第11話 誕生 剣聖の師
アマルの肉体関連は素晴らしい伸びを感じる。
訓練での彼は、もはや一級冒険者と変わらない気がする。
ただし、実践になってしまうと、そのよかった動きが三級くらいにまで落ちてしまう。
これは困った事態だ。
アマルとは、圧倒的に力の違いがあるEやDランクのモンスターと戦わせても、アマルの動きが良くならない。
弱い敵と戦っても自信になってくれない。
実践であっても経験になってくれない。
ほとんどが無意味な戦いになっていた。
「アマル! いいんだぞ。見切りだって発動してる。間合いもだ。ルナさんから学んでおいてよかったな」
「うむ! 拙者、だいぶ見えてきたぞ。ぬしのおかげである」
対人訓練は、全く問題ない。
オレとの模擬戦だと、動きは滑らかだ。
ここだと、何も文句がない。
完璧な侍だ。
「よし、後はブランさんに教えてもらった。侍大将にもある片手剣と居合の扱いにも慣れるべきだな。あれらは戦いでは必須だろう。スムーズに刀を扱うのと、初撃の威力を底上げしておいた方がいい。よし! それでその後に、ゴブリンジェネラルを倒すぞ。お前はそこからがスタートだ。頑張れ!!!」
「・・・うむ・・・頑張ってみる」
褒めていた時は顔が明るかったのに、ゴブリンジェネラルの名前を出すと暗くなった。
やはり、モンスターとの一戦だと、緊張感が増すのだろうか。
憶病な部分が消えない。
憂いが消えないんだ。
◇
そこから、一カ月。
アマルの修行は、外から中に切り替えた。
里内で、ブランさんとのふれあいの中で鍛え上げるという事をした。
誰かに見守れることで、少しでも強くなってほしいと思って、修行を変えた。
あいつもそれに食らいついてくれて、ここでも順調に成長していた頃。
オレは、だいぶ里の人たちと仲良くなっていた。
どうやら、そういうスキルがオレの中にあるらしいよ。
スキル『仲良し』
みたいなものがさ。
まあ冗談だけど。
それくらい、オレは皆と打ち解けている。
よそ者を受け付けない。
侍の里で、自由に歩き回れているからだ。
お茶屋さんにて。
店の外の席で、お茶を頼んだ。
「ども。おっちゃん。いつものもらえる?」
「おお。ルルちゃんね。いいよ。ちょっと待っててね」
行きつけのお茶屋さんの旦那とは、阿吽の呼吸レベルで、仲良くなっていた。
オレのいつものは。
お茶と団子三本セットである。
「あらぁ、今日もイイ男ね。ルルちゃん」
「おばちゃん。ありがとね」
お茶屋のおかみさんは、オレが来るたびに、何故か腕を揉んでくる。
それも両手で先に肩を揉み揉みしてくるんです。
これってなに?
オレ、肩凝ってるとかじゃないよ。別に。
おばちゃんは一通りオレの腕を揉むと別の人を接客するのである。
「ほら。いつものだよ」
「おお。ありがとね。おっちゃん」
「ほら、この子にもいつものね」
奥から出てきたおっちゃんは、レミさんの分まで団子をくれるめっちゃいい人だ。
余った部分とか、売れ残った物を寄こしてくれるのである。
しかも無料で。
「おお。美味いのじゃ。みたらしじゃ。あんこじゃ・・・おお、今日はゴマもあるのじゃ」
おいおい。団子食べる鳥っているの?
喉つまらんの?
それに味の違いも喜んじゃってるよ。
グルメ鳥だよ。この人って人じゃないや。
って思っていることは内緒にしておこう。
「ふぅ。食ったわ! おっちゃんサンキュ!」
「ルルちゃん。また来てね」
「うん。またね」
空腹を満たすのに、お団子は最高のおやつだった。
レミさんと一緒に満足して、アマルの訓練に戻ろうとした。
◇
里の中をぶらりと歩いているとレミさんはオレの肩に乗った。
「で、レミさん。あんたいつになったら、ここから旅立つのよ。ずっとオレの肩にいるけどさ」
「余はジークラッドに行きたいと言ってるのじゃ。それまでルルと行動するのじゃ」
「ええ、マジかよ。だったらオレの肩にしばらくいる羽目になるぞ。だってオレ、魔大陸に行けないのよ。レミさんが言うにはさ。ファイナの洗礼ってやつを突破できないんでしょ」
「そうじゃな・・・・でもまあ、旅してれば他の方法でいけるじゃろ?」
何故かレミさんは楽観的である。
それにあそこを突破する以外に、魔大陸に行く方法があるの!?
