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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
ジョブは関係がない 無職と英雄たち

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第9話 工夫をする事

 「スキル、山の恵み! ほい。ほい。ほほいのほい」


 三日目。

 丸太小屋の近く。

 背丈がまだ大きくない木々に向かって、ディディさんが、真昼間から変な踊りをしていた。

 両手を顔の前で、ひらひらと動かして、酔っ払った人みたいにふらふらと移動する。 

 そして途中から片足を上げるスタイルの踊りに変化した。

 足が疲れてくると反対の足を上げている。

 

 「あれ、何してんだろ?」


 オレが疑問に思ってると、ヨルガさんが答えてくれた。


 「ルルさん。これは、成長促進の踊りです。ほら、見てください」


 ディディさんが踊っているのは6mくらいの木々にだけだ。

 少しずつ移動して、他の同じ大きさの木にも踊りを見せている。

 これらの木は、一週間前だとまだまだ木とも呼べないようなサイズのものだったらしい。

 爆速成長をして、このサイズになったようだ。


 「大きくなれ。なれ。大きくなれ。なれ」


 踊っている彼を見ると、凄いふざけてるように見えるんだけども、本人としては真剣らしい。

 確かになんとなく木が大きくなっているような気がする。

 木が伸びているよりも、確実に枝が伸びているのが分かる。

 段々と、大きくなっていって、重さで下に下がっている気がした。


 「こんなもんかな」


 ディディさんが汗だくになっていた。

 テキトーそうに見えて、疲労する踊りらしい。

 山を越えても息があがらなかった人が、今は一つ息が弾んでいる。


 「ディディさん。これで木を生やしているんですね」

 「うん。わの仕事だね。木には困らないようにしたくてね」

 「そうでしたか」

 「準備運動したし、ちょっち体を動かしたいわ。ルルさん。付き合ってもらえるかな」

 「え? 走りですか?」

 「ううん。模擬戦がいいかな」

 「戦いですか!? ディディさんが?」

 「うん。ちょっと付き合ってくれると助かるね」

 「はい。いいですよ」

 「無手でもいい?」

 「ええ。いいです」

 「んじゃ。やろう」


 オレとディディさんが模擬戦をすることになった。


 ◇

 

 山の神。

 戦うとなったらどういう感じになるんだろう。

 英雄職と戦闘をする事など滅多にないから、オレは少しワクワクしていた。


 「ほいじゃ。ルルさん。わ、いくよん」

 「ええ。お願いします」


 開始直後。

 ディディさんは腕を組んで走って来た。独特なフォームだ。


 「あの腕は?」

 「使わないから、大丈夫」

 「え?」


 腕を使わずに、攻撃をしてくるのなら足だと思って、下を警戒しようとしたら、ディディさんの頭が地面スレスレにあった。 

 

 「なに!?」

 「いくよん。ほい」


 頭が地面なら、足は上か。

 オレが視線を戻すと、彼の足が右から迫っていた。

 体を複雑に回転させているから、この蹴りの威力が凄まじい。

 防御の構えで完全に受け止めたけど、オレの体は後ろに吹き飛んだ。


 「ぐお。重い!?」

 「うん。ルルさん、さすがだね。強者の冒険者だ!」

 「いえいえ。そちらは、貴族じゃなかったでしたっけ」

 「うん。貴族の前には木こりだからね」

 「え? 木こりですか」

 「元は木こりの一家なのさ。二百年前はね」

 「へぇ」

 「だから、元々は体を鍛えるのが性分でさ! ちょっとは、運動しないと訛っていく」

 「え?」


 この人にとって、山を四つ越えるのが運動に入ってないのか。

  

 「いくよ~。スキル、直登!」

 

 オレに向かってくる姿勢が同じだったので、同じ攻撃かと思った。

 頭が下になって、上から攻撃してくるのかと思い、身構えると、ディディさんはオレの両足から踏みつけていった。

 足から太もも、腹、胸、肩まで、地団太を踏むように、小刻みに踏みつけてきた。


 「これも重い」

 「頑丈だ。凄い! じゃこれは? スキル、尾根」

 

 ディディさんは、連続踏みつけ攻撃の最後。

 オレの両肩を足場にして高く飛んだ。

 降りてくる勢いを使って、振り下ろしの蹴りを両首に当ててきた。

 狙いが見えたから、オレが両腕で一つずつ防ぐと、ディディさんは、地面に落ちてからすぐにオレと距離を取った。


 「うんうん。これで仕留められないのは、初めてだ。素晴らしいね。ルルさん!」

 「いやいや。オレはむしろあなたがここまで戦えることに驚いてます。ただの英雄職じゃない」

  

