第9話 やっぱり家族なのよ
日曜学校の卒業試験は、その人がなりたい職業によって異なっていく。
オレたちが選んだ冒険者の卒業試験は、兵士になりたい子たちと同じ試験だった。
戦闘模擬試験というものが、最終試験となる。
これは個人戦でも行っていることであるが、兵士や冒険者などは、チームとして動くことが多いので、集団戦も実施されている。
それでこの内のどちらかにエントリーすればいいらしく、オレとイージスは集団戦に参加していたのだが、目立ちたがり屋のレオンは両方に参加していた。
最終試験の会場で、オレたちは仲良く並んで出番を待っていた。
これは、出番二つ前ぐらいからの会話だ。
選手控室にいるオレたちは戦いの出番を待っていた。
「レオ、イー。こうして、お前らとのんびり会話するのも久しぶりだよな」
「うむ・・・zzzzz」
「イーは話すの無理そうだな。どうだ。レオは順調だったか?」
「おうよ。もちろんまかせとけ。まずはな・・・」
外を見てレオンが指を折って数えている
深刻そうな顔をして、今戦っている人たちを観察しているのかと思いきや。
「ルワーナちゃんと、メルダ。それにあと、シンドラちゃんにだな。あとは・・・・あそこにいるキーナだよな。それに」
女性を見つけていた。
お誘いした女性たちの全てが、こちらに来ていない感じだ。
途中で不満そうな顔に変化して、指の数え方と言っている数が足りない雰囲気だ。
まあ結局、頭の中が女性だらけで、いつも通りの屑であった。
「おい。ナンパした女の子の話が順調だって言いたいのか! お前って奴は相変わらずだな」
「違う。ナンパじゃない。俺のガールフレンドだ!」
「もっと駄目だわ! 一人にしろよ! 馬鹿!」
親友は最低屑男だった。
「いいか。ルル。俺は一人に絞れん。この世に生きる全ての女性が、俺を愛してやまないから、その返事として俺が彼女たちを愛さなければいけないんだよ。だからさ。俺はだな。曜日事でだな・・・・そういや今日は、水曜日だ。今日はメリッサだわ。ここにいるかもしれんから、ちょっと客席に行ってくるわ!」
曜日ごとに彼女がいるらしいから。
七人もいるらしいです。屑&糞男だった。
「ああ。はいはい。オレは屑の意見を聞くのやめます。もう話しかけないでください。頼みます。二度と話を聞きません」
オレはナンパ男の意見を無視することにした。
軽蔑の眼差しを向けるのも勿体ないので、逆側に立つイージスに話しかけた。
「イー。大丈夫か。起きてるか」
「・・・うん・・・起きてるよ!・・・・たぶん」
「おいおい」
「ルル!」
珍しくイージスの声が大きかった。
「な、なんだ?」
「ルル、強くなった」
「え?」
「ルルから強さを感じる。他の奴らよりも数段強い。おらのスキルがそう囁いている」
「ん? スキル?」
「うん。おらの仙術の力で、『気配』ってのがある。それで感じる。ルル、強い」
「おお。すんごいスキルだな。それ。便利そうだ。凄いなイーは!」
「そう・・・へへへへ・・・zzzzz」
嬉しそうにしたイージスは、立ったまま眠った。
「おいおい。イー寝るなよ。そろそろ出番なんだからな。頼むぞ」
オレの肩に寄りかかって来たから、イージスの体を揺さぶってみた。
結構激しめにやっても、起きる気配なし。
試合が近づいているのにこれは良くない。
「ルル、俺たち三人だけしかいないけど、いけるよな?」
女性を探し終えて戻って来たレオンが、オレに聞いてきた。
「それは分からんけど。その前にだ。お前らだけ、自分のスキルを禁止されてるの。覚えてるか?」
「ああ。もちろんだ。でもよ、せっかくカワイ子ちゃんたちがいるのに。俺のカッコいい場面を見せつけられるチャンスなのにさ。もったいないぜ。必殺技が使えないなんてな」