あそこの白のベールを突破する以外に?
え、どういうこと?
それになんで行きたいって言ってるのに、オレにその方法を教えてくれないの?
でも別に答えてくれないレミさんに腹が立たない。
なぜなら、オレって冒険の答えを聞くのが好きじゃないのさ。
未知なるものは自分で調べて、自分で試して、自分で考えてこそ。
全部が冒険だからさ。
「……んんん。まあ、行ってみたいとは思うな。オレって冒険者だしな。冒険してみたいな」
「おお。そうじゃろ。なら、それまで待つのじゃ」
「なんだよ。レミさんは今すぐ行きたいって感じだったじゃん。何年かかるか分からないぞ」
「まあ、ルルたちの寿命から考えれば長いじゃろうが……余にとって10年、20年の数十年など屁でもないのじゃ。それくらい数分に感じるのじゃ」
「そうかい。そうかい。それならいいけどさ。オレはひとまずだけど……あの子の命を守りたいからね。冒険は待ってくれ。終わったら旅に出るからさ」
「そうじゃな・・・あんなに一生懸命じゃものな」
「ああ、何とかしたいよな」
「そうじゃな」
レミさんって、結構オレに似たような思考をしている。
鳥と人だけど、一緒かも知れない。
楽観的思考に、ほっとけないお人好し感。
それにこのレミさんも、お節介の世話焼きでもあるらしい。
この数カ月、一緒にいて気付いた。
毎朝必ず起こしてくるのだ・・・オレの親父みたいに!!!
◇
いつもの洞窟前の場所にてオレとアマルは対面でいた。
「アマル。ここを最後にしよう。お前はあいつを倒さんと、ガルズタワーに行ってはいけないと思うんだ。あれを倒して初めてお前は一歩先に進める。そんな気がするんだ。だから勇気を出して、一歩踏み込め。お前はその年齢にしたら強い。それだけは間違いない。でもな。お前が挑戦するのはガルズタワー。自分の命を守るにはもっと強くならないといけないんだ。いいな」
「うむ」
悩みながらアマルは返事をくれる。
クソガキだったけど、だいぶ成長してきたようだ。
「お前は剣聖だ・・・でも今はまだその卵だ! しかし、才能が羽化してくれれば、お前はこの世で最強クラスの剣士になれるんだ。自信を持っていこうぜ。アマル!!!」
「うむ」
ワントーン明るい声になった。
「いい返事だ。じゃあ、オレが連れてくる! 頑張れ!」
「わかった!!! 待ってる!!!」
今回のアマルはちょいと違う気がした。
背水の陣であるとオレが告げた時から覚悟が決まっているような気がしたのだ。
◇
「ごめんください!!!!」
いつもの洞窟内でいつものようにして叫ぶ。
オレはもう手慣れたものだった。
玄関先で友達を呼ぶくらいに、ゴブリンの呼び出しに慣れているのだ。
御勝手口まで理解している他人の家。
ここのゴブリンの巣穴は、それくらいに家具の配置すら覚えているくらいだ。
しかし、オレの呼ぶ声でぞろぞろと出てくるゴブリンたちの顔が、やけに疲れている。
『またお前かよ』みたいな顔に見えなくもない。
毎度悪いなと思うけど、ここでとりあえずのゴブリンの片づけをしておいて、ジェネラルを引っ張りやすくして置く。
そして、奥の間に到達して、ジェネラルに挨拶しようとする前に向こうから返事が。
「ぐべ・・・・が」
なんとなく言いたいことが分かった。
『お前、また来たんか』
これだと思う。
心なしか、ため息をついたようにも見えるからだ。
オレはついにモンスターの心が分かったのだ。
もしかして、これはレミさんのおかげか!
