第6話 運命の先生
この世界に住む人々は、十二歳になると、とある権利が発生する。
それが、日曜学校へ入学する権利だ。
十二歳から十八歳までの間であれば、いつでも誰でも学校に入学できる便利なシステムがあるんだ。
四大陸には各々大聖堂があるとお伝えしたばかりだが、もう一つ重要なものがあって、日曜学校という施設がある。
この学校は、三年間の全寮制の学校で、ここで自分の職種や才能を理解して、自分がなりたい職業になるための訓練をする。
実に素晴らしい制度が、この世界にはあるのだ。
そして、この日曜学校のおかげで、どんなジョブを所持したとしても、なりたい者になる為に勉学が出来ることになっている。
これは手厚い支援と言ってもいいだろう。
しかもこの教育機関は無償で入ることが出来るので、貧乏な家庭でも一発逆転が起きたりする。
人々の生活をより大きく豊かにさせてあげようとする。
奉仕の精神が、この世界にはあるらしい。
だが、その教育費などを賄う財源が、どこからきているのかは謎である。
◇
オレたちは五人でこの学校に入った。
寮の部屋も一緒。
オレとイージスとレオン。
ミヒャルとエルミナ。
男女で別れたけどいつも一緒だ。
その日曜学校で、オレの人生は明るい道へと変わる。
それはとある人との出会いが重要だったんだ。
◇
「はい。皆さんの担任のホンナーですよ。よろしくお願いしますね」
「「「 はい! 先生! 」」」
ゆったりとした口調のホンナー先生が俺の運命の人である。
先生は、元々パッチリした目だと思うのだが、瞼が重くなりすぎて糸目のようになっていて、見た感じも、声を聞いた感じも、気怠さがある人だ。
やる気がないようにも見えてしまうけど、実際は生徒の為に動くいい先生だ。
彼は特殊職の「教師」というものを持っているらしい。
だから、先生は天職に就いている人なんだと思った。
他のクラスの先生は「鍛冶師」「大工」「戦士」「神官」などの内政やバトル系の職を持つ先生で、専門的な事を教える先生が多い日曜学校の先生陣の中で、オレたちの先生だけが「教師」という特殊職で、漠然としているようで、色々な事を網羅的に教えることが出来る人だった。
そんでもう一つ珍しいのが、他のクラスは三十名くらいなのにオレたちのクラスはオレたちだけだった。
「先生! なんでうちらはうちらだけのクラスメイトなの?」
当然の疑問をミヒャルが聞く。
「ああ。それはですね。あなたたちが非常に珍しいジョブをお持ちですからね。他の方じゃ教えられないのではという事になりましてね。私が担任になりましたよぉ」
先生がのんびり答えた。
「へえ~。それじゃあ、先生は他の先生たちに俺たちを押し付けられたってことですか?」
次にレオンが核心を聞いた。
「平たく言えば、そうですね」
先生はめちゃめちゃ正直者である。
「正直すぎませんか。先生!」
少し呆れたエルミナが珍しく語気を強めた。
「そうですかね。あはははは」
「・・・・先生・・・眠い・・・」
うつらうつらしているイージスが先生に堂々と眠たいと宣言した。
「あら。どうしましょ」
でも先生は怒らない。
普通にあたふたしてイージスを心配していた。
オレたち全員。
人とは一味も二味も違うジョブを持っている。
それはオレも例外じゃない。
こいつらも激レア職種だけど、オレも無職という激レアな職種である。
何をどう鍛えればいいのか。
自分も分からないけど、そちらも分からないという事だろう。
でもそのおかげでみんなと同じクラスになれた。
◇
先生と過ごして一か月。
分かったことがたくさんある。
それは、先生は戦闘系じゃない。
そして、内政系でもない。
ただ何事も物事を教えるのが上手い人だった。
あの馬鹿で有名だったレオンが、スラスラと本が読めるくらいに成長したし。
