第4話 いつも一緒だったのに
オレらが育ったマジャバル村は、世界の南東にあるジャコウ大陸に存在している。
あそこの村は、ジャコウ大陸でも最も小さい村であって、面積も小さいんだけど、人口も少ない場所だった。
そんなんだから、その年に生まれる子供なんて、一人いたら奇跡だ。
しかし、俺が生まれた時には、他に四人も生まれたんだ。
これは奇跡の一言じゃ足りない。
他の年だと生まれない年もあったりするからこそ、神に感謝するような大変珍しい事だ。
俺たち五人は、小さな村の同級生となる。
村は、年寄りの方が多くて子供が少ないから、この五人が固まって仲良くなるのは生まれる前から決まっていたことだ。
しかも俺たちの家が、近所で井戸端会議をよくする母親たちも知り合い。
全員がしょっちゅう会うからか、俺たちはもう兄弟も同然であった。
◇
8歳くらいの時。朝っぱらからレオンがやって来た。
「おい。ルル! 遊ぼうぜ」
「なにで・・・・やっぱめんどい」
とある日。
オレはここでも、日課である家の前の地べたに寝そべることをしていた。
良い気分で外を眺めていたのに、邪魔をされてしまったのだ。
目の前に来たレオンをチラッとだけ見ると、楽しそうにしていて、オレの顔を覗いていた。
「そんなこと言うなよ。今。俺と遊ぶ許可したじゃん。遊ぼうぜ!」
「なんか、ふと考えたらさ。急にめんどくなった。遊ぶのは、なしで」
「なんだよそれ・・・・まあいいや。それなんだよ。その石」
「オレの話、聞いてた? めんどいって言ったよね」
地面に大の字で寝転んでいる俺は、川で集めた丸石を綺麗に上に積む遊びをさっきまでしていた。
塔のように積まれている石が十段ほどになっている。
「これのことか……そうだな。お前。これと同じ塔を作れるか?」
「ああ、いいぜ。俺もそれやってみるぜ」
オレが作った塔を崩してから、レオンが自分の塔を作ろうと意気込んで石を積み始める。
数分後。
村一番の美人のお姉さんが、オレたちの前を通り過ぎると、レオンの眼が輝いた。
「そこのお嬢さん・・・俺とお茶しませんか!」
「ふふ。そうね。でもまだ子供でしょ。もう少し大きくなったらね」
「いえ。俺はすでに大人。体は心でも、心が大人なんで、どうです。お茶しませんか!」
レオンが食い下がる。
あいつは意味のない所で発揮する根性がある。
間違えた。ただの根性じゃなかった。スケベ根性があるんだ。
「おいおい。オレと遊ぶんじゃなかったのか・・・レオ!」
「俺は忙しくなった。んじゃ!」
「何に忙しいんじゃ! エロガキ」
レオンは綺麗な女性のお尻を追いかけていった。
奴の人生の半分は、女性が中心にある。
今にして思えば、マジでクソガキだ。
あいつ、集中力なさすぎだろっと思ったオレが、もう一度石を積みなおしていると隣に人の気配がした。
「ルル。眠い・・・zzz」
「おいいいいいい。なんでお前は、オレの隣でいつも寝るんだよ。おい。起きろよ。イー!」
イージスはいつもオレの隣で眠る。
眠いと言ってわざわざ隣で眠る。
だったら、最初から家で寝ればいいじゃんと、いつも言っているが、どうやらオレの隣が特等席らしい。
どんな体勢であっても必ず隣で眠っている。
「はぁ。仕方ねぇな。そのまんまにしておくか」
イージスを気にせずに石を積んでいくと、前よりも高い塔が完成した。
オレはレオンと違って集中力があるらしいぞ。
と自画自賛している所に、ミヒャルがやってきた。
「おい。ルル……虫取ったぞ! ルル! どうだ!」
「は?」
偉そうにふんぞり返るミヒャルがカブトムシを持ってきた。
本当にオレの目の前に持ってくるものだから、最初ゴキブリかと思った。
気色悪いです。足らへんが。うにょうにょと動いています。
それでもオレは、なんで、わざわざ報告してくるのっと野暮な事は言わない。
ちょっぴりこいつらよりも大人であるからだ。
「どうよ。これ。凄くないか。デカいぞ! ニシシシ」
「はいはい。ミヒャルさんは凄いですね」