なんてな!!!
「んじゃ! いつものノックするぜ。ウォークライだああああああああああ」
『また、これか』と思ってそうなゴブリンジェネラルの視線が、オレに入った。
視線が入れば自然と体はオレに向かってくる。
攻撃せざるを得ないので、もうどうせこいつに当たらないのに、どうしてついていかなきゃならないんだ。
これも思ってそうだった。
洞窟の外まで引っ張って、アマルに声をかける。
「アマル! いけ! 今日は決めろ」
「うむ。やる!」
やる気を見せたアマルが、刀を抜き構えだした。
直立に凛とした姿勢を保つアマルは、前よりも確実に強くなっている。
後ろにのけ反ったり、前かがみになったりしていない。
完璧に美しい所作を見せてくれた。
「いい感じだ! いけ!」
オレの声に応えるかのように、アマルは敵の攻撃を待った。
自分から攻撃にいかずにいるのは、ビビっているのではない。
機会を窺っていた。
「ぎゃ。ぎおおおおおおお」
しびれを切らしたゴブリンジェネラルが走り出す。
ゴブリンジェネラルが持っていたのは斧とダガーの二刀流だった。
ゴブリンジェネラルは、先に右の斧を唸らせる。
アマルはそれを鼻先で回避。見切りを完璧に発動させていた。
『こいつが俺の攻撃を躱したぞ。いつもなら、受け止める事も出来ないのに』
ゴブリンジェネラルがそんな顔をした。
敵はアマルの成長に驚いているようだ。
その僅かな迷いの後、すぐに左のダガーを走らせる。
短い射程の刃しかないダガーの先端に、アマルは自分の刀をぶつけた。
これにより分かるのはアマルは敵との間合いを完璧に把握していた。
そうここまでは、順調と言っていい。
だが、ここからがこいつの弱点。
踏み込めるかということだ。
相手に向かって、一歩。
そこがあいつにとっての勇気の一歩である。
「はあああああああああああああ」
叫び、気合いを入れたアマルは、その勇気を振り絞った。
左足を一つ、敵の右足につけた。
「桜花流 五分咲き」
斜め一閃、桜花流五分咲きは、袈裟斬りである。
アマルは、勇気の一閃でゴブリンの肩から一気に上半身を斬った。
「ごうああああああ」
「や、やったか」
「アマル、まだだ。油断するな。そこからもう一つ、技を出せ!」
「う、うむ!」
アマルは態勢を整え、地面と平行にした刀で一閃を煌めかせる。
「桜花流 一分咲き」
アマルの刀は、ゴブリンジェネラルの体を斬り裂いた。
「ご・・・ば・・・・」
完璧な流れで戦いを制したアマルが、鞘に刀を戻す。
倒れていく敵を見て、アマルは静かに泣いていた。
「で・・・できた。拙者。倒せたのだ」
「おう。よくやった。これでお前は、剣聖への道の第一歩を歩んだぞ。いいかこれからだ。ここから頑張るぞ。真の剣聖になるまでな」
オレがアマルのそばに行くと、アマルは膝を突いて、オレに頭を下げた。
「・・かたじけない。ルル殿」
「どうした急に。ルル殿なんて」
アマルが急に大人になって、不気味だった。
「あなたは拙者の師である。あれほど情けなかった拙者を……根気強く育ててくれてありがとうなのだ」
「ああ。そんな事かよ。別に気にすんな。オレは当たり前のことをしてるのよ。お前に生きてもらいたい。それだけさ。だから頑張ろうな」
「うむ。頑張る。残り二か月。拙者、必ず15階に行き。生き残ってみせるのだ」
「おう! その心意気だぜ!」
と、こうしてアマルは、ゴブリンジェネラルを撃破した。
そしてオレを師と仰ぐようになり、ここから爆発的な成長を遂げることになる。
それでオレは、こいつが剣聖に相応しい男にするんだ。
剣聖になるんじゃなくて、相応しいにするわけよ。




