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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
ジョブは関係がない 無職と英雄たち

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第17話 負けた

 宿に戻った後。


 「うお。つ、疲れた。これが気疲れか……まさかの展開だよな」

 

 ベッドへダイビング。

 今までの疲れを癒そう。

 情報も整理しておこう。


 「お師匠様。どうしたんですか」

 「お! アマル。サンキュ」


 ここはアマルと相部屋なので、気兼ねなく休める。

 それにアマルはオレの為に、お茶を用意してくれていたらしく、ちょうどいい温度のぬるめのお茶を出してくれた。

 有難くいただく。


 「アマルさ。この国……大変なことになってるわ」

 「ん? なにがでしょう?」

 「もしかしたらさ。テレミア王か、ゲルグの命が狙われるかもしれん。いや、すでに両方が狙われているかもしれん」

 「え!? それは大変だ。さっそく知らせを」


 アマルは腰かけた椅子から立ち上がった。


 「待て、それには複雑な事情が絡み合ってるから容易には伝えられん。騒ぎになっても大変だから、後で俺から王にだけ伝える。そこで、アマル!」

 「はい。お師匠様」

 「うん! いい返事だ」


 即答の速度が異常だ。

 アマルはどうしてこうなったんだ。

 生意気具合が無くなっちまった。

 すげえ良い弟子になってる。

 なんか、マジでオレなんかの弟子になっちまったのか。

 どういうことだ。

 あの生意気剣聖が!?


 「お前にオレからの指示を出しておく。いいか。この国ではオレのそばにくっつくよりも、ゲルグのそばにいろ。ゲルグだけを守れ。オレがどうなろうがお前の任務はゲルグの命を守る事だ。たとえ、オレとゲルグの命が、同時に危機に陥った場合でも、お前が守るのはゲルグにしろ! いいな!」

 「わかりました」

 「ああ、お前がそばにいればどんな奴でも追い払えるだろう。普通の兵士にはお前を倒せん」

 「はい。王子を必ずお守りします」

 「ああ、頼んだぞ。アマル」


 アマルの肩を叩いてお願いしておいた。

 この頼りがいのあるアマルであれば、あの優しい王子様は守れるだろう。

 親衛隊が、王と王子を守っていようが、こいつが最後のピースとして、絶対に必要だ。

 剣聖が簡単に負けるようであれば、それはもう戦いの負けが確定の時だろうからな。



 そして、この日のオレは、早めの就寝をした。


 ◇


 翌日。


 「朝じゃ!!! 朝なのじゃ!!! 起きろじゃ」

 「んだよ。朝からうっせえな・・・ってジョルバ大陸に来ても、そういう風な起こし方するの。近所迷惑じゃないや。宿のお隣さん迷惑になるでしょ。鳥がピーピー鳴いてたらさ」

 「いいのじゃ! 余の声は美しい~~~~のじゃ!」

 「オレには、あんたの声が話し声にしか聞こえないからさ。あんたがどんだけ綺麗な声で鳴いているかなんて知らんわ! うっさいの。あんたの声。ただうっさい」

 「ひ、酷いのじゃ!!! え~~~んんんん・・・・チラッ」

 「チラッじゃないよ。ウソ泣き鳥。どこが神鳥なんだよ」


 こうして朝起こされるのが定番のオレ。

 こんなにレミさんがうるさくてもだ。

 隣に眠るアマルはぐっすり就寝中。

 アマルの眠りは、相当な深さがあるようで、ここ最近のアマルはイージスの生活に似てきたと思う。

 眠りに入りやすくなっていた。

 それはもしかしたら、初期スキルの使用が無意識のうちに負担になっているからかもしれない。

 そんな風に感じるんだ。

 もしや、仙人と剣聖のスキルは、体力回復が必須なのかもしれない。


 ◇


 その日の昼前。

 王は、テレスシア王宮の中の招待された部屋にオレを呼び出した。


 「ルル! 例の件、いいらしいぞ」

 「え? もうですか!?」

 「ああ、図書館にヨルガと共に行っても良いぞ。明日に許可が下りた。三日後が武闘大会だから、ちょうどいいだろ?」

 「それはちょうどいい。ヨルガさんと行ってきます」

 「うむ。気兼ねなく行ってこい。堂々としていて大丈夫だ! テレスシア王の許可があるからな」

 

