第30話 マルコの親友の力
「師匠! リョージさんと小隊をお願いします!」
「わかった。準備する。ルル、俺の用意が出来るまで少し待っていろ。完璧に仕上げる」
「はい。お願いします」
師匠は瞬時に動き出した上に、重ねて指示を皆に出してくれた。
そのまま師匠は部屋を飛び出して、捜索隊兼小隊を準備してくれる。
今は、リョージさんの索敵技術が、必須だ。
でも捜索の最初は、オレが重要で、追跡のスキルを使って、相手のアジトの位置を知らないと、リョージさんの索敵技術が活きない。
そして、小隊を用意してもらうのは、相手がおそらく団体であろうと予測したからだ。
誰かの目がある状態から、一気に姿が見えなくなるスキルなどそうそうない。
おそらく複数のスキルが同時に複合的に効果を発揮して、屋台の親父さんの目を曇らせたのだろう。
ということは、単独犯じゃないので、アジト潜入よりもアジトの破壊に出た方がいい。
オレは今の時点で、すでに敵を潰す気でいた。
「すまない・・・本当にすまない。ルル」
「ホッさん。謝んなって。まだ、最悪じゃなねえんだ。切り替えよう。ホッさんはすぐにオレの救援をもらおうとしてくれたんだろ? なら連れ去られてから、時間はあまり経っていないはずだ」
オレも師匠と同じように準備に入った。
手袋を装着しながら会話をしていた。
「そ、そうだ・・だがしかし、私がついていながら・・・」
「大丈夫。冷静になってほしい。絶対にホッさんが戦う時がくる。今は、ジッと機会を待ってくれ」
「わ。わかった。そうだな。私としたことが、騎士団にいながらこんなに慌てるとは」
「いいんだ・・・その気持ちはオレにも分かる。あいつらのことだもんな。大事にしてんだもん。こればかりはしょうがない」
ホッさんは自分を責めていた。
気持ちはわかる。自分のせいだと思い込む気持ちはな。
オレがホッさんを慰めていると、師匠が戻って来た。
「集めた。ルル、いくぞ」
「はい」
「ホルトも……俺たちしかいねえから、ホイマンって呼ぶけど。お前も気合い入れろ、腑抜けんなよ」
結局師匠って、こういう時に言葉は悪いけど、優しく声を掛けてくれる。
相変わらずのぶっきらぼうな人だ。
「ああ、そうしよう」
師匠の準備が整ったので、オレたちはフレデリカの捜索に出た。
◇
三人がいなくなった現場に到着した。
オレは早速『追跡』を使用する。
この雑踏の中でフレデリカたちの足跡を探るのは厄介だ。
ダンジョン内を探索するのとは訳が違う。
圧倒的情報量となるからだ。
頭痛を堪えて、足跡を見てみるが。
フレデリカの小さな足跡はこの場で終わっていた。
屋台の一歩手前の位置。
最後にホッさんがフレデリカを確認した位置で、足跡は終わっていたのだ。
「ルル、あったか?」
「いいえ。この先がありません。師匠」
「そうか。まずいな。時間がないのに、都市中を探し回るしかないのか」
「それはいりません。これは魔法が掛かってると思います。おそらく魔法とスキルで認識を乱したんです。ならば、魔法の痕跡の方を追います。追跡をさらに切り替えます」
「魔法とスキル? ・・・・そうか。わかったぞ」
師匠はオレの少ない言葉で全部を理解してくれた。
「ホルトと店員を惑わしたのは、幻術士の幻視だな。あの魔法でこの場にいる人間の認識をずらしたんか。そんで、おそらく盗賊系統のスキルの『隠れ蓑』で三人を攫った。この二つを利用すれば白昼堂々、こんなに人がいたとしても、楽勝って訳か。やるな敵も」
「そ、そんな事に気づかなかったのか。私は。護衛失格だ」
「気にすんな。ホルト。ルルが見つけるからよ」
師匠とホッさんはそんな会話をしていた。
足跡追跡を諦めて魔法追跡を開始。
追跡は、二つのモードがある。
足跡をマーキングして、追いかける足跡を追跡するモードと。
魔法の痕跡、魔力残滓を見極めるモードに別れている。
そして、切り替えたことで、オレの目には魔力の残滓が浮遊する場所が見えた。
「ある。これは魔法を使った痕だ。こんなところで魔法なんて誰も使わないからな。気付きにくいな。三人を攫った奴らしか使わんだろう。見えるぞ。ここから・・こっちだ・・・そんでここで魔法を切っている」
