第20話 生きて欲しい
話し終えると先生が聞いてきた。
「なるほど。なるほど。それでは、あの当時にあったデライ町の連続失踪事件とは。そのゴブリンたちの仕業だったのですね」
先生は、クエスト達成よりも俺が解決した事件の方に興味があったみたいだ。
「そうです。ゴブリンはミルフィー山をアジトに活動してました。奴らは北東方面に下山して、町の人を攫っていたらしくてですね。オレが収納した人たちのほとんどがあそこの出身の人たちでした」
行方不明事件は、誘拐事件だった。
謎の事件を一つ解決できて良かったと当時は思った。
「そうでしたか………それにしても、君は素晴らしい。二度と事件が起きないように洞窟を粉砕し、これからの被害を起こさないようにした。しかし、その事件を解決しても、冒険者のクエスト外だったから評価を受けなかったのですね。見る目がありませんね。冒険者ギルドはね。グンナーだったら高く評価しただろうに」
先生は少し寂しい顔をした。
ギルドでのオレの評価が高くないことに不満そうだった。
「まあ。でも、あなたの事件はおそらく軍にとっては大変感謝すべき事件ですね。さすがは、あの辛口のグンナーが絶賛していただけありますね。君は最高傑作の弟子だとね」
「いえいえ。そんなことはないですよ。先生」
オレと先生がそんな会話をしていると、教室にいる三人は。
「凄い凄い。ジェンテミュールってやっぱり凄いです。今も伝説を残し続ける冒険者ファミリー。その始まりの話なんて、そうそう聞けないです。ねえ。クルス。良かったですね」
興奮しているジャックは、クリスに話を聞いた。
「む!・・・む。むむむ・む!!!!」
『む』が増しているぞ。
クルスは鼻息が荒くなっていて、かなり興奮していた。
握りこんだ拳が上下に激しく揺れていた。
「それで、そのママルさんという女性は、その後はどうなされたのですの? お仕事が出来ましたの?」
「ああ。あの人はね。やっぱり辞めたんだ。確か、俺が言ったことを会社に進言した後にさ。仕事を変えたはず。あの経験をしておいて、同じ仕事を続けるのは、やっぱ怖かったみたいでさ」
当然の事だった。
でもママルさんは、仕事を辞めても明るかった。
「別な職種で活躍するって言っていたな。彼女のジョブは、登山家だったんだけど、危機管理の仕事に就くとかなんとかね。後で連絡をもらったな。ああ、その時もやけにお礼が多かったな~。顔も真っ赤だったし・・・なんでだ?」
「そうですか。それは無事でよかったですわね」
フレデリカは、あの事件の中で一番危険だった女性を気にしていた。
この子はもしかしたら根がやさしい子なのかもしれない。
◇
オレを見る目が少し変わったので三人に話しかける。
「これなら、多少は話を聞いてくれるかな。そんじゃ、筆記の授業はホンナー先生がやるよ。オレは実技ね。んじゃ・・・普段は後ろにいるからな」
「はい。先生!」
「ん?」
オレの話を遮るジャックは勢い良く手を挙げた。
「先生!? オレがか?」
「ええ。だって助手なんですよね? だったら、ルルロアさんも、先生でいいですよね?」
「ま、まあ。そうか。呼び方なんてどうでもいいか。それじゃ、ジャック。何だい?」
「先生はジェンテミュールの結成当時の人なんですよね」
「ああ。そうなる」
「では先生の役割は?」
「役割か・・・そうだな。強いて言えば雑事だな」
正直、あいつらの身の回りの世話で、日々一杯一杯であった。
とにかく生活破綻者たちの集まりだからさ。
「雑事?」
「あいつら、ほとんど何も出来んのよ。戦うこと以外がな~んにもな。日常生活なんて、エルミナ以外は壊滅だ。戦いも戦略だってムズイからな。だから、オレの役割は雑事だな・・・まあ、よくいって参謀あたりかな。このあたりの役職だと思うぜ」
「は、はぁ。そうなんですか。てっきりもっといい役職なのかと」
「なぁに、オレはその程度なんよ。なんせ、オレは英雄職じゃない。あいつらとレベルが違うんだ。オレは無職だから天と地ほどレベルが違うんだぞ。ジャック。お前は、職業についての知識はあるか?」
