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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第31話 リョージの親友の力

 三年前。

 オレとイージスはファミリーのホームでお茶を並んで飲んでいた。


 「イー!」

 「・・・・なんだ???」

 「お前の仙掌底(バーンストライク)はなんであんなに凄い威力なんだ? 敵が吹っ飛ぶとかいうレベルじゃないぞ。相手が粉々になるくらいの威力だろ。あれってさ?」

 「・・・ふふふふ・・・おらのは特別なのだ!」

 「どこら辺が特別なんだよ。教えてくれよ」


 イージスは自慢げに笑っていた。

 

 「教えよう!!! おらの仙掌底(バーンストライク)は、真芯に当てているのだ」

 「真芯?」

 「うむ。真芯とは、芯のさらに芯だ!!!」

 「??????」


 意味が分からなかった。

 やはりイージスの考えは読めない。


 「ルル、ここの手の平で……こう! こうやって物や人を完璧に捉えるんだぞ」


 イージスは自分の手の平をオレに見せて説明する。


 「・・・ルル。攻撃が芯に入った時って、感触が違うんだぞ。人や物に触れてないみたいに軽い感触なんだ! たぶんこれをクリティカル攻撃というんだ・・・と思う」


 なぜそこが曖昧なのだろう。

 

 「そして、真芯に入った時の感触は、一瞬攻撃対象が重くなるんだ。重くなってから一気に軽くなる。それをおらは超クリティカルと呼んでいるぞ。これを身に着けるのに、おらは三年かかった! 学校に入学してずっと修行を・・・」

 「おい。お前・・・嘘こけ・・・イーはずっと寝てただろ」

 「ヒューヒューヒュー」


 イージスは、出来ない口笛を吹いて、ごまかした。

 でも戦いの天才のイージスでも、修行はしていたらしい。

 あの技を初めて見たのは、最初のクエストを達成した時であるからだ。

 学生時代にはなかった技だった。


 ―――

 

 だからオレは、努力すればその感覚は誰にでも手に入れることが出来ると思った。

 イージスの戦闘をいつもイメージして、オレは努力を重ねてきたんだ。

 あいつら。英雄に負けないように。

 無職だけど、英雄に少しでも近づけるようにな。


 「この地面をぶち壊す! 仙掌底(バーンストライク)もどき!」

 

 オレは地面に向かって仙術もどきを出した。

 スキル技じゃなくて模倣した技。

 でも威力は、イージスに近いと思う。

 地面の感触が重く感じたのは一瞬。

 そこからは一挙に軽くなったので、攻撃力の全てが地面に入った感覚を得た。


 地表から、人一人分の穴が地下二階に繋がる。


 「ホッさん! 突入!」

 「わかった」

 

 ホッさんに指示を出した後、師匠の方を振り向く。

 

 「師匠! オレは下に行きます。敵が逃げないようにここの入り口を皆さんで囲んでください」

 「わかってる。ルル、後ろはまかせておけ。安心して暴れてこい!」

 「はい!」

 

 オレの返事の後、リョージさんがイヤリングを一つ投げてきた。


 「ルル! 持ってけ!」

 「これは」

 「もしものため。相手の魔法を封殺する。ルル。これの使い方、知ってるだろ?」

 「はい。ありがとうございます。リョージさん!」


 オレは、師匠の指揮と鼓舞の力を得た後に、リョージさんのイヤリングを装着して、地下二階へと降りて行った。



 ◇


 「も、もうやめてください・・・し、死んでしまいますわ・・・ジャック。クルス・・・」

 

 弱々しいフレデリカの声には、涙声が混じっていた。

 それは今までに人前で見せたことのない情けない姿であった。


 「聞こえないな。クソガキ。おらよ」

 「ぐふっ」


 すでに気絶してぐったりとしているジャックを無視して、男は、まだ意識があるクルスを殴る。

 クルスはどんなに殴られても、意識だけは保っていた。

 自分が殴られていれば、フレデリカだけは守れるはずだとクルスが思っていたからだ。

 案の定、敵の思考も、クルスを気絶させることに向いていた。


 クルスは、もはや目が見えていない。

 瞼が腫れて、潰れたような眼になっている。


 「む・・・む・・・」

 「このガキ……なぜ・・・こんなに頑丈なんだ」


 男は倒せない事にムカつき、背に隠し持っているダガーを取り出した。

 

 「これで殺すか。もう痛めつけても無駄だしな」

 「や・・・やめてください・・・・な、何でもしますわ・・・そ、その子だけは」


 フレデリカは生まれて初めて、人の為に命乞いをした。

 母との別れの時も気丈であった彼女が、大切な者を失うのだけは我慢できなかった。


 「お前がいつまでも事情を話さんからな。ここで一人。殺すことにしたわ・・・死ね、やたらと頑丈なガキ」


 男はダガーを逆手に持って構えた。

 フレデリカが叫ぶ。


 「や、やめてーーーーーーーーーーーー」


 王魂が発動しても、大人には微々たる影響しかない。

 敵の動きが止まらず、ダガーはクルスの喉に届く。

 その時、爆音と共に地下二階の天井が崩れた。  

 

 フレデリカは目の前に現れた男の背を見て、今度は安堵によって、涙が止まらなかった。



 ◇


 「てめえ。オレの大事な生徒に、何してくれてんだ」

 

