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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第29話 従者の心

 クルスはパーティーが始まる前に、会場の建物の脇にある庭園で花を見ていた。

 会場入りする者が多くいる中で、彼は出来るだけ他の貴族の目に付かないようにしていたのだ。

 杖を使ってゆっくりと歩くクルスは、ジャックと共にいた。

 ジャックはクルスの腰を支えて、歩きやすいようにしてあげていた。


 「ジャック。花・・・綺麗だね」

 「うん。王宮の花は綺麗ですね。私たちの家にも植えましょうか。参考にしましょう」


 ジャックは、いつもクルスに明るい言葉だけを話す。

 暗くなる話題は出来るだけ避けている。


 「あ、踏みつぶされてる。僕、直すよ」

 「なら枝を取ってきます」


 クルスは庭にあった大きな花壇の花じゃなく、小さな花壇にあった少しだけ潰れた花を直してあげた。

 隅にある花壇は手入れが届いてなかったのかもしれない。

 丁寧な修復作業は、元通りとまではいかずとも、何とか花としての装いは保てたようだ。


 「よかった・・・これで君もまだ生きていけるでしょう。僕と一緒だ。支えてもらわないと生きていけないのはね」


 クルスは最後にバランスを整えるために、ジャックから貰った枝を使い、添え木をつけてあげた。

 

 「おお。クルス。上手くいきましたね」 

 「うん。ジャックのおかげだよ。はははは」

 「ん? 私はこの枝を持ってきただけですよ。直したのはクルスですよ」


 二人は協力し合って、今まで生きてきたのである。


 そして。

 そんな仲睦まじい二人の様子をフレデリカは会場の脇にある別室の窓から見ていた。


 「あ、あの方たちは・・・」


 二人の心優しい行動を終始見ていたのだ。


 ◇


 パーティーでの挨拶を終えるとすぐにフレデリカの元には下衆な貴族共とその子供たちがやって来る。


 「フレデリカ様。私は・・・」

 「フレデリカ様・・・」「フレデリカ様・・・」


 貴族たちが自分の名を呼ぶ。

 それが無性に嫌だった。

 気持ちが悪い。

 吐き気を催すほどにだった。

 それは、自分に近寄る子供たちが、小さいながらも貴族であったからだ。

 自己中心的な物言いで、自分があなたの従者に選ばれるはずだと思う自尊心が。

 フレデリカの気分を悪くさせていた。


 「・・・はい。ワタクシ、少し疲れたので、休ませていただきますわ。あそこで休みますわ」


 フレデリカは全てに断りを入れて、会場の隅にある長椅子に座った。

 そこは、この会場にいる人ならば、誰もが座れる椅子。

 でも、彼女が座ればそこは聖地となる。

 話しかけるなという空気を出している彼女の周りには、人が消えていた。

 だが、ここにはもとより座っている少年がいたのである。

 ぼうっとした顔をしているクルスである。


 「・・え、あなたは・・・たしか」


 あそこで、お花を直していた少年。

 フレデリカは、ちょっとだけホッとした。


 「あ! 僕はクルスです」


 その声の出し方で分かる。

 イメージ通りの優しそうな人だった。


 「あなたは辛そうですね。色んな人に声をかけられて。僕なんか誰からも声をかけてくれませんからね。その苦しみは、分かりませんね。はははは」

 「あ、あなた、ワタクシを知らないのですか?」


 王女の誕生会に呼ばれているのに、王女を知らないなんて。

 フレデリカは面白いと思った。

 下調べもしないでこちらに来たことも、それに、王家にまったく興味がない事も、どれもが新鮮だった。


 「え? すみません。僕……さっきまで外にいたので、お名前知らなくて、申し訳ありません。パーティーの最初の方に間に合わなくて、この足じゃ移動が遅くてですね。だから僕は皆さんが誰だか知らなくて、すみません」

 「謝らなくてもいいですわ。あなたは何も悪い事をしてませんわよ」


 それに良い事をしていましたわ。

 フレデリカはこの人の人柄に惹かれた。


 「いえ、お姫様のお祝いの席に遅れる貴族など・・・・はぁ、後でお父様に怒られそうです。どうしよう」

 「ふふふ。あなたは面白い人ですわね」

 

 二人はそんな会話をしていた。

 フレデリカは不思議とこの少年と会話しても気持ち悪くならなかったのだ。

 彼の誠実な人柄を気に入ったのかもしれない。


 「クルス~~。美味しい料理を持ってきましたよ。一緒に食べましょ~う・・・・・っておおお、お、お姫様!?」


 先に会場入りしていたジャックは、クルスのために料理を選んでいた。 

 どれを食べさせてあげようかなと、好き物がいいか、バランスが良いものがいいか。

 一人でかなり悩んでいた模様。

 それで盛り付けに成功したと喜んでクルスの元に行くと。

 隣にいるのがフレデリカだと気付いてしまい、びっくりして料理を落としそうになった。

 でもギリギリで料理を震える手で支えた。


 「あら、お友達ですか?」

 「はい。僕の大切な友人のジャックです・・・・・・え・・・お姫様・・・おひめ・・・さま?!??!?!?!!」


 クルスはここでようやく隣にいる少女がお姫様であることに気付いた。

 