「返事は一回! あんたいつも二回言うじゃん」
「へいへい。ミヒャルさんはいつも同じことを指摘しますね。お母さんですか。オレの!」
「お、お母さんじゃない! うちは・・・と・・ととと・とも・・ともとも・・・だ・・ち・・・だ」
ミヒャルは友達と言えずに顔を真っ赤にしていた。
「はいはい。そんなに恥ずかしくなるならね。別に改まって言わなくてもいいでしょ。オレだってね。お前のことを当たり前に友達だと思ってるからさ。ほらほら。他の虫も取りに行くんだろ。オレにわざわざ見せに来なくてもいいから。早く行きな」
「うっさい馬鹿! 嫌い!」
「へいへい。どうぞ~」
嫌いだという癖に、オレに自慢してくる。
その精神がよく分からない。
意味の分からない行動が多いのがミヒャルという女の子だ。
意地っ張りで強情で勝気であるが優しい面を持つ不思議な子である。
遠くの方で優しい声色の声が聞こえた。
「はい。村のあちらの馬小屋に、その用具があったのをお見掛けしましたよ」
「そうかい。ありがとね。エルミナちゃん」
「はい。それでは……フミカさん。また」
同じ歳なのに大人のような喋り方のエルミナは、八方美人のように誰にでも優しい。
いや、彼女が優しすぎて、八方美人に見えるのかもしれない。
本人は、本当はそんな感じで動いているわけじゃないのかもしれないが、オレの目にはそう映っていた。
「ルル。何をしているのですか」
オレのそばまでやって来たエルミナは不思議そうな顔で話しかけてきた。
オレの遊びが理解できないのだ。
「ん? これかい。これは石を積んでんのさ。どうだ、高いだろ!」
「なぜ?」
「・・・なぜ?・・・たしかに・・・なぜだよな・・・そうだよな・・・なんでこんなことしてるんだろ」
オレは悩んだ。
たしかにエルミナが感じた通りに、これに意味がないからだ。
特に意味がない。全く意味がない。全然意味がない。
これが出来ても、何かで成長するわけじゃないし、自慢になるわけでもない。
オレは何のためにこんな事をしているんだ。
しばらく自問自答した後。
テキトーな考えを思いつく。
「これはさ。あれだよ。意志を曲げないって意味だ!」
「はい?」
意味を強引に取ってつけてみた。
彼女は首を傾げる。当然である。
「この丸石を上に積む。これは超ムズイ。だから、意志が曲がっている者には積むことが不可能なんだよ。知ってた?」
「た、確かに・・・それはとても凄そうですね」
「そうだろ! てことで、エルもやってみるかい」
「はい! やってみます」
彼女は騙されやすい子である。
彼女がとってもイイ子な分、オレの罪悪感が凄まじい。
彼女は、「ムムム」と言って、最初の土台の石を選び、「ンンン」と言って次の石を一つ選んでいく。
しばらくすると……。
「出来ました! どうです。ルル」
「うむうむ。エルもオレと同じで意志が固いと見た! エルは、今度の天啓で、良い職業と才能に恵まれるんだよ。エル、よかったな!」
「本当ですか! ありがとう。ルル。大好きです」
「え? あ。うん」
オレに抱き着いてきた彼女は頬を寄せてきた。
めちゃ緊張したけど、その緊張を出さないために真顔になって、直立になった。
これって、オレは彼女を抱き返せばよかったのか……。
後になっても彼女の行動の意味が分からなかったし、俺はどうすればよかったのだろうか。
いまだに解けない謎である。
◇
10の時、我々は天啓を得ないといけない。
この世界の人間にとっての運命の分かれ道が、その神からの思し召しであるのだ。
五大陸ある内の一つの大陸を除き。
四大陸には大聖堂という場所が必ず存在している。
聖職者の方々にとっては、皆が女神にお祈りをするのをお手伝いする職場であるが。
一般人にとっては、天啓を授かる場所となっている。
天啓とは、人間の職業と才能を確定する行為の事だ。
職業とは。
スキルや技や魔法などを覚える戦闘職から、手に職を持つ内政職などの多岐に渡る職業のことを指す。
そしてこの職業。