 オレの怒りの言葉が突然聞こえた男は、ギョッとして目が飛び出そうだった。

 奴は大切な生徒のクルスの喉にダガーを向けていた。

 だから、オレはそのダガーを持つ手に左手を絡ませて関節を逆に決めながら、クロスカウンターをする。

 『バキッ』と肘が折れた音が鳴って、オレのパンチは敵の顔面を完璧に捉えた。

 敵は倒れながら腕を押さえた。


 「ぐおあああああ。う、腕が・・・うでが・・・おれの・・・うで・・が・・・・」

 「何騒いでる。クソが。そんなもん、この子らの痛みに比べたら屁でもないわ。てめえ、こんなんで楽に死ねると思うなよ」

  

 オレは怒りに身を任せる前に、吊るされている二人を救出。

 後ろで椅子に縛られているフレデリカも助け出した。


 「あ、あなたは・・・」

 「おお。すまんな。フレン。オレがそばにいてやれなかったな。この子らももうボロボロになっちまったか。でも安心しろ。オレとホッさんが守るからな」

 「・・・・あ、ありがとう・・・ございます・・・わ」


 すでにボロボロに泣いている彼女は、オレの胸に飛び込んできた。

 よほど怖い思いをしたんだろう。

 彼女の心が癒されるか分からないが、頭を撫でて落ち着かせた。


 「すまんな。もう少し落ち着かせてあげたいんだけど……奴らを倒すからよ。後ろに下がってな」


 彼女と、二人を部屋の奥に移動させて、オレは敵を確認した。

 自分の腕が変な方向にいっているのが、まだ信じられない。

 立ち上がれず、地べたに寝そべっていた。


 「おい。起きろよ。てめえらはブルーコーストか」

 「おあおあああああ」

 「ちっ。話せんか。ん? きえ・・・幻術か」


 目の前で痛がる男が消えた。

 オレのそばにいたフレデリカたちも。

 ということはこれは幻術士のスキル『幻視(ミスリード)』だ。

 オレの認識を変えようとしている。

 見えない。

 認識できない。

 そんな敵を発見するにはどうすればいいか。

 その対策はすでにしている。

 それは・・・。


 「リョージさん!」

 「おう・・・ルル。右35度、上に110度。上から飛びかかってきてる」

 「はい!」


 リョージさんのスキル『通信』

 通信士の真骨頂である『通信』は、物を介して連絡することが出来るスキル。

 リョージさんは、連絡手段をイヤリングに設定していて、最大三人分の通信が可能だ。

 有効範囲は都市くらいの大きさまでで、今は探知領域展開と共にオレを助けてくれるのだ。


 「姿見えなくとも、お前のことは見えてるぞ。幻術士! オレたちを舐めんな! リョージさんの親友の技を食らえ! スキル 『獣化(ビースト)

 

 獣戦士のもう一つの初期スキル『獣化(ビースト)

 マルコさんの獣戦士としてのモデルは豹である。

 しなやかな動きと、破壊力ある攻撃が魅力の獣戦士だ。


 オレの『獣化(ビースト)』は彼譲りだから、動きはこのモデルと一緒だ。

 

 「おおおおおおおおおおおおおおおおお。ここだろ!」

 「ぐあは。な、なぜ。俺の場所が」

 「幻視を消してやる。ここに固定して・・・この認識を変える!」

 

 最初の一撃が入った瞬間に、見えない男の空中の位置を確認できた。

 そこで次のオレの行動が確定。

 見えない男をその空中に固定することにした。


 オレは部屋の壁を蹴りながら、加速して敵を攻撃していく。

 素早い豹の動きに加え、飛びはねながらの連続した攻撃に敵は対抗する手段がなかった。

 一方的なオレの攻撃のターンである。

 

 「ば。ご。っど。な、何故正確に俺の位置が・・お前には見えてないはずなのに・・俺に・・・なぜ攻撃が・・・通るんだ」

 「これは野生の勘だ! マルコさんもそんな感じの人だったしな! 最後の一撃だ。喰らえ」

 

 最後の拳の一撃は敵の首に入った。

 たまたま入った会心の一撃にオレも驚く。

 この動きと勘が、マルコさんがオレに乗り移ったかのようだった。


 「出てきたか・・・よし!」

  

 幻術士は、スキルが解除されて姿を現した。

 目の前で倒れたのは、歯が三本抜けた間抜けな顔をした男だった。

 いや、オレが折ったかもしれない。

 すまん!


 「後は、そいつか・・・よくもオレの生徒をやってくれたな」


 幻術士のスキルに守られていた男は、姿を現した。

 オレの姿にビビって後ずさっていく。

 無様な姿で必死に逃げようとするのは滑稽だ。


 「く、くるな・・・こっちにくるな・・・バケモノが・・」

 「オレがバケモノだって? お前、あほ言うな・・・本物を見たことがないから、そんなことが言えるんだぞ。お前はまだバケモノの力を見てない。オレ、あいつらのスキルを使用してないし」


 はっきり言って心外である。

 オレはまだ人である。

 無職だぞ。英雄職じゃないんだぞ。

 悪党の癖にビビるなんて恥ずかしくないのか。

 こいつは。

 と思ったオレはこいつの顔面を思いっきり蹴って気絶させた。

 その際に歯が四本抜けたのを見て、やっぱりオレのせいでこの幻術士も歯が抜けたなと思って戦いを終えた。

 はずだった。


 


 

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