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第7話 日々が重要

 通常、才能は一つ。

 一人に一つの才能が当たり前だ。

 しかし、オレの才能は、二つだった。

 探究者。

 職人気質。

 この二つを持っていたのだ。

 これは滅多にない事だと、先生は教えてくれた。

 二つ持ちなんて、何十億人に一人だろうと言っていた。


 「だからですね。私は、神がわざとあなたを無職にしたんだと思ってます」

 「え・・・どういうことですか?」

 「あなたのこの二つの才能。この二つの組み合わせが絶妙過ぎて、神は職種を選ぶのに悩んでしまったんじゃないでしょうか」


 あの半笑いの女神が?

 小馬鹿にしたような感じだったのに?


 「私が考えるにね。決して君を馬鹿にしたわけじゃないと思います」

 「ん?・・・どういうことですか?」

 「それはね」


 探究者と職人気質。

 この二つの能力の組み合わせが、正に青天の霹靂なくらいに、究極の相性を誇っているのだそうだ。

 

 探究者の力は、人の技を覚えることが出来るというものだった。

 ただし、覚えることが出来るのは、ジョブの初期スキルのみである。

 それだけしか有効範囲がなくとも、これはとんでもない才能だった。

 なんせ、人の職業は無限に近い。

 その数の初期スキルを覚えることが出来るのは贅沢というものだった。


 そして、職人気質は覚えた技のレベルを上げることが出来るというものだった。

 さらに、この職人気質は技に対する理解度と熟練度が上がると、本職のレベル以上のものにすることが可能となるスキルだった。 

 だからこの二つの才能の組み合わせは鬼凄(オニスゴ)である。


 「ルル君。例えばですが。ルル君の職種が戦士であった場合ですね」

 「はい」

 「私の予想では、戦士の技しか習得できないんだと思います。この才能があってもです」

 「???」

 「たぶん自分になにかの職種の色があると、誰かの技を習得するのに、かえって邪魔になると思うんですよ。だからこそ、神は君を無職にした。無職であれば何も覚えることがないので。君をわざと無職にして、何でも覚えることが出来る状態にしたのではないか。と思うんですよね。私の予想ですけどね」


 要は、わざと空っぽにしたのは、自分で技術を学べってことか?


 「ということは、先生! オレに見学を真剣にしろって言ってたのは。その技を盗むため?」

 「はい! そうです。何かのスキルを取得できるのではと思ったのですよ。どうです? ルル君は何かを取得した感じを得ましたか?」


 さすがに、どうやって覚えるのかまでは分からない。

 道が見えかけたけど、オレは行き詰った気がした。


 「わ。分かりませんね。どうやって人から技を得るんでしょうか。方法が分かりません」

 「んんんん。そこが難しいですよね。私も君のような無職の人を初めて見ましたし、君のようなダブルタレントの子も初ですし、それにその探究者という才能。私にはその才能がまだ途中なのではと思いますね。今のは覚醒前の状態ではないかと………ああ、しかし、どうやったら技を覚えられるんでしょうかね。以前、そのタレントになったことがある人が、資料を書き記して欲しかったですよね」


 先生は最後に笑っていたけど、悩んでいるのを誤魔化している笑いだった。

 

 どうすれば技を会得することが出来るのか。

 これが、オレの人生において最重要な課題であった。


 「……先生。そしたらオレ、冒険者に直接話を聞いてもいいですか!」

 「ん?」

 「覚え方は分からないけど、スキルをやみくもに覚えるんじゃなくて、冒険者に必要なスキルを学びたいです。それで、あいつらが取得しないようなものを重点的に学びたい」

 「なるほどね。その考えはいいですね。それじゃあ。さっそくギルドにいきましょう! レッツゴー」


 先生のフットワークが軽くて助かる。

 オレはこの人を心の底から尊敬していた。

 ちょっと頼りない時もあるけど、先生はいつも楽しそうで、こっちも一緒になって楽しくなってしまう。

 そんな面白い人なんだ。


 

