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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
ジョブは関係がない 無職と英雄たち

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第19話 アホでも最強

 歴史図書館に行ってから二日が経ち。

 いよいよ依頼の本番、武闘大会の日となった。

 

 オレは今。

 都市の中心地にあるダルトン闘技場と呼ばれる馬鹿でかい施設の中にいる。

 ここは、ジャコウにもある闘技場に似ているが、大きさの桁が違う。

 どうやら、あっちの闘技場は学生用であったみたいで小さめの設計だったんだろう。 

 こちらの闘技場は、とにかく大きい上に、普段から使用しているのが分かる。

 至る所に傷が残っている。


 「へ~。普段も使ってるんだな」

 

 リングにも深い傷があった。


 ◇


 大会直前。

 選手控室にいたオレの背後に誰かが立った。

 振り返るとロン毛金髪の男性だった。

 無駄に白い歯を見せてきて、何故か親し気に話しかけてくる。

 知り合いなのか?


 「久しぶりだな!」

 「お、おお」


 え、誰?


 「今度は負けないからな。あの時の俺は、舐めていた」

 「そ、そうだったか」


 だ、誰?


 「俺はもう貴様を認めている! 今度こそ貴様を倒す!!」

 「そうかそうか。そうなるといいな」


 で、あんた、誰よ?


 「二つ勝ち上がれば貴様とだ! それまで負けるなよ。さらばだ」

 「おお! じゃあな」


 おい! 結局誰なのよ。

 そんなにオレと戦いたいならさ。

 まずは己の名前を言え。名前を!

 二つ勝ち上がったら対戦っていう情報しかないんだが・・・・。

 ま、いっか!


 とオレは金髪男が誰か分からないまま大会に臨むことになった。

 知り合いのような感じなので、今度あいつに会ったら、できるだけこちらも知り合いのふりをしなければ!

 オレが知らないって態度を取ったら、あんなに親しそうに話していたんだ。

 悲しくなるに決まってる。 

 あの白い歯が黒く染まっちまうよ。

 それはあまりにも可哀そうだ!! 

 ということで、オレは大会出場の緊張感がなかったのに、別の緊張感が生まれたのだった。


 ◇

 

 大会は二部制。

 一部は子供部門で午前中。

 二部は大人部門で午後からとなっている。

 

 子供部門の控室に立ち寄る。

 アマルの為にこちらに来たのだが、アマルがいない。

 と思ったら、部屋の隅にいた。

 椅子の背もたれに寄りかかって眠りそうだった。


 「おい! アマル」

 「・・・ああ、あ! お師匠!」


 アマルは俺の元に走ってくるときは子供らしく可愛かった。


 「アマル、いいか。泰然自若を使うなよ」

 「はい」

 「切り替え。出来るようになったよな?」

 「…はい。おそらくやり方は間違ってないと思います」


 一点集中している自分自身の心を乱して外す。

 それが泰然自若のスキルの外し方らしい。

 アマルが言うには、そういう事らしいので、オレではよく分からないのである。 

 

 「よし!!! それならいい」


 アマルの頭を撫でて、続きを話す。


 「いいか。お前が使用していいスキルは、見切りと間合いだけだぞ。他のスキルは使用禁止。それに桜花流も禁止だ」

 「・・・え?・・・それでは拙者、何も出来ないのでは?」

 「いやいや。オレ的にはな。これでもまだハンデが軽すぎる。正直、今のお前なら、目隠ししてやっと子供らと互角だと思うぞ」

 「またまたお師匠様は! ご冗談ばかりで。目隠しなんてしてたら、誰にも勝てませんよ。はははは」


 オレの話を聞いていないようなので、軽くチョップした。


 「いや、笑い事じゃねえ。お前はそれくらい強いのよ。いいな。相手をケガさせんなよ。軽く木刀を振れ」

 「・・・え? 軽く?」

 「ああ、本気で振るなよ。死んじまう」

 「またまた、お師匠様は~~。ご冗談ばかり・・・」

 「本気だ。アホ!」

 「いで!!! な、何するんですか。お師匠!?」


 今度は、アマルの頭を拳骨で叩いた。

 中々真剣に人の話を聞かない剣聖である。


 「お前な、自分の強さを理解しろ! 今のお前は、オレの通常モードでは絶対に勝てん!」

 「え? 嘘ですよね。お師匠様はお強いですよ」

 「ああ。英雄職の模倣があればな。でも、それが無かったらお前の方が強い! いいな。そんな奴が子供大会で技を使ってみろ。木刀で戦っているとしても、相手が生きてリングを降りられるか分からんぞ」

 「・・・わ、わかりました。お師匠様がそう言うならそうなんでしょう。技は使いません」

 「おう! 頼んだぞ。勝つことも大事だが、手加減することも大事だと思ってくれ」

 「はい」


 本当は手加減なんて武人としては相手に失礼である。

 礼儀に欠く行為だ。 

 でも、こいつの場合は違う。

 こいつは次元が違う。

 相手が英雄職でない限り、こいつには手加減をしてもらわないと・・・・。

 人の生き死にがかかってるのだ!!!

