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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
ジョブは関係がない 無職と英雄たち

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第1話 一人じゃ無理でしょ

 王都サーカンド。

 数カ月ぶりで戻って来た。

 涼やかな風も懐かしく感じるくらいに、サクラノでの体験は濃密だった。

 ルナさんの事情。アマルとの師弟関係。 

 どれもが貴重な体験だった。  

 まあ、暇がないくらいに、問題解決に一生懸命だったのだと思う事にした。 

 じっくりと見ることが出来たお城を見て、ふと思い返す。


 あの時。

 ここにある看板と言っていいのかわからない立札のせいで。

 全ての意識が持っていかれて、お城をまったく見ていなかったんだ。

 まあ、誰だってこの城よりも、あのへんてこな看板の方が気になるからさ。

 そっちの方が普通の感性だよな。


 なんて心の中で思っていることは内緒にしておこう。


 ◇


 城の前で。オレたちは集まった。


 「では拙者は、ジャコウへ行って参ります! 父上。兄上。アマル。達者で。ルルはまたあちらで会いましょうね」

 「「「うむ」」」」

 

 と三人は言ったが。


 「ええ・・・・・・・・・・って、おいぃ!!!」


 一度了承しかけたオレは、ルナさんにツッコミを入れてしまった。


 「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。ルナさんがね。たった一人でね。ここから大陸南の船着き場なんていけないでしょうが!!!! オレはてっきりですね。ルナさんはオレたちの謁見後にジャコウ大陸に行くのかなぁ。くらいに思ってたんですけど。なんで一人で行こうとしてるんですか。あなたたち。この人の方向音痴を忘れたんですか! どうするんですか。一人では迷子まっしぐらですよ。確実にジャコウに行けません!!!」


 これは三人に対して言ってる。

 でもオレはこの中で一番しっかりしているブランさんに体を向けている。

 気付いてくれ。ブランさん!!!

 ルナさんが道を歩く。

 それは迷子になるのと同義であることを!!!


 「「「・・・・あ!」」」


 三人は時間が経ってから、ようやく思い出してくれた。


 「すっかり忘れておったわ。ルナはとんでもない方向に行くからな」

 「そうでした・・・どうしますか父上」

 「うむ……ブラン。お前が連れて行ってやれ。アマルの謁見は決定事項だが、お前は席を外しても大丈夫だろう。それにあの王ならば、事情を説明すれば許してくれるしな」

 「そうですね。頭領である父上がルナを連れて行くのは回避せねばなりませんね………わかりました。我がやりましょう」

 

 二人の話し合いはとても有意義なものなのに。


 「皆で、なにを失礼な事を! 拙者は兄上の助けなどいりませんぬ。一人で港など・・・行けるに決まっているのです」

 

 ルナさんの会話はそれをぶち壊しにかかるのである。

 それに、港など・・・の後にある間が怖いです。

 自信がないでしょ。本当はさ。

 迷子になるんだからさ。

 いい加減認めてほしいよね。

 自分が方向音痴だって事をさ。


 「いいえ。だめですよ。姉上。拙者も姉上の方向音痴を見ておりますから。父上が最後まで送ってあげた方がいいでしょう。案内されましょうよ。姉上」

 「ああ、アマルもですか! 失礼ですね」 


 ルナさんは、プンプンと言って頬が膨れている。


 「いいですか。ルナさん。あなたはアマルを怒れません。決して怒ってはいけません!」


 オレは女神のように優しく諭すように言った。

 ちなみにエルミナをモデルにしている。


 「……それでは、ルナさん。こちらの看板は、どちらの方角を指していましたか? 覚えてますか?」


 オレはサクラノの場所を示す看板をルナさんには見えないように体で隠してみた。


 「・・・・左です!」

 「はい。間違いです。右ですよ!」


 堂々と言ってるのに、間違いです。

 その自信満々なセリフは正解している時に言ってください。

 そして看板を見せてオレは話を続ける。

 オレは、北にある城を指差した。

 

 「ではオレの指は、どの方角を指していますか? わかりますか?」

 「西です」

 「なんでだよ!!!!」


 彼女の的外れの答えに、ついついツッコミを入れてしまった。

 思わずエルミナの感じから、ミヒャルになっちゃったよ。


 「え、では南?」

 「だからなんでだよ!!! あんたね。さっきの爺さんの話を聞いてないの!? この城の屋上にあるあの斜めに刺さってる剣の柄が北の方角を指していると言ったじゃん。なにを聞いてたんじゃ。あんたは!!!」

 「ルル! 拙者。聞いておりましたよ。ですから西と」

 「なんも聞いてねえじゃん。もし聞いてたとしたら、どこの部分の話を聞いてたんだよ。西って言ってねえよ! おい爺さん、これはどういうことよ」


 オレは軍にいた頃の懐かしいやり取りをした。

 こんな感じでルナさんは毎回迷子になるミラクルガールであるのだ。


 「すまぬ。ワシの言う事を昔から聞かんのでな」

 「そうです。この子に勉学は無理なのだ。ルル殿・・・」

 