 ◇


 冒険者ギルドで先生は受付の人にオレのことを説明してくれた。


 「あのお嬢さん。ちょっとここの冒険者の方にお話って聞いてもよろしいですか」

 「え? 何のです?」 

 「インタビューをしたいんですよ。この子が。いずれ冒険者になりたいんでね。冒険者ってどんな人がなるのか、どんなことをするのかを聞きたくてですね」

 「・・・ああ。そういう事ですか。いいですよ。少し待ってください。マスターに聞いてきますね」

 「はい。お願いします」


 数分後。すぐに許可が出た。

 受付のお姉さんはオレにウインクまでくれるような人懐っこい人であった。

 それと彼女は綺麗だった。


 ◇


 先生はそばにいるだけで、ここでの基本はオレ任せ。

 これが先生の基本の教えだ。

 自主的に活動することを目指した指導なのだ。


 オレは聞き込みを開始する。

 最初に普通に話せそうな戦士の男の人に、冒険者として、気をつける事や困る事などを聞いてみた。

 顔は優しそうで普通。

 身なりも「あ。この人、絶対に戦士だ!」と分かる服装をしてる。

 

 「え!? 困る事だって・・・そうだな。まあ、一に女だな。二も女だ。三四もなくて、五に女だな・・・・冒険者になって一番困るのは女だ。いいか坊主。同業者の女ってのはな。怖えんだ。それもめっちゃ怖えの。兵士になるよりも女にモテる職種かもと思ってさ。それで冒険者になったのが間違いだったかもしれんわ。お前も気を付けろよ。冒険者の女ってのはな。たくましいからさ。うんうん!」

 「・・は、はい。そうですか」


 この男の人は結局、頭の中がレオンと一緒でピンクだった。

 この後もずっと女性の話ばかりで、有益な話が出て来ない。

 オレの話・・・聞いてる?

 オレの話・・・理解してる?

 もしかして、冒険者って人の話を聞かないのかな。



 次に弓を右腰につけていて、顔に戦化粧をしているワイルドな女狩人に、今度こそ答えてくれるだろうと、先程と同じ質問をしてみた。

 

 「困る事ねぇ。そうねぇ。男がいないわ。どうしましょ。あたしね。ここで活躍すればね。イイ男がハントできると思ったのよ。この弓でね。でもなぜだかあたしには男が寄って来ないのよね。どういうことかしら・・・・あたし、男よりも強いのかしらね? ぼく? どう思う? お姉さん強そうに見える?」

 「は・・・はぁ・・・そ、そうかもしれないですね・・はははは」


 この女性もまた結局、男女間の問題の話をしてきた。

 ずっと男が欲しいとオレに愚痴を言って来たんだ。

 ねえ、オレの話・・・聞いてる?

 ねえ、オレの話・・・理解してる?

 オレは、この人の話の最後に乾いた笑いしか出せなかった。

 やっぱり冒険者は話を聞かないらしい。




 その後。

 色んな冒険者の方に話を聞いてみた。

 でも一つとして質問に対して、満足いく答えをくれた人物がいない。

 冒険者って底辺がなる職業なの。

 誰か、話の意図を読み取ってくれるような普通の理解力がある人。

 どこかにいませんかね。

 なんて思っていたオレが最後に望みをかけて、話しかけたのは、顔に傷がある凄く怖い顔をした戦士の男性だった。

 体も大きいし、その体よりも大きい斧を背中に背負っていた。


 「困る事! そうか。冒険者の冒険でっていう事だな!」

 「はい。そうです!」

 

 一番話を分かってくれなさそうな人が、分かってくれた。 

 最後に助かった!

