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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
ジョブは関係がない 無職と英雄たち

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第5話 重戦士の王子

 王の自室に呼び出されて、他にも爺さんたちがいるのに、オレが真っ先に話しかけられた。

 王はだいぶせっかちかもしれん。


 「すまんな。ルル。俺の呼びだしを受け入れてくれて、助かるわ」

 「いえいえ。お気になさらずに。王様・・・何用で?」


 王の態度が以前とは明らかに違う。

 言葉がラフであるし、頭だって軽く下げてくるし、でも立ち振る舞いには丁寧さがあった。

 あの時は、オレがどういう人間であるのかを試す意味合いがあったように思う。


 「早速用件か。無駄を嫌う男だな」

 「まあ、そうですね。わざわざオレみたいな奴を呼び出すなんて何か用があるんですよね」

 「まあな。では。座ってくれ」


 王の部屋の椅子に座って会話が続く。


 「要件からいくと・・・二つ」

 「二つ?」

 「ああ、ルルに頼みたいことがある。いいか?」

 「んんん。内容と条件次第ですかね。とりあえず聞きましょう」

 「よし。まず一つ目。俺の息子を鍛えてくれないか? そちらの剣聖アマルと共にでもいいんだ」

 「ん? どういうことですか?」

 「俺の息子のゲルグを育ててほしいのだ。数カ月の短い期間でもいい。ルルの指導が素晴らしいと聞いてな。あの子を多少なりとも強くしてほしい」


 王は、普通の父親の顔になった。

 子供に良い教育を、こんな感じの印象を受ける。


 「・・・はあ。いや、アマルと共にとは、どういうことでしょうか?」

 「うむ。アマルとゲルグ。この二人を共に成長させてテレミア王国の基盤を固めようかと思ってな。二人が協力し合う環境であれば、この国も安泰だろ」

 「まあ、たしかに。未来の王と剣聖が共にいればそうでしょうけど。そこにアマルの意思がないからな・・・どうすんのアマル?」

 「え。拙者ですか。お師匠様」

 「いや。お師匠様って・・・」

 「今後はこれでいこうかと」

 「マジかよ・・・まあ、それはいいや。んで、アマルはそれでいいのか。この国に仕えるみたいになるようだぞ」

 「そうですね・・・拙者は・・・・今はお師匠様の修行が出来ればいいと思ってます。それにそのゲルグという方を見たことがないので、何とも言いようがありません」

 「なるほど。まったくもって冷静だな。アマル……本当に成長したな」

 「お師匠様にお褒め預かり、ありがたき幸せであります」


 アマルは本当に冷静な男になった。

 剣聖って幼くても凄いんだな。

 こう思ったことは内緒にしておこう。


 「ごほん。それでな」


 王の話には続きがある。

 そう言えば二つあると言っていたわ。


 「俺の息子の件は本命じゃない。実はこっちが本命だ」

 「本命?」

 「ああ。本命は、来年に開かれる武闘大会に出てくれないか」

 「武闘大会って・・・なんですか?!?」

 「うむ。来年、テレスシア王国で開かれる両国国交正常化記念150年での武闘大会が開かれるのだ。これは5年に一度開かれるのだが、今回は150年記念大会になっててな。その気合いが入ってるわけでな。そこに二人が出てもらいたくてだな。こっちも複数名出るが、こちらの兵士で勝てるかどうかは。まあ、あっちは騎士団が三騎士団もいるし。こっちで強いのは、侍の里の人間だからな。それで里の者は基本出せないから、剣聖だけでも出したくてな」

 「アマルを・・・いや、こいつまだ子供ですよ」

 「そう。子供部門があるのだ。そこに出したい」


 王は大人ではなく同年代の子と戦うから安心しろと言わんばかりだった。


 「そうか。子供部門か…でも、やばいなぁ。アマルが子供部門か」


 オレはその大会のイメージを膨らませた。

 子供部門でアマルが戦う。

 絶対に実力の差がエグイ。

 アマルはむしろ大人と戦ってもいいくらいなんだ。

 やばいな。相手の方がさ。

 かなり加減しないと怪我だけじゃ済まないと思うんだ。

 下手したら死んじゃうかも。


 「その・・・ぶっちぎりでアマルが強いですよ・・・いいんですか?」

 「うむ。よい。こちらとしては。未来の戦力はとても素晴らしいのだと。向こうにアピールできればいいのだ。戦争も抑止できよう」

 「なるほどね」


 オレは納得した。

 剣聖の実力で戦争を回避する。

 二国間が戦争するわけじゃないが、これはいい抑止力かも知れない。

 

 「で、なんでオレも出ないといけないんです?」

 「それは、国の戦士たちでは向こうの騎士団に勝てないと思うのだ。だから、アマルの師として出てくれれば、向こうの一人勝ちにはならんだろうと思ってな。要するに1位から3位までの表彰台を向こうに独占されるとしたら、こちらとしては面子がな」