 二人が申し訳なさそうな顔をするものだから、なんかオレが悪い奴に思えてきた。

 

 「そ、そうっすよね。あなたたちも苦労してきたんですもんね。15までは一緒だったんだから」

 「そうだ。大変でな」

 「うむ・・・我も大変であった」


 一言だけど重みのある二人の言葉で全てを察した。

 おそらく子供の頃もこんな感じで迷子になったのだろう。


 「ならば・・・やはりここはブランさんにお任せで、いいですね。ルナさんをお願いしますね。無事にジャコウ行きの船に乗せてあげてください」

 「そうだな。任された。安心してくれ。ルル殿」

 「はい。ブランさんがいれば大丈夫ですね。はははは。安心だ、安心!! はははは」


 乾いた笑顔しか出て来ない。


 「ルル。それはどういう意味でしょうか」

 「はい。そのままの意味です!!!」


 そのままの返しで言い切ったらルナさんが怒った顔をした。

 ムスッとした顔のまま、右手を上げている。

 だから、ブランさんが間に立ってくれて、彼女の動きを引き留めてくれた。


 「む! 兄上・・・拙者もう少しルルと話すことがあるのです」

 「ない。お前の言い分はすべて正しくない。ルル殿が正しいのである」

 「な。ルル! ちょっとこっちに来なさい! あ、兄上~~。ルルに・・・・」

 「いいから、お前は話をややこしくするな。せっかくまとまったんだからな」

 「ああああ。ルル~~~~~。こら~~~~~」

 

 と叫ぶルナさんは、彼に引きずられるようにしてこの王都を後にしたのだった。


 「はぁ。では仕切り直して城の中に入るぞ」

 「はい。御爺様」

 「おう。爺さん案内頼むわ」


 色々あったが、ようやく王都の中に入った。


 ◇


 オレたちは兵士に案内されずとも爺さん一人で十分だった。

 爺さんにとってここは慣れた場所のようで、どこに行っても、顔パスだった。

 城の中なのに誰にも邪魔されずに進んでいけるから、この爺さんは思った以上にこの国ではかなり偉い人なのかもしれない。

 

 「爺さん。この王都城、やけにこじんまりとしているよな」

 「む。もう少し声を小さくせえ。失礼だろ」

 「まあ、そうだけどさ。中に入るとそれを感じるわ。天井低いしさ。それにオレの想像だと城の天井ってもっと高いもんだと・・・」

 「まあな。初代のアーゲント王が質素な方だと聞いたことがある」

 「ほう。じゃあ、四百年近い建物になるのか」

 「そうだ。だからこそ小さいのである。古くて増築や改築が難しいのだ」

 「はあ、なるほどね。で、オレはどこに通されるわけ?」

 「王の間だ。お主とアマルは謁見してもらわねばならんのよ。でもその前に」


 爺さんはひとまずオレとアマルを、王の間ではない場所に案内した。

 控室のような場所には、綺麗な服がずらりと並んでいた。


 「ここで正装になってもらう。アマルと共に王に会ってもよい格好にな。普段のワシはこのままの格好だが、今回はワシも正装する。だからルル殿も我慢してくれ」

 「いいよ。でも爺さん、ラフな格好で王様に会えるんだな。すげえな」

 「まあな。侍の里サクラノは、有事の際の秘密の軍隊なのじゃ」

 「ほええ。そうだったのか」

 「うむ。そこでワシが長じゃからな。王とは普段から密に連絡を取り合っている。それに今の王はワシの弟子だからな。ここには自由に出入りできるのよ」

 「へえ。爺さん、王様が弟子ってすげえな」

 「まあな。しかしな。お主に比べたらワシはそんなでもない。お主はこの剣聖を育てたんだからな。しかもたったの八カ月でな。偉業だ!」

 「え、育てたって言えば育てたが……まあ、アマルがオレの事を師と思ってるか知らんがな」

 「思っております! 拙者はルル殿の一番弟子だと自負しております」


 アマルが即答してきた。

 弟子でありたいと、目が輝いている。

 若者の目は、キラキラしている。


 「一番弟子だなんてな。そんな大層な・・・まあ、お前がそれでいいなら、そういう事にすっか」

 「本当ですか。拙者、光栄であります」

 「そんなに喜んでもらえたら、オレも嬉しいけどさ。でもよ。無職のオレが剣聖を育てたなんて、誰が信じるんだよって話だよな。お伽話にも出来ねえわな・・・・あははは」

 

 とまあ、雑談込みで服を着替えて、オレたちは王に呼ばれるのを待ったのだった。

 



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