 

 「そうだな。俺がなりたての頃の話でもいいか」

 「はい。ぜひ」

 「まずはだな。一番困ったのは荷物だ」

 「え? 荷物?」

 「うむ。重量オーバーという奴だ」

 「それはどういうことでしょう」


 このイカツイけど優しい戦士さんは、初心者の頃の話をしてくれた。

 彼は、冒険者になりたての頃からモンスターを倒す事は楽勝だったらしい。

 でも、その倒したモンスターから出る素材を持ち運ぶのが困難であったらしいのだ。

 ダンジョンなどのモンスターを倒しても、持ちきれないから途中で捨てたり、ボスと戦って倒してもこれ以上は持てないからって理由で、素材を諦めたりしたことがあったらしい。


 「へえ。なるほど。荷物って重要なんですね」

 「うむ。だから、俺はファミリーに所属してからその問題が一つ解決してな。助かった部分があるんだ」

 「ん? 解決ですか」

 「ああ。素材ってのはアイテムボックスに入れることが出来るんだよ。道具屋(ボマー)ならそれが出来るんだ」

 「アイテムボックス?」

 「うむ。ジョブの道具屋は初期スキルでそれを手に入れられるんだ。便利なんだよ。アイテム類をほとんど詰め込むことが出来るからね」


 この人はオレが疑問に思うことをすぐに説明してくれる。

 とても親切な男性であった。


 「なるほど。それは便利ですね。獲得した素材を全部入れられるってことですね」

 「うむ。だがここで一つ問題がある」

 「え。問題!? それはなんですか?」


 この人は更に問題点まで言ってくれる。

 イカツイ顔が勿体ない。絶対にイイ人だ!

 話しやすい!!!


 「ボスとかレア素材の大物だ。あれはデカすぎてアイテムボックスに入らんのもあるのよ」

 「そ、そうなんですか」

 「でも心配するな。ファミリーであればそこは問題解決する。運送屋なんかの初期スキルに、所持重量アップというものがあるんだ。ちなみにパワー系統の職種も後に覚えるぞ。これを複数が取得していれば、簡単に持ち運べるのさ。いいだろうファミリーって。ハハハハハ」


 なんかファミリー自慢をしたい人らしい。

 ちょくちょくファミリーを強調している。


 「なるほど。所持重量アップ……メモします」


 オレはこの人からとても重要な話を聞いた。

 いかつい見た目で判断してごめんなさい。

 あなたが一番話しやすくて、あなたが一番話を理解してくれました。

 と心の中で謝罪し。

 他の話しかけやすそうな人たちの方が一癖あったので、オレは人を見た目で判断することをここでやめたのである。

 人はジョブが全てじゃない。人は人。見た目でもない。

 親父の言ったとおりである。

 大切なのは自分勝手な先入観を持たない事。

 何事も柔軟に物事を捉えようと思った出来事だった。


 

 ◇


 オレは、その後も冒険者たちに話を聞いて、参考になる話を自分なりに組み立ていって、必要なスキルを取得しようと必死に勉強してみた。

 俺のスキル特訓はまず仮説を立てることから始まった。

 真剣にスキルの動きを見る。

 そのスキルの仕組みを理解する。

 そして、それを実験する。

 この三点ではないかと思い。

 実際にこれに沿って頑張ってみたら、何とかスキルを覚えることが出来た。

 

 最初に覚えたのは、都市でお仕事していた運送屋さんの所持重量アップである。

 オレはアルバイトと称して、その人たちがやる仕事をお手伝いした。

 それで訓練を始めたんだ。

 数カ月くらいかかるのかなと思っていたんだが、数日間真剣にアルバイトしていたら、取得できたというまさかのオチもあった。


 そして、オレはその後、所持重量アップのスキルが目覚ましい進化を遂げてしまい。

 それはたぶん、職人気質のせいだと思うが、一度にとんでもない量の配達をこなすことが出来るようになってしまって、仕事仲間の人たちから、この仕事に残ってくれと泣きつかれて、あそこの職場に引き抜きにあいそうだったけど、何とか丁重にお断りをして、事なきを得た。

 

 ごめんよ。運送屋のおじさんたち!

 オレのなりたい職業は冒険者なんだ。


 でもまあ、最初のスキルを覚えてしまえば、後は職人気質という才能が後押しをしてくれることが分かっただけでもこのお仕事訓練は大成功であった。

 あとは何回も集中して反復練習をこなせば、徐々にそのスキルの性能が上がっていくという仕組みも理解できたのだが大きい。


 こうしてみんなの役に立つための特訓を開始したんだ。


  

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