「え・・そうですね。多少は・・・」
職業は内訳がある。
基本職。専門職(内政職)
上級職。
特殊職。
英雄職である。
これらは、この順番でなれる数が少なくなっていく。
特に、英雄職だけは同じ時代に二人といない職業だ。
だから、レオンが生きている限り、他に勇者は生まれないとなる。
では無職はどこに所属しているのかというと。
正直どこであるのかわからない。
基本でもないし、ましてや英雄でもない。
当てはめるとしたら特殊職かも知れないけど、枠に嵌っていない。
何も得られない職業であるから、そう言われても納得するのである。
ちなみ、英雄職と同じく、他に生まれないらしい。
無職の記録って、二人くらいしかないからほとんどが分からない。
記録がほとんどない。
オレもよく分かる。
だって、他の人に知られたくねえもんね。昔の人だってさ。ハハハハ
「だからお前たちは鍛えればかなり強い。二人は特殊職で、お嬢さんは英雄職だ。滅多にない役職な分。その成長力は抜群だぞ。しかも、お前たちが教わるのは、こちらにいる。オレの大恩人のホンナー先生だ。オレの才能を開花させただけじゃなく、あいつら勇者たちの才能をも開花させた人材育成のプロだぞ。だからここで頑張ればお前たちは大成長するんだ」
「む!! む・・・・むむむ」
「おお。そうか。頑張るんだな。じゃ、がんばれ!」
興奮気味にいるクルスに声をかけた。
応援は言葉にしてする。
親父の受け売りである。
「む!!!!!」
クルスは、たぶんめっちゃ頑張ると言っていると思う。
目の前に来て、力こぶをアピールして席に帰っていった。
「そうですか。わかりました。私はホンナー先生とルルロア先生についていきます。頑張ります」
ジャックは丁寧にお辞儀をした。
「おう。頑張れ・・・お嬢さんはどうすんだ?」
「お嬢さんではありません。ワタクシは、フレデリカですわ」
「はいはい。じゃあ、そのフレデリカさんはどうしますか?」
「ワタクシは・・・二人が頑張るなら・・・頑張ってあげてもいいでしょう」
と、ツンデレお嬢さんは、隣にいてくれる二人の事を見てから、自分について来てくれた二人の為に強くなろうとした。
健気な少女でもあった。
◇
三日後。
「ほれほれ。その握りじゃ駄目だぞ。ジャック。しっかり木刀を握りな」
「はい。ルル先生」
オレはジャックに剣技を教えていた。
ルナさんの技を教えるのは、少々厄介なので、普通の剣の取り扱いをマスターしてもらう事にした。
ジョブが従者であるジャックは、基本性能を高めた方がいいと思ったのだ。
少し話が戻り。
昨夜の事である。
オレと先生は職員室の脇の部屋で会議をしていた。
「先生。あいつらの教育方針はどうするおつもりですか」
「ん?」
「あいつらって三年計画なんですか?」
「ああ、そうですね。それをお話ししてませんでしたね」
「はい」
俺と先生は三人についての話し合いに入った。
「日曜学校としてはですね。最低でも15の成人までは見てあげようという事になりましたよ」
「そうですか。あと五年ですね」
「はい。そうです。それに彼女は大王ですからね。じっくり育てるに越したことはないでしょう」
「・・・それじゃあ、先生、どうやって育てる気ですか?」
実は先生もそこを一番に悩んでいたらしい。
勇者や大賢者。聖女に仙人。
これら、四人を育てたあげた先生でも、大王は難しいとみている。
あいつらの目的は冒険者であったので、戦闘訓練をメインにして計画を立てるだけでよしとした点が楽であると言っていた。
でも、大王は違う。
おそらく為政者として、帝王学が必要ではないかという事だった。
しかし、オレも先生も一般の出身。
なぜなら、この世界に住まう者で名字を得ていないからだ。
名字を得ているという事は貴族の証で、それでジャックもクルスも出身が貴族であることが分かる。
貴族でも何でもない平民に帝王学なんて……1ミリも分からない。
あらま、どうしよう案件であった!
