第15話 モンスターストーム
モンスターウエーブ。
それはジャコウ大陸の未曽有の災害の事。
モンスターウエーブは、ジャコウ大陸東のどこかに、赤い大波が現れて、モンスターを運んでくる災害。
だから、場所にランダム性があって厄介な部分がある。
それに対してモンスターストームは。
ジョー大陸にある未曽有の災害のことで、西から東へ一定の風が吹く大陸の中で、突如としてその一定の風とは違う。
高威力の爆風が湧き起こり、風は必ず大陸東へと向かう。
ウエーブと違う点は、終着点があること。
風の行き着く先が、ガルズタワーであり、塔とぶつかり合うことで、モンスターストームが弱まっていくというのがこの災害の肝だ。
だからモンスターと直接戦うというよりかは、大陸に住む人は竜巻の被害に遭わないようにしないといけないという点も、俺たちの大陸とは少し違う点である。
あと、同じ点だと。
この風も、モンスターウエーブと同じように一定の周期で起きる災害である。
このモンスターストームの始まりは、地面から出来た小さな赤い渦で、それが巨大化して天へと上るかのような竜巻となり、その通り道にいたモンスターを巻き込みながら運んでいく。
この赤き竜巻の目的は、ガルズタワーのモンスターを補充することである。
◇
10階から見えるジョー大陸の西側。
今、まさにそこに地獄の竜巻が発生しようとしていた。
赤い風の渦ができ始めていた。
「こ、これは!?」
「どうしました。ルル? さっきから止まって」
「ルナさん、ここは走ります。この下の九階に行っては駄目だ。風が直接入って被害が凄すぎる。もっと下に降りても、あのモンスターひしめき合う八階に向かうことは得策じゃない。ならば、このまま十五階のセーフエリアまで一気に行ってしまいましょう。あそこは東側にあるので風の影響はそんなに受けないはずです。これ以上の理由は走りながら説明します。急ぎます」
オレが走り出すと、二人がついて来てくれた。
「ルル殿。そ、そんなに慌ててどうしたのだ」
「アマル。お前は、モンスターストームを見たことがあるか?」
「ないです」
「そうだよな。山にはモンスターストームって来ないもんな。アマル、いいか。今あっちに見える薄い風の膜は次第に竜巻へと変化する。そして、あの風はな。ジョー大陸の平原部を荒らしていく竜巻なんだ。あの渦巻く風で、モンスターを巻き込みながら、移動してくるんだよ」
「運ぶ?」
「ああ。そうなんだ。あの風は運ぶんだ。そんで、その終着地点がここなんだ。この塔に向かって赤い竜巻が来る。だからこの場がモンスター地獄になるぞ・・・くそ、前回のを調べた時には三年前だったはず。なのにこのタイミング・・・ここの周期は七年なはず。なぜだ」
「・・・・」
アマルが黙ると、ルナさんが。
「では、モンスターウエーブのようなものですね」
「そうです。ルナさんもストームは見たことがないんですか」
「はい! ないです。話には聞いたことがありますが、里ではその竜巻の被害に遭うことはないのです。あれは山を避けていくらしいので、だから、王都が山脈に囲まれた場所に作られた。という話を昔に父上から聞いた覚えが薄っすらとあります」
「だからあんな変な場所に王都が……なるほど」
山脈に囲まれた王都を思い出した。
西から東へ移動するモンスターストームの被害を押さえるために、西に山があるあの場所は、その被害を抑えられるし、それに里のサクラノも山脈の東の奥にあった。
だからあの風の被害に遭わないように都市と里が設計されたのだろう。
先人たちの知恵は正しい。さすがである。
「それで話の続きですが、ここのモンスターたちは、気付いていたんですよ」
「何をです?」
