうので要注意である。
「いいか。ルル。会場の外にオリッサがいる」
「え? 中じゃないのか」
「ああ。何故か外にいるんだ。そんで、王の周りにはマールヴァーがいる。この建物の中にはヴィジャルがいるぞ」
「なるほどな。しかし妙な配置だな。何故オリッサが外に? 王を襲うにしてはよ。外っておかしくないか」
襲撃をするつもりならば、外を固めるよりも、中から固めて外を除外した方がいい。
よく分からない配置だった。
「ああ。その通りだ。だから俺も真剣に調べていたんだ。でもこれ以上調べるには資金面がなかなか厳しい・・・兵士共を賄賂で操れんのよ。でも俺はもっと詳しくオリッサを調べることにしたいんだ。それに他の事も気になることができたから、もう少しだけ中に入りたい。このクーデターのような件には、何か裏がある気がする」
おっさんが真面目に働いてくれているらしい。
助かるおじさんだ。
「だから俺はオリッサの中を見たいんだが。それには金がない。準備したいものがあるんだ。後でくれないか」
「なるほど。わかった。後でお金やるよ。おっさん、上手くこっちに来てくれ。それにしても、あんた、よく変装してきたな」
「ああ、俺に対する監視の目も結構あってよ。オリッサは人を信じる場所じゃねえや。だから俺はルルを信じることにしたから、ちょいと命懸けでこの人をお借りしたって訳よ」
おっさんはウォンさんの体を指さした。
「へえ。その人自身は今どうなってんの?」
「眠ってもらった」
「どこに」
「自宅に」
オレはおっさんにわざと殴られた。
実際に戦っていないと怪しまれるのでなかなかの演技である。
「あんた、結構器用だな」
「おうよ。だからルル、情報はまかせとけ。がっちり手に入れたら、とんずらこくからよ」
「とんずらはすんのかい」
「当り前だ。こんな恐ろしい所にいられるか。そんじゃ、俺をぶっ飛ばしてくれ。負けるからよ」
「おう」
「あんまり本気出すなよ。いてえから」
「はいよ。ほい!」
軽く正拳突きを出した。
ぴょーんとおっさんが飛んでいくと。
「本気出すなって言ったじゃ~~~~~ん」
情けない声を出して場外に落ちたのである。
「いや、軽くのつもりなんだけど・・・・」
とオレは戸惑ったままリングを去ったのである。
◇
「勝者は剣聖の師ルルロアです。皆さん拍手を」
会場の大歓声の中で俺はリングを降りる。
西側の選手控室に帰ろうと、リングと控室にいくまでの道の廊下を歩いていると、観客席の上から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「「 隊長!!! 」」
その呼んでくれた人を見て、オレは珍しく破顔した。
懐かしい男女の声に、心から嬉しくなったんだ。