ご機嫌になって戻って来たので、メリッサさんが会場のどこかにいたのだろう。
何も言わないけど、レオンの事だから大体分かる。
「ああ、そうですか。そうですか。どうでもいいです」
まず、こいつは無視して、イージスを見ることにした。
「・・・おらも・・・駄目だって聞いたぞ。使わないようにする」
眠りながらもでもイージスの耳には、オレたちの会話が聞こえているらしい。
なんとも器用な男である。
「よし、なら忘れんなよ。二人ともいいな。絶対に技を使っちゃダメだからな。にしてもだ。相手がたしか13人だっけ。明らかに俺たちの時だけ。相手との数の差がエグイよな。いやあ、先生たちもさ。俺たちに勝たせる気がないぞ。これはさ」
「まあ、なんとかなるっしょ。観客に可愛い子がいればさ」
「それはお前だけだろが! 阿保か!」
まあ、こいつは無視でお願いします。
頭が真っピンクなんで、気にしないでください。
「・・・おらもいる・・・zzzz・・・・・」
君も大概にして欲しい。
イージスは、立ったまま寝た。
「ふ、不安だ」
これはもしや俺とレオンのバディでの戦闘になるのかと思い、一抹の不安どころか、百抹はあるだろうね。
そんな言葉ないけど・・・。
◇
戦闘開始前の入場の鐘が鳴る。
オレたち三人は選手控室から闘技場へと向かった。
ここの観客席にいるのは、日曜学校の生徒とその親御さんたち。
結構な人数が闘技場の観客席にいる。
注目度の高いお祭り試験だからかもしれない。
そして、オレたちの入場入り口側の観客席には、いつもの二人がいた。
「お~い。気張れよ。負けても笑ってやるからなぁ。ニシシシ。そんなに緊張すんなよ。お前ら~~」
ミヒャルが、冗談口調で声をかけてくれた。
オレたちの緊張をほぐそうとしているようだ。
「イージス、起きてくださいね。これから戦うのですよ! レオンはしっかりしてくださいよ。女性に目移りしてはいけませんよ。目の前の敵と戦うのですよ! ルルは、いつも通りに、あなたなら何でも出来ます。信じてますよ。ルル。頑張ってルル。頑張ってみんな!」
エルミナが恥ずかしそうに大声を出していた。
その最前列で前のめりに応援する姿は、めっちゃ可愛いの一言で締めくくるのは惜しい。
語彙力が無くて申し訳ない。
美人で清楚で優しくて、頭もよくて、料理とか雑事とか、ほぼ何でもできる完璧超人エルミナ。
彼女は男性にモテ過ぎても仕方ないのに。
そう言えばと、オレはここでチラッとレオンを見た。
そう。不思議に思っていることがある。
こいつはエルミナのことだけは、ナンパしないのだ。
今のレオンは、女性の声援には、手を振って愛想を振りまいているのに、エルミナの声には、ただ頷いただけで終わったのだ。
女性であれば手当たり次第に手を出すこいつが、エルミナとミヒャルについては素っ気ない態度で、オレやイージスと同じように接している。
もしかして、レオンもだけど、オレたちのことを友達ってよりも、やっぱり家族みたいに感じているのかな。
そうだったら嬉しいよな。
女好きは辞めてほしいけど。いや、浮気の方がもっと辞めてほしいけど。
いやいや、この際、女好きのことは別にいいや。
オレに害ないし。
オレたちは、応援してくれた二人にだけ手を振った。
まあ他に手を振る相手はいない。
誰も応援には来てくれないのが明確だ。
だって、オレたちの家族がここにまで来られるわけがないのだ。
ここに来るには、とにかくお金がかかる!
小さな村の村人にゃ、出せるお金なんてない!
親父! お袋!
見に来れないだろうけどオレ、頑張るよ。
無職だけど、これから頑張るよ!
決意新たに、オレは卒業試験に挑んだのである。