「モンスターストームが近づいてくることをです。10~15階の全てのモンスターが下の階に避難していたんです。実は、あのミノタウロスとかも、本来は14階くらいのモンスターなんですよ。それが9階まで降りて、でも9階は南側にも繋がっているので、そこじゃ風の被害を受けるから下に降りてきたんです。その上で、1~5階のモンスターたちも、下の階では被害が甚大となるから、6階以上にきていたんですよ」
そうだ。だから・・・。
「だからオレが気付くべきでした。敵の行動のおかしさを早めに判断すれば」
「それはいくらなんでも、ルルでも無理でしょう。これほどのイレギュラーは、見抜けませんよ」
ミスをしたオレに、ルナさんが優しく言ってくれた。
「しかし、オレたちは先へ急ぐしかないですよね。ああ、どうやら最悪のタイミングでガルズタワーに挑戦したみたいです!」
「そうですね……でもいくしかありません。進みましょう」
ルナさんが前向きで良かった。
ちょっとだけ自分の心が落ち着いたら、アマルが外を指差す。
「ルル殿! 赤い風が!」
アマルが指摘してきたので左を向く。
西の空に赤い竜巻が起った。
「まずい。出来たら東側の15階に行きたいな。行けなくても切り札を使う。ルナさん。アマル! ここは進みます」
「わかりました。アマル。走りなさい。拙者が背を押します」
「了解です。姉上」
三人で急ぎ螺旋道を行く。
階層の方角を言うと、10は南側、11は南西側、12は西側、13は北西側、14は北側、15が一番長く、入りが北東側で、終わりが塔の内部に入れる東の入り口である。
「ルル、今は何階です!」
「西にいますから12階です。いそぎま・・・なに!? 加速した!? まずい。二人ともオレの後ろに」
「え」「な!?」
「早く、オレの魔法の後ろに入って」
オレは即座に魔力を練り、魔法展開をする。
西から来るモンスターストームに対して、風魔法『ウインド』を自分の正面に張った。
「風に風をぶつけて相殺して、モンスターストームをいなします。出来るだけオレの背に近づいて、何ならしがみついてください」
「わかりました。アマル、拙者の手を」
「はい」
ルナさんはアマルの肩を右手で掴み、左手はオレの左足を掴んだ。
アマルはルナさんに身を寄せながら、両手でオレの右足を掴む。
「よし、風をぶつけます! 衝撃に耐えて!」
赤い竜巻はモンスターを運びながら、オレたちの目の前にきた。
巻き起こっている風はガルズタワーの先端にぶつかり弱まったが、それでも強い風である。
そこにオレのウインドをバリア代わりにぶつける。
竜巻は右巻きで動いている事は確認済み。
だからオレのウインドは逆巻の左巻きにして、相殺に入った。
ぶつかり合う風は向こうが上。
オレの風魔法では、対抗するのも危うい。
互角にならないかもしれない。
「二人とも地面で踏ん張ってくれ。この風で、ストームの中に入れば・・・・でもその前にこのストームの風に体が持っていかれるかもしれん。踏ん張ってくれ二人とも」
爆風の中に入り込む寸前、右にいたはずのアマルの気配が消える。
「ううううううわああああああああああああ」
「あ、アマル!!! アマルーーー」
「あああああああああああああああああああ」
ルナさんの手から外れたアマルはオレの魔法の外に弾き出された。
「ルナさんこの風の障壁は残します。向こうの風は次第に弱まるはず。オレはアマルを救いに行きます」
「え、ルル!?」
モンスターストームの中に入るルナさんを置いて、オレはモンスターストームと塔の外側に弾き出されたアマルを捕まえに行った。
「ルル! そこは足場も何もない・・・む、無茶です。ルル~~~~」
外に飛び出したオレを心配してくれたルナさんは、モンスターストームの中に飲み込まれた。
オレは特大ジャンプを決めてアマルを追った。
「うわあああああああ。し、死ぬ!?」
「アマル! オレに掴まれ」
「ルル殿、な、なぜ」
「オレの手に・・・掴まれ」
