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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
侍の里 剣聖の師は無職

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第5話 やりきれば、こうなる

 翌日。

 クソガキの首根っこを掴んで、里の外に出た。


 「よし。クソガキ。ここから、修業だ」


 放り投げるとクソガキは受け身が出来なかった。

 これはまずい。

 戦いの基本中の基本が出来ていない。


 「いやだ。貴様に教えられたくない」

 「お前さ。死ぬってわかってんのか?」

 「・・・死なない・・拙者は強いんだ。他の子らよりも強いのだ。拙者は剣聖だからな」

 「ああ。ジョブだけはな」


 これもまずい。

 自分のジョブが優れているだけで、他の子らを圧倒できてるんだ。

 でもそれは子供の頃だから、アドバンテージがあるだけで、このまま大人になれば、こいつは糞雑魚だぞ。


 「お前は、この里の侍でもない。ただのガキだわ。他のガキよりも強くても、ただのクソガキなんだわ」

 「貴様・・・拙者を愚弄するな!」


 クソガキは刀を抜いて斬りかかって来た。

 気概だけは、少しだけ進歩したと褒めよう。


 「ほれ」


 斬りかかって来た刀の刃を、右手の人差し指と中指で挟む。

 

 「な!? し、白羽取り」

 「お前はまだまだよ。こんな程度の力しかない。いいか、本物の剣聖の太刀筋ならこうはいかん。教えてやる、お前の太刀筋が良くない。あと速度も、そこに至る動作もだ。全部が悪い上に基礎がないぞ」

 「貴様ぁ。また愚弄を」

 「愚弄じゃない。正直な話をしている。いいか。クソガキ。現実から目を背けるな。それにオレは、お前を馬鹿にしてるわけでもない。これから鍛えろってことだ。んで、お前は本当に十五階までいけると思ってるのか」

 「・・・いける。簡単だ」

 「馬鹿だな・・・ちょっと話してやる。ダンジョンの恐ろしさをよ」


 このクソガキにダンジョンの恐ろしさを紹介した。

 それはあのバイスピラミッドのクリアの時と、あのジャスティンの時の事件の事だ。

 最初のクソガキは楽しそうに聞いていたが、段々顔色が悪くなり、最後は恐怖していた。

 あの激闘は、生死の境目にいたのだ。

 オレがギリギリのところで、生にしがみつけただけ。

 ダンジョンとは一歩でも間違えれば、あちらの世界に逝く場所なんだ。


 「どうだ。きついだろ?」

 「・・・せ、拙者は、冒険者で言うと、どこの位置だ」

 「お前は三級だ。だからガルズタワーの一階でも正直きついと思う。あそこは、最低でも一級じゃないと駄目だ。それ以外は・・・説明できん」


 これで脅してみた。

 オレは、左目だけ開けて、こいつの顔を確認してみると、思いっきり動揺していた。

 遠回しの脅しが効果抜群だった。


 「・・・・う・・・し、しぬのか・・・せっしゃ」

 「ああ。死ぬ! このまま行けば確実に死ぬ! 確定だ」


 顔色が悪くなっている所悪いが、オレは畳みかけるように現実を突き付けた。


 「だから、オレが来た。お前の実力を引き上げて、オレとルナさんがフォローする。お前は剣聖なんだ。頑張ればできる」

 「・・・ほ、ほんとうか。貴様」

 「ああ。ただし、幾度か死を経験してもらうぞ」

 「は?」

 「死にたくなかったら、死ぬ気で頑張れということだ」

 「わ、わかった。拙者もやろう」


 その言葉を待っていた!


 「よし。じゃあ、お前の訓練はこの一週間。山脈走りだ。一日三往復する」

 「ど・・どこを?」

 「王都だ! 里と王都近くまでを往復するぞ。それじゃ、走れ」

 「え・・・」

 「いいから走れ! 生きたかったら、死ぬ気で走れ。体力が無ければ戦うことなど出来んのだ!」

 「・・は・・・はい」


 クソガキは走った。

 数百メートル走っただけで息切れを起こすようなガキでも、オレはその頑張りだけでは許さない。

 まだまだいける。


 「走れ! まだまだへばるな。王都なんてずっと先だぞ」

 「・・ぜぇ・・ぜぇ・・・し、しぬ・・・もう死ぬ」

 「人はこれくらいじゃ死なん。そんで、死ぬとか言える奴はまだ余力がある証拠だ。余力がない奴は話すことも出来んからな。まだまだいけ。頑張れ!!!」

 「・・お・・鬼だ・・・本物の・・・鬼だ・・・」


 しかしこの程度は序の口。

 全てに甘えていては、こいつは死ぬんだ。

 