 「なるほど。んじゃ。オレがもしその仕事を引き受けるとしたら、いくらです? オレを雇うつもりなんでしょ。今回は」

 「うむ。よく気付いたな」

 「そりゃ、王様が交渉の顔をしてますもん。すぐに気づきますって」


 王の会話の流れと態度が商人と会話しているようだったから、オレは気付けたのである。


 「100万でどうだ」

 「100万か……」


 正直、この任務の報酬金額が、いくらが妥当なのか分からなかった。

 とりあえず値が吊り上がるのかと思って、意味深に100万って言ってみた。


 「そうか。150は」

 「150ですね。まあ・・・まあ」


 50万も上がったよ。

 内心ビックリしてるのは隠してます。


 「う。なら200でどうだ。しかも、半分前払い」

 「200ですか……」


 マジで、前払いで100万だってよ。

 大盤振る舞いじゃね!

 すぐにでも返答したいところだが、なんとなく答えを渋る。


 「むむむ。それ以上か!」

 「いえ、それでいいです。じゃあ、一つお願いがあります」

 「お! 次は値段じゃなく条件か」

 「ええ。じゃあ、願いとして。あちらの国に行った時に図書館に入る許可を取るのに協力してくれませんか? ヨルガさんと一緒にです」

 「お! 珍しい条件だな・・・いいだろう。やろう。ヨルガにも命令しておく」

 「ありがとうございます。では、その契約内容でお願いします」

 「おう。ではさっそく明日から息子を」

 「はい。ではアマルと共にそちらに向かいます」

 「助かる! ルルは勝手に城に入っても良いとのお触れを皆に出しておくので、好きな時に城に来てほしい」

 「わかりました。では明日、お伺いします」


 こうして、この国の最高権力の場所に、オレは顔パスで入れる立場になったらしい。

 無職なのに。

 ここにいる兵士さんよりも明らかに、役職的には下っ端ですよ。

 なんて思ってることは内緒にしよう。



 ◇


 翌日。

 

 「わ。私がゲルグといいます。よ、よろしくお願いします。ルル殿」


 王子様はもの凄く控えめな男の子であった。

 目が左右に動きながら、時折オレを見て、目が合うと、またすぐに横に動く。

 恥ずかしがり屋だ!!!

 と直感で分かった。


 「うん! よろしく王子!」

 「え・・あの~~、ゲ、ゲルグでいいです」


 申し訳なさそうに言った。


 「そうか。じゃあ、ゲルグ。今日から修行するぞ。アマルと同じメニューはきついだろうし。実力が分からんから、まず軽く実力を測るわ。ほんじゃ、オレに打ち込んで来い。アマルはその場で素振りな」

 「はい、お師匠様」


 アマルは頭を下げてすぐに素振りを始めた。


 ゲルグは斧持ちであった。

 両手に片手斧を持った二刀流である。


 「ほう。面白いな」

 「い、いきます」


 数分後。


 「ゲルグ、お前意外と動けるんだな」

 「はあはあ。当たらない・・・・つ、強い・・・」


 膝をついたゲルグは息を整えていた。


 「いや、オレに攻撃を当てるのは無理よ。お前いくつだ?」

 「わ、私は16です」

 「そうか。大人ではあるんだな。職業は?」

 「・・・・重戦士です」

 「おお! いい職業だな」

 「いえ、支配者系統の職種じゃなかったんです。私は、王には向かないのではないかと」

 「ん? そんなことないだろ。なんだって頑張れば王になれるんだぞ。別に職種何てどうでもいいんだ」

 「え?」

 「いいか。ジョブはあくまでも天啓で得た職業だ。例えジョブが、なりたい職業に向かなくても、人は努力すれば何かになれるんだ。だからお前が重戦士だろうが、お前は王になれるんだよ」

 「そ、そうなんでしょうか・・・」


 ゲルグは、不安そうだった。

 昔のオレみたいだ。

 だから、昔のオレには、オレの親父の言葉が一番良い。

 だって、オレが立ち直ったのも親父のおかげだからな。


 「ああ、そうだ。オレを見ろ。オレなんて無職だぞ。無職なのにここの城に勝手に入ってるし、お前の指南役をやってんだぞ。ありえんだろ! ははははは」

 「・・・そ。そう考えるとそうですね・・・たしかに・・・はははは」

 「ああ。だから諦めんな。王に必須のものをこれから勉強していこうぜ。スキルが無くともその所作は身に着けることは出来るんだ。お前は素直そうだし、きっと良い王になるよ」

 「はい。頑張ります」


 ゲルグはとても素直であった。

 こりゃ、アマルよりは楽だなと思って修行を続けていることは、一番弟子であるアマルには内緒にしておこう。


  

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