虫取りにしか興味がなかったミヒャルが魔法に興味を持ったし。
いつも穏やかでお淑やかだったエルミナが運動が出来るようになったし。
イージスは・・・・しょうがない。指導が出来ない。
こいつだけは難しいので、それは仕方ない。
まあ、総じてオレたちは実力が上がったような気がした。
「それでは今日も見学に行きますよ!」
「「「 は~い 」」」
オレたちの授業は一般常識などの座学が基本で毎日一時間くらいだった。
先生の授業は、その一時間で十分だった。
だって、頭の中にドンドン情報が勝手に入っていくからだ。
先生の授業は、そんな不思議な力がある授業なんだ。
なので、その一時間以外の余った時間は、他のクラスの見学や、学校外の課外学習として都市の中などを歩き回ることだった。
先生が言うには。
「君たちは、いろんな経験を得た方がいいですよ。それで何になるかを決めましょう。うんうん」
とりあえず最初は好きな事をして。
「そこから本格的に私が計画を立ててあげますよ。一年くらいはこんな感じで学習しましょうね。気楽にいきましょう!」
後で細部を詰める学習設計だった。
こんな感じで色んなことを俺たちに体験させたいと言ってくれたんだ。
そして、先生はオレにだけ。
「ちょっと。ルル君。ほいほい」
「え? 先生、なんですか?」
「ルル君は、皆よりも真剣に見学してください。色んな物をしっかり見てください。それがあなたの才を豊かにすると思いますのでね。この一年、食らいつくように人や技やモノを見ててください。あなたは必ず素晴らしい人間になりますからね。安心してください」
こんなアドバイスをしてくれた。
オレは、すげえ嬉しかったんだ。
先生が期待してくれていると思ってさ。
こんな人、こいつらと両親以外にはいなかったんだ。
そして、オレは他の四人にもこんなアドバイスがあったのかと聞いてみた。
でも、誰もアドバイスはないと言っていた。
だからオレはもっと嬉しくなったんだ。
先生の期待に応えようと見学の時にメモまで取って真剣に日々を過ごしたんだ。
◇
日曜学校で一年が経った頃。
「ではでは。皆さんのなりたい職業はなんですか!」
そう聞かれた時。
とうとうこの時が来たのかとオレは悩んだ。
ここで頑張っても、なりたいものが見つからなかったんだ。
だって、無職じゃ何にもなれないと思っていたから。
だから、どうしようかと思ったその時に、四人は口をそろえてこう言った。
「「「「 冒険者! 」」」」
「へ!?」
オレだけ驚いて四人と先生は笑顔であった。
後で話を聞くと、これはサプライズだったらしい。
オレ以外の皆が話し合い。
オレと一緒にいられる職種を考えたみたいだ。
勇者。
これは本来、冒険者や旅人。世界を救うために戦う戦士になったりする。
聖女。
これは本来、聖職者の頂点として教会か聖堂に入るらしい。
大賢者。
これは本来、冒険者以外だと、魔法研究施設などに就職するらしい。
仙人。
これは・・・よく分からないらしい。何になってもいいけど、拝まれる存在となるみたいです。
無職。
これは本来というか。
無職は、何になるのか分からない職種どころか、何になれるかが分からない職種だ。
どこかの貴族や王族に仕えるのも無理だろう。
その半端な職種が就職の邪魔をする。
どこかの国に仕官するのも無理だろう。
その半端な職種では、軍なんてついていけないと初めから切られるからだ。
鍛冶師とか商人。
農家などの色んな職種にチャレンジするのも難しいはずだ。
ならば、どんなジョブを持っていても必ず受け入れる冒険者という職業ならば、無職であっても関係ない。
皆はオレの為に冒険者になると言ってくれたんだ。
そうこれを後から気付いた時。
オレは涙で前が見えなかった。
この時のオレは、皆の優しさに気付かなかったんだ。