 王はオレと話して楽しそうであった。

 許可が下りたことがよほど嬉しかったんだろう。

 でもそんな所悪いがオレは、おっさんから聞いた事情を王にだけ伝えた。

 王の耳に近寄って、内緒話にしたのだが。

 王は驚きもせずに次に話す時は、オレにだけ伝えるのではなく、大きな声で周りの人間たちにも聞こえるように言った。


 「そうか。お前も事情を知ったか。そうだ。ここでは政変が起きそうなのよ」

 「なんだよ。王はこの事態を知ってたのかよ」

 「ルル。オレたちの諜報部を舐めるなよ。ジョーの影部隊は、里の『忍び』だからな」

 「ん? あの里には侍以外もいるのか?」

 「ああ。オレの師のタイルは、忍び部隊の長でもある。タイルのジョブは忍び。それは知ってるだろ?」

 「そういや、爺さん・・・侍なのに忍びだったな。変だなって思ってたわ。なんだそうか。爺さんだけが特殊なのかと思ってたわ・・・なるほど。影の部隊長だったのね・・・」


 爺さん。体デカいけど、忍び部隊の長なのか。

 イメージでは小さい人が忍びなんだけどな。

 という偏見を思いついた。

 

 「…忍び部隊は目立たずに活動しているから、タイル以外のメンバーは影に潜んでいるんだ。里でも誰が忍びなのかは分からないようになってるぞ。あそこにいる人間たちも、自分たちは全員が侍だと思ってるはずだ」

 「へ~。そうだったのか・・・」


 気のいい里の連中の顔を思い出した。

 その中で、忍びぽい人を探すが、皆明るい人たちだぞ。

 どこが影に潜んでいるんだ・・・とオレは思ったのである。


 「そんで、王はなんで事情をオレに教えてくれな・・・・ああ。そうか。わかったぞ王。オレの力を借りたかったんだな。最初からよ」

 「……ここでバレたか。さすがの察しの良さだな」

 「そうか。オレをゲルグの指南役にしてしまえば、ゲルグだけは守ってくれると。そう計算したな。王!」

 「・・・ああ、そうだ」

 「そんで、あの謁見の時……あんたはわざとオレに挑戦的な姿勢を取って実力を試したな」

 「ああ。そうだ。わざとルルを挑発して、俺と戦ってもらおうと思ったのだ」

 「んで。合格だったわけか」

 「合格もなにもお前は強すぎるわ。正直、俺はお前のことを指南役に出来てよかったと思ってるぞ。はははは」


 王の策略は、実力を測るための挑発から始まり、そこからオレの願いを叶えるという甘い蜜を垂らしてからの、ゲルグの指南役に命じたというわけだ。

 それで策略通りに、オレとの契約を勝ち取ったんだわな。

 王め。

 中々やるぜ。甘く見てたわ。 


 「チッ、始めから事情を言えよな。それだったらもっと早くに協力すんのによ。そういや、やけに金払いも良かったし・・・あああああ。もう、だったらこの分の金も勝ち取ればよかったぜ・・・王の方がオレよりも交渉で一枚上手だったのか。くそ!!」

 「はははは。そう考えるか。お前は俺が騙したことに腹を立てるより、俺に騙されたことの方に悔しさを覚えるのか! 相変わらず面白い奴だぜ。そういう所を俺は気に入ってるぞ。はははは」

 「オレはね、勝負に負けるのが嫌なのよ。あんたの職種は王! 商人じゃない。オレはジョブが商人じゃない人に交渉で負けるのが嫌なのよ。うんうん。これは金の問題じゃない。オレの誇りの問題だ!」

 「くくく。お前自身、無職の癖にな。商人と張り合うとはな。はははは。でもこれで一つ。俺はお前に勝てたな。なら戦いで勝てんでも良しとしようかな」


 王は満足そうに笑っていた。

 