 山の神を舐めていた。

 これは一味違う英雄職だ。本来は戦闘系じゃないスキルの力を、彼が戦闘に消化しているんだ。

 

 直登に尾根。

 あれらは、本来山登りのスキル。

 ジョブの登山家のスキルで、山登りで移動加速するためのスキルだ。

 直登は、真上に。尾根は伝って横移動だ。


 これらを彼は、戦闘系にアレンジしているんだ。

 そうだ。

 スキルって、自分なりに変化させることが出来るんだ。

 なるほど。ディディさんって、既存の使い方に頭が囚われていないんだ。

 柔軟な思考に、色々な事に変化させる工夫力があるんだな。

 これらが、自分の成長に重要な事だってことだ。

 一個の視点じゃ駄目なんだ。もっといろんな面を見て、成長しないといけないわけだ。

 天才だけど、参考になるな。


 「ほいじょ。いくよ。次はね。頂上(てっぺん)だ」


 わざわざ宣言したってことは、自信があるってことだよな。

 どういう技だろう。

 

 「ふん!」


 今までの走りよりもより鋭い切れ味で、こちらに向かって来た。

 この速度を落とそうと、オレは地面にあった小石を蹴とばす。

 二、三。彼の顔面に向かうが。


 「いいね。その戦法!」


 ニコッと笑って、ディディさんはブレない体で、極小の動きで躱した。

 

 「マジすか。オレの石も、速いはず」

 「うん。速かった! いくよん」


 またまたディディさんの頭が地面スレスレにあった。

 だから、これはさっきの攻撃と同じかと一瞬思ったが、ここで思考を柔軟に持っていく。

 スキル名は頂上(てっぺん)だ。

 体の部位で頂上(てっぺん)は、頭しかない。

 という事は、これは脳天直撃の蹴りか!


 さっきの右の薙ぎ払いの蹴りじゃない。


 オレはすかさず防御を頭に構えた。

 両腕をクロスさせて、頭を守る。

 