 「ご、ご無礼を。姫君。姫君の隣に座るなど。私の友人が知らずしたことなので。どうかお許しを」


 止まってしまったクルスの代わりにジャックは、跪いてまで無礼を取り消してもらおうと嘆願したのである。


 「そんなにかしこまらなくていいですわ。あなたがジャック。あなたがクルスですわね」

 「え、あ。はい。僕がクルスです」

 「そ。そうでございます。ジャックでございます。姫様」

 「覚えましたわ。それでは。またお会いしましょう」


 そう言って笑顔のフレデリカは、去っていった。

 二人は命が助かったとホッとしてから、しばらくその場で呆然とした。



 ◇

 

 運命の従者選択の日。

 候補者の8名は、彼女の部屋に通された。

 一言メイド長と会話をした後に、一列に並ぶ。

 皆は、彼女が自分の前に立つ時を待つ。


 「それでは、姫様が従者を選びます。姫様が立ち止まると、目の前にいる者が従者となります」


 メイド長がそう宣言したことで、8人の緊張が増した。

 8人の震える手は歓喜に包まれるか、絶望に落とされるか。

 今後の自分の人生が決まる。今後のお家の繁栄が決まる。

 運命の選択をフレデリカがしたのだ。


 左の端からゆっくり歩いた彼女は、大貴族の子らを飛ばし、真ん中にいた少年の前に立った。


 「あなたにします」

 「・・・わ、私ですか・・・え」


 自分が選ばれると微塵も思っていないジャックは驚きで聞き返してしまった。

 その無礼さに気づいたジャックはすぐに謝る。 


 「も。申し訳ありません。失礼しました。あ、あ……あなた様の従者となります」

 「ええ。よろしくお願いしますわ」


 微笑んだフレデリカにジャックは女神のような優しさを見た。

 そして彼女は、再び歩き出した。

 まだ人を選ぶようである。

 ジャックの次、その次と移動していき、右の端にいる遠慮がちに杖を使って立つ少年の元に。

 

 「ワタクシは、この方も従者にしますわ」

 「ぼ、僕も・・・ですか」


 この決定にはさすがのメイドや執事たちも驚いた。

 足の悪い従者など、見たことがない。

 なのに、フレデリカは自信満々にこの人がいいと言ったのである。


 「さ、さすがに僕では・・・」

 「そうです。私を選んだ方がいいに決まってる。そんな出来損ないみたいな奴に私が負けるはずがない」


 大貴族の息子は怒りに身を任せて大声を出した。

 自分がそいつよりも劣っているわけがない。

 どうしても言いたくて仕方なかった。


 「これは勝ち負けじゃありませんわ。この方の優しい心を、ワタクシは気に入ったのですわ。あと、出来損ないとは何ですか!!! この方は、今の瞬間からワタクシの従者です。無礼ですよ!!」


 フレデリカの言葉の力が、子供たちを少しだけ恐縮させた。

 実はフレデリカはこの頃から力の片鱗を出していた。

 相手を恐怖に陥れるまではいかないが、その力は確実に同年代には効いていたのである。


 「う・・」


 大貴族の息子は引くしかことしかできない。

 悔しいがここは大人しくと、歯がゆい思いのまま一歩後ろに下がった。


 「以上の二名が、ワタクシの従者です。二人はワタクシに忠誠を誓ってくれますか」

 「はい。フレデリカ様」


 ジャックがすぐに返答。

 だが。

 

 「し、しかし・・・僕は・・・この足では・・・あなた様をお守りすることはできないかと」


 クルスは悩む。

 やはりネックとなるのは、足の悪さだ。

 いざという時にお荷物になるかもしれない。

 そんな人間が、お姫様のそばにいても何の役に立つのであろうか。

 クルスの思いは当然のことだった。


 「いいのです。ええ、もちろん承知の上なのですわ。でもワタクシはあなたがいいのですわ。いいえ。間違いました。ワタクシは、あなたがいいのではない。ワタクシの従者となるのは、あなたしかいないのです!」


 優しくクルスの頬に触れたフレデリカ。

 その慈愛に満ちた彼女の声とその表情に、クルスは涙して忠誠を誓う。


 「…わ、わかりました。この身。全てを捧げて、僕はあなた様を生涯お守りします」

 「はい。よろしくお願いしますわ」


 こうして、二人の従者は、自分の生涯を捧げて、フレデリカを守ることを決めたのでした。

 ジャックが冒険者になる夢を諦めたのは、フレデリカがクルスを認めてくれたから。

 彼女のような寛大な人に、認めてもらえたことを光栄に思ったからだった。



 そして、のちに訪れる王国の一大事件『第五王女フレデリカ暗殺事件』


 それにジャックとクルスも巻き込まれる形となり、二人も表向き上では、命を落とすこととなる。

 その時に、クルスは、言葉を代償にして、身体を動かすこととしたのだ。

 上手く動かせない体では、フレデリカを守ることはおろか、その長き逃亡の旅についていくことさえできない。

 だから、彼は言葉を犠牲にしてでも、彼女についてきたのである。

 

 フレデリカを守る。

 ただそれだけの為に声を犠牲にした。


 彼の誓約は彼女を守ることである。

 たとえ彼女とまともに話せずとも、彼女を守る事だけが彼の生きがいなのだ。



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