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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
侍の里 剣聖の師は無職

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第17話 魔を封じる者

 ガルズタワー十五階。

 ここは外の螺旋道から入っていくことで到達できる場所。

 フロア全体が安全圏となっているので、モンスターが一切出現しない。

 ここで疑問がある。

 モンスターはダンジョン内の安全圏に、絶対に侵入しようとしない。

 人間の休息を見守るような感じになるんだ。

 冒険者をやって五年近く経つオレでも、いまだに解明できない謎である。

 

 でもオレが読んだ学説の中に、安全圏の壁や床には、モンスターが嫌がる何かしらの仕掛けが組み込まれているのではないかと書いてあった。

 モンスターの耳か、鼻か、目に不調をもたらすんだと思う。

 これはあくまでも仮説だ。

 とかくモンスターが嫌う何かがここにはあるようだ。

 まあ、いくら考えても結論は出ないので、オレは別に学者じゃないし、冒険者ということで気にしないでいこう!

 とりあえず、この安全圏のおかげで、冒険者はダンジョン内で唯一警戒をせずに休息を取れる場所であるのだ。

 

 

 ◇


 ガルズタワー十五階で、アマルがやらねばならぬこと。

 それはフロアの中央にある噴水で石をかざすことである。

 噴水の水が噴き出ている所に、刺さっている剣。

 そこに里から持ってきた石を触れさせると、持っている石の色が変化していく。

 この試練の達成条件であった。


 剣の成分と、水の成分と、今アマルが持っている石の成分が反応して、青い石がピンクの石に変わっていくらしい。

 里でその話を聞いた時には、不思議な現象があるもんなんだなと単純に思った。


 「姉上。ルル殿。これにて試練を完了させます」

 「ええ」

 「おう」


 オレたちが返事をすると、アマルは石をかざす。

 剣の先に自分の持つ石を当てる。

 すると青の石は、徐々にピンク色に変色していった。

 不思議な現象はなんともはや美しい現象であった。


 「おお。これでクリアか。アマルがしっかりやり遂げましたね。ルナさん」

 「はい、そうですね」


 アマルの背中を見つめて、二人で並んで立っていた。

 これでようやくアマルの無事が保証されるのかと、二人でほっと安心していた。


 オレがアマルから目線を切って、ルナさんに変えようとしたら、ここで肌を刺すような緊張感が出た。

 息の出来ない圧迫感が、現れる。

 安全圏であるはずのこの場に、戦場の匂いが急に出たんだ。

 そして、オレはこの感覚と似た感覚を忘れていない。

 ブラッドレイン。

 奴の時と全く同じ感覚だったんだ。


 「これは、なんだ。嫌な感じが・・・」


 レミさんが、俺の胸ポケットから、ひょこっと顔を出してきた。


 「あ奴め。こいつの事を言っておったのじゃ。ルル! 逃げろ。今すぐ、隣の女子を『蹴り飛ばせ』なのじゃ」

 「そういう事か!」


 レミさんの声と同時にオレは動いた。体を横に回転させて、彼女を蹴り飛ばす。


 「ルル、い、いきなり何を!?」


 彼女が飛んでいくのを見て、オレが叫ぶ。


 「アマル! ルナさんを下に連れていけ。急げ! 早く! こいつはオレが相手する」 

 「え!? な、なにが・・・な!?」

 

 石を変化させていたアマルは振り向いて事態を把握。

 オレの前にいるとんでもないバケモノのせいで言葉を失っていた。

 それは容姿もさることながら、この存在感と威圧感があるからだ。

 人を死に誘うかのような雰囲気が、この怪物から出ている。



 ◇


 ルナさんがいたはずの場所にそのモンスターが現れた。


 顔と翼が悪魔。角がユニコーン。

 足が馬。体が人で、ほぼほぼミノタウロスの容姿に、左腕が三又の蛇となっている。

 バランスの取れない体と顔をしている凶悪モンスター。

 魔を封じる者(デビルキメラ)だ。

 近接最強のダンジョンの破壊神である。


 それがなぜ、安全圏に?

 オレは疑問に思っている場合ではなかった。

 ブラッドレインと同格の存在が今ここに現れてしまったからだ。



 「化け物め。なぜここに・・・」

 「が・・・ぐ・・・ご・・・ぎ・・・消す」

 「喋った!?」


 ここでレミさんがオレの司令塔になる。

 胸のポケットから顔を出したまま指示が飛ぶ。


 「ルル、騙されるなじゃ。今のは人間の真似をしとるだけじゃ。奴の基本は悪魔。人の心を惑わすのが、悪魔の基本戦闘術じゃ!」

 「そうか・・・そうだよな。冷静になれ・・・オレ・・・珍しく気が動転してるな・・・全力じゃなきゃ対応できんのだぞ。しっかりしろルルロア!!」

 

 敵から受ける影響は肉体だけじゃない。心もだ。

 手足の震えは奴が出していく存在感の力。

 恐怖を振りまく化け物だ。

 これが、愛嬌だったらどれだけいいか。

 