オレはなんて馬鹿な奴だったんだろうと今は思う。
「冒険者になるのか? みんな?」
「おうよ。お前もなれよ」
「うちらと一緒にさ」
「ルルもなりましょう」
「・・・楽しいぞ・・・五人なら・・・」
オレの問いに皆は端的に答えた。
いつもの感じで、重苦しくなく、後押しをしてくれていたんだ。
「そうか。みんながなるなら、オレもなろうかな。なれるかな?」
「俺たちでなるんだぜ。だから絶対になれるって!」
「そうよ」「ええ。一緒に冒険者になりましょう」
「zzzzzzzz」
「「「「 おいおい 」」」」
最後に皆でイージスを笑って、この話が終わった。
オレも、みんなと一緒に冒険者になろうと思った出来事だった。
◇
そこから、みんなで強くなるための特訓を開始した。
冒険者になるには知識も必要だけど体力も必要だ。
だから、兵士訓練などの体験をして、皆で一緒に戦う技術を学んだりした。
そして、みんなそれぞれ自分の得意とするものを伸ばしていく時間が増える。
個別特訓となったのだ。
レオンは剣技。ミヒャルは魔法。エルミナは神官術。イージスは格闘といった具合だ。
それでオレだけは、ホンナー先生とのマンツーマンだった。
「ではルル君! あなたは、他の方からも教えてもらいましょう」
「え? どういうことですか?」
「あなたは無職。それはあってますね」
「は、はい。残念な事にですが」
「そうですね。残念でありますね。無職はですね。私が文献で調べる限り、情報が少ないのですが。無職は、スキルや魔法を体得するルートがないようです」
「そ、そんな・・・それじゃ、冒険者なんてなれないんじゃ」
「そうですね。無職では辛いでしょうね。ですが、それはただの無職だった場合ですね」
「え?」
オレは先生の言っていることがあまりよく分かっていなかった。
「・・・本来、君はとても優秀なんです。たぶん、彼らとジョブの差がなければ、彼らに引けを取らない能力を持っていますよ。身体能力や頭脳。それは逆に彼らよりも上となるはず」
ホンナー先生は、オレを高く評価してくれていた。
無職のルルロアじゃなくて、ルルロア自身を見てくれているんだ。
「彼らと差があるように感じているのは、皆さんが持っているジョブのせいです。皆さんのジョブがあまりにも優秀すぎて。あなたはね。彼らを自分とはかけ離れた存在だと、決めつけているだけなんですよ」
「・・・いや、でも実際・・あいつらの方が凄い・・・」
「そうですが。私は知ってます。君はとても強くなる要素がある事をね」
「え!?」
先生はそう言って教室の黒板に何かを書きだしていった。
「いいですか。ルル君。みんなの才能を知ってますか」
「才能? ええっとジョブじゃない奴ですね。あれ・・・そういえばなんだろう」
「彼らの才能は、彼らが、英雄職になれるという才能でした。でもこれは英雄職を持つ者の特徴です。英雄になれる器が、才能に反映されるのです」
「ん? つまりどういうことですか?」
「こういうことです!」
先生の黒板に書いた物は、皆の才能名。
それは、各々のジョブに関連する名称だった。
勇者・・・勇気ある者
大賢者・・魔を司る者
聖女・・・光を導く者
仙人・・人を超えし者
という才能名だった。
「では、君の才能はなにか、君は覚えていますか?」
「え・・俺のですか・・そういえば俺はあの時・・・あまりにも無職が情けなくて・・・覚えてないですね。自分の才能!」
「そうですか。それは大変もったいない。私は知ってますよ。入学の時に書類に書いてもらいますからね」
「そうなんですか! 知らなかった。書いたのは村長かな?」
「ええ。あなたの才能とその能力は・・・・」
それがオレの運命を確定する能力だった。
その能力は、無職に、絶妙にマッチして最強の才能であった。