「困りましたね・・・誰か知っている人がいれば・・・ね。さすがに教職の間にも貴族はいませんしね」
「そうですね。たしかにそこは大事ですね・・・しかし先生。俺は、そこまで気を遣わないでいいと思うんですよ。あの子はまだ10歳です。なら、今はですね。オレとあいつらみたいに友情という固い絆があれば大丈夫なはず。三人が強固に心で結びつけば、フレデリカが間違った道を歩まないと思うんですよね。先生、この考えはどうでしょう?」
「・・・それは良い考えですよ。たしかに、その通りです。どんな困難も、友達がいれば乗り越えられますね」
「はい。彼女にとっての二人は、従者って感じよりも友達にしてあげたい。彼女には友達がいるという大切な思いを、今の少女の時代に持ってほしいですね」
オレと先生はそんな会話をして、今後の教育方法を考えていた。
◇
話は今に戻る。
オレは、ジャックの持つ木刀を叩き落とした。
「ほい。まだまだだな。ジャック! お前は力が入りすぎだ。もう少し肩らへんは楽にしろ。手は剣を強く握っててもな。他の部分は楽にするんだよ。あまり体に力を入れすぎると動きが固くなって、相手に動きを読まれやすくなるからな。気を付けろ」
「はい! ルル先生」
「よし! 返事は良しだ!」
ジャックはあの話以来、オレのことを信用してくれたみたいで、素直に返事をするようになった。
「む!!!! っむむ」
「おお。そうか。じゃあ、お前はこれを使え」
オレはこの三日でクルスが言いたいことが大体分かって来た。
『僕も戦いたい』だそうです。
「む」だけのコミュニケーションで上手くいく奇跡がここにある。
マジックボックスからオレは、棒を取り出して、クルスに渡した。
「クルス。お前は棒術でいこう。祝詞神官であるお前は、味方にバフを与える能力を持つ。そんで味方という点に、お前が生きる鍵があるとオレは思うんだよ。オレの考えだと、お前自身もバフ対象でいけるはずだ。だから近接戦闘が出来る神官になっておこう。どうだ? 嫌か?」
「む!? むむむむ」
首を横に振ったので、提案を受け入れたらしい。
おぼつかない手つきで棒を振り回して気合いが入っていた。
「そんで嬢ちゃんはどうする。何か持ちたい武器はあるか」
「嬢ちゃんではありません。ワタクシはフレデリカですわ」
「はいはい。それじゃあ、フレデリカさんはどうしますか」
「・・・ワタクシも戦うのですか」
フレデリカは、不安そうな顔でいた。
「いや、戦うわけじゃない。戦うかもしれない時に身を守る方法を得るだけだ。いいのか。戦いのときに相手にいいようにやられっぱなしでもよ」
「嫌です。ワタクシは負けたくありません。もう・・・」
「そうか……なら、戦うか! 大王!」
「・・・だ、大王じゃありません。フレデリカですわ」
「そうか……じゃあ、頑張れフレデリカ。オレは応援するぞ。頑張ればな、何でも出来るようになるらしいぞ。だけど、なんにも出来なくても、オレはお前らを応援する。だから頑張れ」
「?????」
フレデリカは、オレが言った意味が分からずに首を傾げた。
「オレはいつでもお前たちを応援しているってことよ。な!」
笑顔でオレは三人の頭に手を置いて応援した。
親父譲りの全力応援だ。
「頑張ります!!!」
ジャックが意気込んで。
「むむむ!!!!」
クルスが喜んで。
「手をどいてくださりますか。邪魔ですわ」
フレデリカが嫌そうにオレの手をはらった。
三者三様の三人。
彼らを鍛え上げるのが、オレの第二の人生の最初の一歩となるらしい。
生きるために、強くなってもらう。
オレが、必ず生かしてみせる。
この三人を必ずだ。