 オレは迷わずに勇者のスキルを全力解放した。

 黄金の光に包まれながら再度指示を出す。

 

 「この感じ、五分は楽にいけるな! アマルと共に、俺も成長していたか」


 勇者に久しぶりになって見ると、感覚で分かる。

 自分の体の調子がいい。

 成長していたのはアマルだけじゃなくて、教えていたオレの方にも成長があった。


 「よし。これなら時間が稼げるはず。アマル、ルナさん。下の階層に逃げ出してくれ」

 「いや、それではルル殿が」

 「ルル、拙者らも」

 「駄目だ。こいつは今までとレベルが違うんだ。こいつの格は、Sランク以上なんだ。対抗するには、英雄職の力を扱える者じゃないと駄目だ」


 敵の視線がオレに来ない。

 だから。


 「クソ。こいつも同じか!」


 弱い者から刈り取る気だと思った。

 デビルキメラはルナさんから消そうと移動を始めた。

 これは潜在能力も加味されている。

 今のアマルよりも、ルナさんの方が強いのに、ルナさんを狙うという事はそういう事だ。

 

 デビルキメラの短刀くらいに伸びている右の爪が、ルナさんを襲う。

 

 「ふざけんな。クソが」


 勇者のスキルで加速して、ルナさんの前に出る。

 奴の爪と爪の間に剣を潜り込ませることには成功。

 だがしかし、攻撃の勢いを食い止めることが出来ない。

 一気に押される。


 「マジかよ。力が違う! ブラッドレインの比じゃない。さすがは魔を封じる者だ」


 魔を封じる者。

 この肩書の意味は、魔法を扱う暇を与えない。

 近接大特化の超攻撃的スタイルから名付けられた。

 前進あるのみの肉弾戦の上に、魔法攻撃に対しての耐性がある。

 属性魔法から光、闇まで、とにかく魔法耐性が異常なのだ。

 だから、魔法使いを無効化し、魔法職の天敵として知られるからこその異名である。


 

 オレが爪を封じたので、敵の左側ががら空きに。

 だから、ルナさんが、隙をついてそこに突っ込んでいってしまう。

 戦いの経験が豊富であるからこそ、ルナさんはここがチャンスだと思いこんでしまったんだ。

 それは正しい。

 だが、こいつ相手だと正しくない!


 「駄目だ! ルナさん。そいつの左腕には、蛇の毒がある。掠っても駄目だ! 下がるんだ!」

 「え! な、ならば。桜花流 花霞」

 

 前に出るのをやめたルナさんの体が薄れていく。

 気配が消えて、霞んでいった。

 デビルキメラの三又の蛇は、その霞んでいるルナさんを捉えたが、そこにルナさんはいなかった。

 桜花流『花霞』は少しの間だけ自分の体を霞ませることができ、残像を現場に置くことが出来る。

 回避系の桜花流防御の技である。


 「アマル、頼む。ルナさんを連れて逃げてくれ・・・ぐっ。おいおい。ここから加速するのかよ」


 拮抗していたはずのデビルキメラの爪が再度加速してきた。

 オレの喉を切り裂こうとしていた。

 

 ここで、オレは咄嗟に体を捻じって左肩を差し出した。

 あの鋭い爪をいなすためには、肩を犠牲にするしかなかった。

 刺された肩から、血しぶきは舞う。

 出血は多少あるが気にする時間がない。

 

 「ちっ。この戦いではもう左肩には力が入らねえ」


 膝が地面に落ちる。しかし落としてはいけなかった。

 敵から一瞬でも目を離したオレの判断ミスである。


 「ルル殿。あ、姉上!!!」

 「しまった。ルナさん!」

 

 奴の次の行動が速すぎた。

 攻撃の後に瞬時にルナさんの横に移動。

 オレでも反応できない動きで、デビルキメラの右腕が彼女の腹を抉りにかかった。

 

 「桜花流 桜影」


 桜花流最高防御技術。桜影。

 自らの刀を使い、相手の攻撃の軌道を僅かに逸らして、ギリギリで身を守る技だ。

 格上相手に使用する桜花流の防御技であるが、いなす技術が非常に繊細である。

 普通の格上ならば、効果的な技だが・・・こいつは普通ではない。

 

 「ぐふっ・・・がはっ」


 相手の力が強すぎるために、彼女の脇腹に爪が掠った。

 そして掠っただけでルナさんは吹き飛んでいった。

 後ろの壁に一直線にぶつかり、ルナさんは意識を失いかける。

 

 「・・わ、私に構わず・・・に、げ・・てアマル・・・ルル・・こいつは・・・強すぎます」

 「ルナさん! おりゃああ、動けオレの体」


 必死に膝を叩いた。

 コンマ何秒では、先程のダメージが抜けない。

 オレはすぐに立ち上がれなかった。


 「アマルはいくな。お前は逃げろ。オレがなんとかする・・ごはっ。また血かよ・・」


 オレが必死に訴えても。


 「そ・・・それは・・・できない。拙者は二人を置いて逃げるなど・・・二人は大切な・・・拙者の・・・大切な人たちだ!」

 

 アマルに無視される形となった。

 





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