露店通りの路地裏にて魔力が途切れた。
だから、ここで足跡追跡に切り替えると、大人二人の足跡を発見した。
「見つけた! これだ! いきますよ。みなさん!!!」
オレが先頭で皆を先導する。
露店通りの北を通り抜けると住宅街。
オレたちは立ち止まって、目の前にある状況に驚いた。
こんな普通の住宅の近くに犯罪組織が存在するのかと。
住宅エリアと露店通りの間の小さな家で足跡は止まったのだ。
「ここだ。ここが、敵のアジトだ。ふ、普通の家だ」
オレが驚いていると、リョージさんがオレの肩に手を置いた。
「よし。司令、俺の出番すね。ルル、俺がやるよ。待っててくれ」
「お願いします」
リョージさんが前に出て、スキルを展開し始めた。
「探知領域展開 クロスオープン」
目を瞑って集中しているリュージさんは、人を探す領域と、建物内部の構造を把握する領域を、同時に展開した。
探知領域は四角で隅々まで把握する。
「ぬ!? この外観に対して・・・ここは地下二階まである・・・しかも大きめの内部構造だ。ここよりも、地下一階が大きくて、さらに地下二階もだな。さらに広いな・・・敵の数は五十はあるぞ・・・こどもは」
部屋の隅々を見ているようで、数を数えながら進んでいる。
リョージさんは、子供のサイズを確認している。
「・・・・いた・・・でも近くに三人の大人がいるな。一が別な部屋。二が子供の近くだ・・・ここの下だな!」
「リョージさん。この中は広いんですか?」
「ああ。ルル、話すよりも俺の肩に手を触れてくれ。中はだいぶ調べたからイメージを送る」
「はい。お願いします」
オレはリョージさんの肩に手を置く。
すると、リョージさんが見ている景色がオレの頭に浮かんできた。
これが通信士の独特の能力。
『情報共有』だ。
調べたものや思ったことを、言葉を介さずに、相手に伝えることが出来る。
「なるほど・・・構造はこれなんですね。リョージさん、このままオレに情報を送り続けてください」
「おう、まかせろ……」
リョージさんは辛そうにしたけど、仕事をこなしてくれた。
情報共有は探知領域展開よりもスキルの難度が高く、脳内にある大量の情報を常に送り続ける苦労があるので、スキルを展開し続けると体と脳の負担が重くなるらしい。
その厳しさは、オレの追跡のスキルに近いのかもしれない。
膨大な情報が、とてつもない疲労感を呼ぶのだ。
ここで、オレはスキルを発動。
『筆記』
これは書き物の速度を上げる司書のスキル。
ただし、速度で言うと速記よりも劣るが、オレの職人気質がそのスキル並みに能力を向上させている。
「地図完成・・・師匠、建物の地図です」
隣の師匠に建物の地図を渡した。
「おお。よくやった。出入口は目の前のここだけか。リョージ、他に秘密の出口はないだろうな」
「ないっすね」
少し疲れた顔のリョージさんは、自信満々に即答した。
「よし、オレはここから行きます。ホッさん!」
オレは自分の下の地面を指差しながら、ホッさんに指示を出す。
「なんだって、ここから???」
「ホッさんは、あの家の入口から大暴れしてほしい。オレの突入の声に合わせてください!」
「わかった」
疑問を持っても返事をくれたので、オレは小隊の皆さんに声をかけた。
「いいですか。皆さん。これで敵を二分しますよ。今、あの子たちの周りには敵が三人います。その付近には敵がいなくて、地下一階、それと地下一階に通じる階段付近の地下二階の大部屋にかなりの人数がいます。そうとなれば、ホッさんが建物の入り口から暴れてくれれば、奴らは地下一階に集まり、オレの救出作戦の方が楽になりますからね」
同時に攻撃を仕掛ける作戦だ。
しかし、オレの方はどうやってその部屋に行くのか。
これを聞きたいのがホッさんだ。
「敵の引きつけは俺がやる。でもルル。お前の突入とはどうやってやるのだ・・・」
ホッさんはオレの心配をしてくれたようだ。
「大丈夫。ここの真下は三人がいる地下二階の部屋に直接繋がってます。彼らの位置じゃない場所は・・・・ここだな。オレがスキルでここを破壊します。いきますよ。ホッさん準備お願いします!」
指示と同時にオレはスキル『明鏡止水』を発動した。
仙人パワー全開で勝負を仕掛ける。