 「ぬ!?」


 思った通りにオレの頭に彼の足が降って来た。

 この威力間違いなく化け物クラスだ。

 でも、オレが防ぐのを分かっているかのようだった。

 逆さになっているディディさんが満面の笑みをしていた。


 「うん。さすがだ。これでいいかな」

 「え? 終わりですか」

 「うん。ちょっと試してみたかったんだ。君をね」

 「そうですか」

 「不満そうだね」

 「いえ。不満ではないですよ。ただ、ディディさんの戦い方が面白くて、もう少し見て見たかっただけです」

 「そうかい。いや、これってね。先祖さんの教えでこうなっとるのよ」

 「先祖ですか」

 「うん。わさ・・・ちょっと座ってもいい。あそこのベンチに座ろう」

 「はい」


 二人でベンチに座ると、続きを話してくれた。


 「わの家系。ウォーキー家は、ウォーキーっていう人から始まったのさ」

 「はい」


 貴族になるために、最初の人の名を姓に使ったってことか。


 「ウォーキーが死んで、二代目の人から始まったのね」

 「はい」

 「んで、最初のウォーキーの子は木こりだったのさ」

 「さっきのですね」

 「そうそう。でも、初代の前のウォーキーは木こりじゃないのよ」

 「木こりじゃない? ああ、それはたしかに親子で同じとは限りませんもんね」

 「そうなんだよ。わの親もね。山の神じゃなく、登山家だったんだば」

 「へぇ」


 登山家から山の神が生まれたのか。

 まあ、見当違いじゃないからありえそうだな。


 「んで、ウォーキーはね。無職だったのさ」

 「え!?」

 「そう。だから、わは君が気になったんだよね。ご先祖様と同じジョブを持つ君がね」

 「え。いや、無職ですか。その人も?」

 「うん。彼は何も持たざるものだったらしい」

 「それは、どんな人なんですか!」


 オレは前のめりになって聞いていた。


 冒険者になって、無職の話を聞いた事がなかった。

 学校時代に、先生と一緒に調べて、資料を読んだことがあるけど、ほとんど意味がなかった。

 事実としてあったのが、ジョブルートがなくて、スキルを覚えない話だった。

 それ以外の記述がなかった。

 やっぱり恥ずかしくて後世に記録を残していないのだと思った。


 「うん。父たちからの話で聞く限りだと、君みたいな感じだ。ただ、君はダブルタレントなんでしょ?」

 「そうです」

 「彼は違うね。たしか、お人好しって言うタレントだった」

 「・・・・随分、分かりやすいですね」


 タレント名だけで、その人の想像がつく。


 「お人好しの効果は、人の為に行動をすっと、その行動に好影響をもたらす。結果を良くするんじゃなくて、好影響をもたらすって話だった」

 「なるほど。成功失敗に関わらず、何らかの効果があるんですね」

 「そういう事みたいだば」


 訛りが戻って来た。

 説明が終わりかけるようだ。

 ここで大体わかって来た。

 ディディさんは、真剣になっていくと訛りが取れるみたい。

 

 「それでね。わの家が貴族になったのは、彼がモンスターストームの予測をするようになったんだば」

 「予測ですか。それって、もっと昔からやってたんではないんですか?」

 「うん。やってたんだけど。彼が決め手らしくな。例えば。右巻き。左巻きというのを見つけたのも彼だったんだば」

 「右巻き? 左巻き?」

 「うん。赤い風が巻き起こる際に、どっち巻きかによって、ルートが変わるっていう事に気付いたのが彼だば。右だと北ルート。左だと南ルートって感じだばね」

 「へえ。そんなことが・・・」


 先人ってすげえな。

 色々な経験で答えを出したんだ。


 「それで、もう一つは、風の威力も計算したみたいでな。弱い場合は、短い距離で結ぼうとするらしいんだば」

 「距離とは・・・まさか。風が弱いから、ガルズタワーに向かう距離を短くするってことですか」

 「そうそう。それで、モンスターが少なくなった場合。次回への間隔が短くなり強風となる」

 「・・・なるほど。補充が足りないからか。次のモンスター補充を早めて回していく・・・じゃあ、ディディさん、前回が弱いんですか?」

 「そう。かなり弱めだったね」

 「なるほど」

 「そうだね」


 異例の短さになったのは、そういう事か。

 前回から三年は短いもんな。


 「あ・・・じゃあ、もしかして、その・・・」

 「そうだよ」


 オレが言いにくそうにしたら、ディディさんは察した。


 「君は気付きが早い。だから優秀だよね。無職の人って、何かに気付くのが早い人がなるみたいだね」

 「・・・そうですかね」

 「うん。ウォーキーも何かを調べるのが大好きだった人物だからね。それと君の予想通りだよ。あの時の赤い風は過去一番の風だ。モンスターを攫って進みたいから、山越えをしたんだば」

 「やっぱり・・・強烈な風だったんですね」

 「そう。だから妹は命を賭けて、風を捻じ曲げたんだ」

 「威力を弱めれば、障害が少ない最短距離を移動するからですね?」

 「うん。わの妹はそれを知っていたから、可能性に賭けて全力を出したんだば」


 そうか。

 奇しくも、ウォーキーの予想を、子孫である彼女が立証したという事か。

 

 「うん。それで辛気臭い話をしたかったんじゃなくてね」

 「あ、はい」

 「君は工夫次第でもっと強くなるってことが言いたかったんだ」

 「工夫次第ですか。やっぱり」

 「お。気付いてくれていたのか」

 「ええ。あの戦い方は、元々のスキルじゃなくて別の使い方でしたから。変だなって思ってましたよ」

 「うん。君にはお節介だったかもしれないけど、伝えておきたかったんだわ。無職は、無能じゃない。わの先祖が証明しているしのさ」

 「無職は無能じゃないか」

 「そう。結局、ジョブなんてものはお飾り。本人次第だと思うんだばね。わはね」

 「・・・・そうですね。オレも自慢にはならないけど、自信にはしてみようかな」

 「うん。そうなれるように頑張ろう。ウォーキーのようにね」

 「ええ。頑張りますよ」


 ディディさんが、オレに会ってみたかったってのは、先祖様と同じジョブを持つ男だったからか。

 自分の源流となる人物のジョブが大変珍しいものだから、会ってみたかったわけだ。

 

 それにしても、その流れを汲んで、最終的にはこの人のような英雄職を生む。

 しかも貴族となってだ。

 ということは、やはり人は努力次第。

 そして工夫次第ってことの表れか。


 オレはちょっぴり自分に自信を持つことにした。

 ちょっと変わった人から、勇気を貰えたんだ。


 

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