 ◇


 王都往復走を突破したアマルは、オレとの山籠もりをしていた。

 二週間。

 これで、修行をするための基礎体力は完成しただろう。

 ここからは、基本の戦闘力をあげないといけない。

 なので、クソガキには木刀を持たせた。

 

 「ほれほれ。握りも甘いな。剣筋もブレてる。死にたくなかったら、命懸けでオレに攻撃しな」 

 「何故だ。何故当たらない。武器も持ってないのに!」

 「右足をここにだぞ。踏み込みを深くしろ」


 オレが軽くアマルの足を蹴飛ばす。


 「いたい。うるさい。いたい」


 痛いが二回も出た。やっぱり甘ちゃんだわ。

 今の蹴りを本気で出したら、その足だって、粉々になったのにさ。


 このクソガキに、オレの指導や教えを発動させても無駄だった。

 ここで自分のスキルを理解した。


 指導と教えの両方は、根本的な事だが、信頼してくれないと相手の成長に繋がらない。

 ジャックとクルスがよく成長していたのは、オレの事を信頼してくれていたからだ。

 それとフレデリカの力が最近になって急激に伸びたのも、あいつが最終的にオレのことを信頼してくれたのだと確信した。

 

 こいつを見て思う。

 こいつはオレを信用していない。

 一ミリでもいいから信じてくれれば。

 これじゃあ、いつまで経っても、成長せんのである。


 「駄目だな・・・お前、オレを信用できんか」

 「・・あ、当たり前だ。鬼だ。貴様は鬼だ」

 「はぁ。そんな態度じゃ、オレのスキルの効果を得られない。このままじゃ、お前が二級に行くのも怪しいわ」

 「なに!? 一つくらいすぐにでも上がるわ」

 「無理だな。お前、Cランクのモンスターを倒せんもん」

 「なんだと。倒せるわ」

 「そうか。そんなん言うなら、やってみるか。この山脈にいるぞ。Cランクくらいならな。気配があるからすぐに見つかる」

 「・・・え」

 「そうだな。それがいいか。やるか。命懸けの修行だもんな」

 

 思いついた限りのCランクモンスターで一番厄介な奴を選んだ。

 そいつの足跡を探るために山脈を歩く。


 「ど、どこまで行くのだ」

 「んんん。待ってろ。今探してる・・・・あった。こいつだな」


 目的のモンスターの足跡を発見。

 洞窟に続くだろう足跡を追っていく。

 アマルは不満そうな態度でオレを追ってくる。


 「よし、予想通りだわ。ここに洞窟がある。アマル、ここにいろ。連れてくるからな」

 「は? 連れてくる?」


 アマルを洞窟の前に置いて、オレだけが洞窟に侵入。

 必要のない邪魔なモンスターを斬りつつ、目的の奴を呼んだ。

 名前を呼んだんじゃないぞ。

 ウォークライで引き付けたのだ。


 洞窟の入り口に戻って、アマルの前にこいつを連れてきた。



 ◇


 アマルは例外もなくビビる。

 背丈も一緒なのに、相手の方が身長が大きいかのように見上げていた。


 「アマル。こいつがCランクのゴブリンジェネラルだ。オーク系統はキングだけど、ゴブリンは将軍だぞ。こいつがゴブリンの最高ランク帯だ。ちょうどCランク。倒せ!」


 ウォークライの影響をまだ受けているゴブリンジェネラルが、オレに集中して攻撃をしてきている。

 実は、その攻撃を躱しながら、アマルと会話している。


 「・・・は? はあああ???」

 「おい。いいから倒せよ。倒せるんだろ。C如きはよ。これを倒せないんじゃ、二級にもなれんわ」


 ちょうどウォークライの効果が切れた。

 ゴブリンジェネラルが、アマルを見る。

 当然だ。

 モンスターってのは勝てる奴からいくのが鉄則だからな。


 「・・・や、やってやる」


 アマルはオレの挑発に乗り戦いに入った。

 ゴブリンジェネラルは司令官として戦うことが多いから、肉弾戦が得意じゃないと勘違いされるかもしれないが、実はそうではない。

 こいつ自身に戦闘能力があり、ちゃんとCランク相当の実力を持つ。

 まあ、でもオークキングの方が素の実力が高い点は否めない。


 