 力を制限してもらわねば困る!



 ◇

 

 本日は快晴。

 雲一つない空を見て、闘技場のリングを見る。

 凛とした立ち振る舞いのアマルは木刀を握りしめて決勝の舞台に立っていた。


 オレは鷹の目でアマルの顔を見る。

 そしてすぐに腹を抱えて笑う。


 「あ、あいつ。あの顔じゃなきゃいけないのかよ」


 アマルはアホ面をしていた。

 口が半開きになり、目も半眼くらいに瞑り、ボケ~ッとした顔をしていた。

 そう、あの顔にならないとアマルは泰然自若を自動発動させてしまうらしい。

 なんとも言いようがない・・・アホ姿だった。

 

 ◇


 「それでは午前の子供部門の決勝が始まります。皆さんお静かに」


 女性の声で会場に向けてアナウンスが流れた。


 「西から入場してきたのは、ジョー大陸に生まれた新たな剣聖、アマル!」


 実況解説席にいる司会者が紹介を始める。


 「東から入場してきたのは、我らのジョルバ大陸の名門貴族メーラ家の分家の次期当主。ルダ・パーラー!」

 

 紫色の髪を靡かせて、少年はさらに中央に向かって悠々と歩く。

 それに対して、先に中央にいるアマルはぼさっとしたまま立っていた。


 「では、両者が揃ったので、試合開始の合図をします。銅鑼を!」


 『ガシャーン』


 大きな音が鳴り、戦闘は開始された。


 紫の少年は、アマルに木刀を向けた。

 最初に宣言をしたかったらしい。


 「貴様! この私と戦う気はないのか!!!」

 「・・え・・・あり・・・ます」

 「なぜ、たどたどしいのだ。私を愚弄する気だな」

 「・・そ・・・そんな・・・気はありません」


 戦う気はある。

 だけど、普通にしてしまえば泰然自若が発動してしまう。

 だから、アホを演じている。

 いや、失敬。

 元々であった。


 「ふ・・・ふざけるな。馬鹿にするな剣聖!」


 ルダは剣を振るう。

 子供ではあるが、鋭い一閃だ。

 しかし、アマルはそれを余裕で見切った。アホ面で!


 後ろに顔を五センチ引くと、相手の剣がアマルの鼻先を掠めていった。


 「なに!? 私の剣を・・・この魔法騎士の私の剣を・・・ならば」

 

 ルダは剣を持つ右手とは反対の左手に魔力を集めた。

 

 「くらえ! ファイアーボール。乱れ撃ち」


 ルダは十個以上の火の玉をアマルに向けた。

 次々に飛んでくる火の玉。

 アマルは余裕で躱す。

 七個躱して、残り三個の火の玉の時に、アマルは飛び跳ねていた。

 空中では躱す動作が出来ないから、アマルはここで剣を使う判断をした。


 「仕方なし」


 木刀を抜き、火の玉三個を斬る。 

 刀ではない、魔法を木刀で斬るのだ!

 

 「なに!? 私の魔法を・・・斬っただと。木刀で・・・」


 目の前のありえない光景に、ルダは動きを止めて膝をついてしまった。

 自分の攻撃の全てが通用しない事実を受け止めきれなかった。

 

 「あなたの攻撃はこれで終わりでしょうか。では」


 アマルはいつの間にかルダの前に立っていた。

 終わりにしてあげようと振り下ろす準備を進める。

 腰の位置にある木刀をゆっくりと動かして、頭の上に。


 「終わりますよ。はい」


 目にも止まらぬ速さの攻撃にルダは反応しきれない。

 それでも必死に身を守ろうとして、木刀を自分の前に出せたルダ。

 しかし、根元の部分から木刀は壊れ、アマルの一撃はルダの肩に入る。


 「がはっ! お、重い・・・これ・・が・・剣聖・・の力・・か」


 アマルが繰り出した軽めの一撃でルダは気絶した。


 「勝者は、剣聖アマル!!! 皆様、拍手を。両者の健闘を称えましょう~」

 

 地鳴りのような拍手が会場に鳴り響き、午前の部は終了となった。


 



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