 「そんで、王よ。これからどう動くつもりなんだ?」

 「ああ。まあ、奴らがどういう風に動くかはいまだにわからないからな。だから、俺は忍びを武闘会場に潜伏させている。念のためにな」

 「ほうほう。そうか。一流の手練れを武闘大会に出せないと言っていたのは、これか!」

 「ああ。侍は、元々里にいてもらう予定だしな。少しだけ持ってきて、忍びたちをメインに引っ張ってきている」


 王は里の連中を上手く使って護衛しようとしていた。

 だからオレの仕事を理解した。


 「わかった。じゃあ、オレは普通に武闘大会に出場して、普通に戦えばいいって訳だな。あえて大会で目立てということだよな」

 「そういう事だ」

 「自分の身の回りは自分で守るから、安心して大会に出て。ジョー大陸の王が推薦した人間が、上位に入ればよし。・・・か」


 オレの仕事は変わらず表彰台に入る事だった。


 「ああそうだ。表彰台くらいには入ってくれ」

 「わかった。出来るだけそうするよ。出来るだけな」


 オレはそう言って王と別れた。


 ◇


 王の許可を得て、オレとヨルガさんは、歴史図書館に入った。

 王城の脇にある巨大施設で、どの大陸の図書館よりも大きな図書館らしい。

 図書館の管理している司書のアルステルさんが案内してくれる。


 「こちら。禁書庫であります。昔の資料はこちらに、持ち出しは厳禁ですが。今回は特別に写しはいいらしいです。メモを存分にお取りください」

 「はい。今日ありがとうございますね。アルステルさん」

 「ええ、ではごゆっくり。私はこちらの扉付近にいます」

 「はい」


 アルステルさんは部屋の入り口の椅子に座って本を読み始めた。

 本が大好きみたいである。


 「それじゃあ、ヨルガさん! やっていきますよ! 徹底的に過去の文献を調べましょうね」

 「ええ。そうしましょう。ここで研究の基礎でも掴めれば・・・探しましょう。やりますよ」

 「おおお!!!」


 謎を解明しようか。

 本の捜索開始だ!


 ◇


 図書館を調べ上げてから一時間ほど経ち。

 ヨルガさんがぶつぶつ呟いた。


 「んんんん。ありません。ファイナの洗礼。それは、こちらの資料にも残ってないのか。では、もしや、その資料はあちらにでもあるのか・・・」

 「ヨルガさん、どうしました?」


 ヨルガさんは山積みになった本の中にいて、姿が見えない。


 「ルルさん。これはもしかしたらですね。あちらの方に資料が残ってるのかもしれません」


 ヨルガさんの手が、本の隙間から見えた。

 北を指さしている。


 「ん? それはジークラッド大陸ってことですか!?」

 「ええ。なので私らの考えを変えていきましょう」

 「????」

 「今から私は、古代魔法を調べてみます。そこから現代魔法に置き換えて、ファイナの洗礼を破る方法を考えてみます。なので、ジョー大陸の図書館にはない魔法書をメモしていきます。ルルさんには速記がありましたよね?」

 「いえ、筆記ならあります。ただ速記並みに速いですけどね」

 「なら、私が本を選ぶので、全部メモしてください」

 「いいですよ。ではどうぞ!」


 オレが承諾した直後から、どかどかと魔法書がオレの前に山積みになっていった。

 どんだけ書かせる気なんだ。

 とオレは心の中で思った。


 数分後。

  

 「うおおおおおおおおおお。めっちゃ忙しいわ! ヨルガさん! ここらでもういいんじゃ・・・」

 「いえいえ。まだまだです。これもこれも。あとこれも」


 張り切っているヨルガさんはオレが書き終わる前に本を積んでくる。

 

 「き・・・きつい・・・・戦うよりもきついぜ」

 「弱音は駄目ですよ。ほら、こちらも!」


 ヨルガさんはオレの師匠よりも厳しい人であった……。


 こうしてオレとヨルガさんは、歴史図書館でファイナの洗礼を調べ上げることは出来なかったが、別な方法で辿り着くための基礎はできたので、ここでの仕事は良しとした。

 オレは書き疲れでヘロヘロとなり、ヨルガさんは新しい魔法書にルンルンで宿へと戻ったのであった。



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