「は、はい」
空中でアマルと手を繋いで、抱き寄せる。
この子の頭をオレの胸に置いて、オレは特訓してきた技を使う。
―――
学校の職員室で、先生とホッさんとオレでお茶をしていた時の事。
「ホッさん。ホッさんの初期スキルって何?」
「う? おお。く、苦しい・・・ええ~。竜騎士の初期は『跳躍』『足場』だ」
お菓子をのどに詰まらせそうになったホッさんだが、快く答えてくれた。
「ふ~ん。跳躍は分かるけど、足場ってなんだ?」
「うむ。説明する前に、竜騎士が空中戦が得意なのは知ってるな」
「ああ。もちろん。それにホッさんとも戦ったしな」
「・・・ああ、そうだな。それでなぜ竜騎士が空中を得意としているかというと、その足場が重要だからだ」
「足場が重要・・・ああ、もしかしてホッさんが空中で反復横跳びしてるのはその足場か」
「そうだ。足場はな・・・」
竜騎士の足場。
それは、四角い箱をイメージすることから始まる。
四角い箱の固さを変化させて戦場を飛び跳ねるのが足場の効果である。
ホッさんの空中反復横跳びの際の足場は、地面と同じ固さで考えている。
そして、ホッさんがバトルしている時や、空中を駆け上がっていく時はバネとして考えているらしい。
箱の中にびよーんと反発するバネが入っているイメージで、足場を固めて、そこに足を置いて跳躍のスキルを使って大加速するのが竜騎士の得意戦法であるらしい。
そしてこの二つの初期スキルが空中戦の主力となるので、必ず使いこなせなければならないらしいので、竜騎士は初期スキルからいきなり試されるのだという事みたいだ。
これが出来ねば、竜騎士ではないとホッさんが言っていた。
「へえ。すげえな。イメージはバネか」
「ああ。そこから大加速するイメージも重要だ。その足場の作りが良ければ、空から落ちることは絶対にないぞ。竜騎士は空を飛んでなんぼの職業である!!!」
「そうだな。たしかに、空を跳び続けられたらどうしようもないもんな。やっぱ最強クラスの実力者だな」
と、ホッさんは笑顔で教えてくれた。
そして、オレはホッさんという堅物で真面目な武人を理解しているからこそ。
――――
「足場だ!」
スキル『足場』を展開。
イメージはバネだ。
オレは自分の足元に小さな箱を用意できた。
そこから、跳ね返るイメージを箱に与える。
すると、その足場が一度沈んでから、バネのように跳ねた。
「うお・・・これか、やば。勢いがありすぎて、上に飛びすぎる」
「る、ルル殿・・・下が・・・」
「アマル、下を見るな。お前怖がりだからな」
完全に空中に放り出されていたはずのオレたちは、竜騎士の能力によって、モンスターストームに囲まれたガルズタワーに戻る。
しかし、すでに塔は、中心を隠すようにしてモンスターストームの渦に囲まれていた。
強風が塔の全てを包み込んでいたのである。
「ルナさん!!! 生きてますか!」
さっきまでオレたちがいた12階付近の空で、オレが叫んだ。
「い、生きてます。ルルのおかげで風の中に入れました。がしかし、ここは・・この中は・・・」
「ど、どうしました」
「無風なんです。しかし、上に何かいます。爪が見えます。それと大量のモンスターが上から降ってきます!」
モンスターストームの中心は風のない無風地帯らしい。
「上に爪? なんだそれは・・・・上からモンスターですか」
指摘通りに上を向いた。
すると、ルナさんが見えている爪の右の側面がオレには見えたのだと思う。
黒い雲の隙間とモンスターストームの赤い竜巻の外から、黒い鱗のようなものと、銀色の爪が共に見えた。
「あ、あれは・・・なんだ」
オレの肩に乗ったレミさんも驚く。
「あ奴はエルジャルク!? 深淵竜エルジャルクなのじゃ」
「・・・・な!?・・・あ、あれが伝説のエルジャルクだと!?」
オレはただ驚くしか出来なかった。