 戦いに入ってすぐにアマルが緊張した。

 手の震えが剣に伝わっている。


 「ほれほれ。それじゃあ、奴に攻撃を当てられないし、攻撃も躱せんぞ。体の動きが固い」

 「・・・」


 足も反応が遅い。

 元々の脚力はあるのに、半歩分の反応が悪い。


 「駄目だ。お前、踏み込みが緩いんだよ。ビビりだ。ビビり」

 「・・・う、うるさい」


 オレの言葉よりも先に、後ろに引いていく。

 相手の圧に負け始めた。


 「下がるな! 立ち位置も。腰の位置もだ。腰が引けてるのが威力に繋がらん。戦いから逃げようと思うから腰が引けてる。勇気を出せ。剣聖だろお前」

 「やかましい・・・戦っているだろ」


 反撃が出来そうなところで一歩前に踏み込めない。

 どこか心に焦りといら立ちがあるのがアマルだ。

 オレが常にアドバイスをしているせいもあるかもしれないが、オレの話さえ聞いてくれれば、指導や指揮、教えの効果をそれぞれ順に発動させているから、非常にもったいないのだ。

 まあ、こいつがオレを毛嫌いしているから、無理な話だわな。


 「も・・・もう無理だ・・・・助けてくれ・・・・」


 根性なしは十分も持たずに戦いを止めようとする。


 「駄目だ。剣を置くな。死ぬぞ」

 「うわあ。も、もう無理だ」

 「そんな根性じゃガルズタワーは登れん。ダンジョンってのはな。一度入ってしまえば、誰も助けてくれないんだぞ。自分の事は自分でになる。だから、今のお前は、それをモットーにしろ。自分の事を精一杯やるんだ」 

 「で、できない」


 ため息が出るほどに、こいつは意思が弱かった。

 こいつはあの剣聖。

 あの! 剣聖なんだぞ。


 英雄職『剣聖』

 剣の達人の英雄だ。

 閃光と同列の才覚を持つ戦闘職最強クラスだ。


 ちなみに『閃光』は赤と青と黄色がいて。

 赤は弓。

 青は槍。

 黄色が剣である。

 なので、剣聖は黄色の閃光と同種の武器を扱うのだが。


 剣聖の力はどちらかというと勇者レオンじゃなくて、仙人イージスに近い。

 心を鎮め、冷静沈着に戦い、戦闘を有利に進める。

 無駄に動かずに、必要な時に動く。

 それに戦いではじっくり相手を観察するスキルが並ぶのだ。


 これに対して、黄色の閃光は激しく動く。

 相手のバランスを崩すほどの連撃で、手数で相手を圧倒するスキルが並ぶ。

 なのでどちらかという勇者と閃光が近い。


 なのに、こいつはビビりすぎて、相手の動きを隅々まで見ていない。

 それに、あのスキルを持っていない気がする。

 初期スキル『泰然自若』の反応がない気がする。

 剣聖が持つ心の強さもない。

 何か変だ・・・もしかして、才能が邪魔をしてる?

 まさかな。

 英雄職の人間のほとんどが、その職業になれるという才能なはずだ。

 変だ。


 なんて考えていると。

 ゴブリンジェネラルがとどめを刺す動きを見せていた。

 尻餅をついているアマルの首に向けて、自分の小斧を伸ばす準備をしていたのである。

 

 「うわあああああああ。し・・しぬ」

 「ちっ。弱いな。ふん!」


 オレが奴の斧を脇差で簡単に受け止めた。

 そして、この対面したゴブリンジェネラルはオレの顔を見て、戸惑った顔から恐怖した顔に変わったのだ。

 実力差を認識したか。 

 そんな風にオレが思った瞬間。


 「ごおおおおおおおおおおおおおおおおお。がごらあああ」

 

 山の中で、何かの咆哮が、反響して聞こえた。

 声の強度が高い。

 威圧も入ったような声に、ゴブリンジェネラルの体がガタガタと震えた。


 「ほう。Cランクがでビビるなら、ここらにAランクがいるみたいだわ。ここって、ダンジョンクラスの山脈だな。あの里。すげえところに家があんだな」


 オレが余裕で立っていると、後ろで腰を抜かしているアマルが情けない声で言う。


 「・・・に、逃げよう。は、早く」

 「いや、ここにいろ。逃げるとめんどくさい。あいつは今のにビビって洞窟に戻ったがな。後で仕切り直しだな」


 ゴブリンジェネラルが逃げ出した洞窟の方を指さす。


 「それにだな。俺たちがここで逃げると厄介だぞ。もし里まで逃げた場合、Aランクならすぐに追いかけて来るだろうからな。里まで迷惑をかけちまうから、ここで消すわ。お前はそこにいろ。心配すんな。Aくらいは余裕だわ。今度の相手は、海にいるわけじゃないし。同じ土の上。同じ土俵だからよ」


 警戒の構えを解かずにスキルを展開。

 相手を見ずに匂いで場所を確認して、出てくる方向を向いてから視野を発動。


 「あれは・・・」

 「ひ・・ひぃ。無理だ無理だ無理だ。あいつは・・・あの姿は」

 「ミノタウロスか…しかも亜種。だからAか。普通のなら、Bだしな。そうだよな。普通のだったら、さっきのゴブリンジェネラルがビビるわけないもんな」 


 じっくり見ると、おめめが可愛い。

 つぶらな瞳だ。


 「は、早く逃げよう。あれは里では青鬼と呼ばれる凶悪な怪物・・・父上たちくらいの強い侍が大人数で撃退する怪物だ」

 「ああ、そうか。なるほどね。青い体をしてるから青鬼ね……ん? 鬼?? 牛じゃないの」


 正面に来た青いミノタウロスを観察する。

 青の鈍い光沢の全身に、首筋に刀傷がある。

 たぶん、侍たちと戦った痕だろう。

 彼らが、こいつに深手を負わせたのだ。

 たぶん、あの傷はブランさんだと思う。

 彼の強さはたぶん準特級はあるからな。

 

 ビビり散らかしているアマルは腰が抜けたままだった。

 オレのズボンの裾を引っ張っている。

 なんともまあ、剣聖とは思えん情けない姿だ。


 「よし。アマル。オレを見てろ。こいつを見なくてもいいから。動きを参考にしろ」

 「は?」

 「戦いに入るぜ!」


 

 ◇


 ミノタウロスの正面に堂々と入った。

 懐に入ったと言ってもいいほど近い距離である。

 ほぼゼロ距離にいるオレは平然としているけど、逆にミノタウロスの方が戸惑っていた。

 今までの人間とは一味違う。

 ミノタウロスが、そう感じているのかもしれない。


 「おし。素手型だな。お前」

 「ぐおおおお」

 「そうかそうか。何て言ってるか分からん!!!」


 さすがに会話までは無理である。

 クルスならこんな感じで言葉なくとも分かり合えたのに、モンスターの言葉はやはり分からない。

 それは当然であるか!


 「ごおおおおおおおお」


 太く大きな腕から繰り出されるただのパンチ。

 それでも周りの風を巻き込みながら轟音を鳴らしてオレに迫る。


 「ほい。見切り! アマル。これが見切りだ。いいな、侍だけじゃなく、剣聖にもあるからな」


 見切りを発動。

 鼻先に太い青の腕が通り過ぎる。


 「お、おぬし。話していたら死んでしまうぞ」

 「大丈夫大丈夫。よく見とけって。お前の参考になるように動いてやるから」

 「な、なぜ。そんなに余裕で・・・」

 

 次に間合いを発動。

 脇差でミノタウロスの拳をいなす。

 わざと武器を使用し、相手との距離感を掴んだ。


 「これが間合いだ。いいか。お前は剣聖。ならば相手との距離感は大事だ。必ず目でも相手との距離を見るんだ。敵の攻撃感覚を探るのも大切なんだけど、何よりも目が一番よ。脳内にメモしとけ」

 「だ、だから、なぜそんな余裕で・・・」

 「そんで、ある程度敵との距離感を把握したら、いったん下がる。こんな風に」


 バックステップをして、距離を取った。

 ミノタウロスはオレを追いかける。


 「いいか。次に見せるのが、お前の参考になる動きだ。この力がおそらく剣聖に近い。いいか、一瞬で決めるから。よく見とけ」

 「ぬ。おぬしよ。あ、危ない」

 「目は瞑んなよ! 開いてろよ。花は咲けども実りはしない。桜花流 枝垂桜」


 オレはイージスの力を開放。

 仙人の動きと、桜花流枝垂桜を合わせた。

 ミノタウロスの拳をギリギリで躱した直後に無数の剣戟を花開かせる。

 ミノタウロスの四肢を切断した。


 「な!? なに!?!?」

 「よし、まあまあだな。別に英雄のスキルを解放せんでも倒せたんだけど、お前には参考になる動きだからな。お前はこれに近い力をだな。つけないと駄目なんだぜ! な!」

 「へ・・・な!? 拙者には・・・無理じゃ・・・・」


 ポカーンとした顔のアマルは座ったままであった。

 どうやらまだこの力のイメージは持てないようだ。

 

 

 

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