天啓によって一度決まると変えることが出来ない。
神から授かったものなので、変えることが出来ないとされている。
未だかつて転職した者がいないから、おそらく一度決まった職業以外にはなれないのだろう。
人生一度きりなのに、一度しか授かれないのは、結構シビアで辛いものである。
例えばあなたは大工です。
と言われれば、大工のスキルしか学ぶことが出来ない。
他の職種に転職できないから、その人は一生大工のスキルだけを学ぶしかないのである。
だから天啓とは、人生が確定する重要な場面なのだ。
そして才能とは。
これも天啓によって授かるとなっているが。
これは人の意思によるものを明確に記すだけのものなので。
もともと、個人が持っているスキルを発表するという形になるだけだ。
同じ名称であっても、人によっては効果が異なったりするらしい。
正しくこれは、人は一人とて同じ人はいないを表すのだろう。
それに人は心身ともに成長していくもの。
だから、このタレントの方は、稀に変化したりするのだ。
人の心が、影響するからだ。
◇
そして、オレたちは、ジャコウ大陸の中央マーハバルという都市にある大聖堂へ行った。
引率者は親たちじゃなくて、村の村長だ。
マーハバルまで家族連れなどの大所帯で行くには、とてつもなくお金がかかる。
だから、村で10歳になる者は、村長が直々に大聖堂に連れて行くことになっているのだ。
これが村の決まりだった。
「お前ら。今年は五人だもんな。いつもより経費がかかるからな。親は無理だわ。そこも入れたら、金かかりすぎだわ。ガハハハ」
なんて酷いブラックジョークをブチかます村長は豪快に笑っていた。
冗談を言ってオレたちの緊張を取り除くつもりだったのだろうが、当時のオレたちは、子供過ぎて、これが冗談だとは誰も気づいていなくて、ただの口悪い爺さんにしか感じなかった。
そして。
俺たちは大聖堂の女神の前で祈ることに。
天から声が……じゃなくて女神像から光が溢れて、オレたちに暖かな光を浴びせる。
左から順に女神像が話しかけてきた。
「レオン・・・あなたは、勇者です」
「・・・ゆ・・・・ゆうしゃ!?」
英雄職『勇者』
伝説級のジョブだ。
驚きすぎてレオンの言い方はいつもよりも幼くなっていた。
「ミヒャル・・・あなたは、大賢者です」
「大賢者・・・うちが・・・」
英雄職『大賢者』
いつも騒がしいミヒャルが大人しく受け入れた。
ミヒャルもまた伝説級のジョブ持ちとなった。
「エルミナ・・・あなたは、聖女です」
「聖女ですか。私がですか。なんて恐れ多いことなんでしょう。む、無理です」
英雄職『聖女』
エルミナは、自分の役職が自分の許容量を超えているのではないかと、将来を心配するそぶりを見せた。
「イージス・・・あなたは、仙人です」
「へぇ・・・仙人・・・って???」
英雄職『仙人』
イージスは、仙人と言われているのに、ピンと来ていなかった。
仙人って何なんだろって軽く思っているだろうな。
と、オレはイージスの顔をチラ見して思った。
四人は共に、超絶激レアのジョブ持ちだった。
英雄職は、世界に一人しかいない。
現世で一人しかなれない職と言われている。
望んでもなれるような職種じゃない人智を越えたジョブだ。
そして、オレの番となる。
女神がオレの名を呼ぶ。
「ルルロア」
その先が来ない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ん?」
なぜか女神の声が来なかった。
無言がしばらく続く。
「ルルロア・・・・・・ルルロア・・・・・・・・」
壊れたオルゴールのように女神は名前しか呼ばない。
「ルルロア・・・・あ・・・あな・・・あなた・・・・あなたは」
「はい!」
なかなかその先を言わない女神に、頭にきた俺は強く返事をしてみた。
ちょっといい加減にしてほしい。
早めに教えて欲しい。
「あなたは、無職です」
「・・・・・・・・へ!?」
カテゴリー無し。
『無職』
下級職。上級職。特殊職。専門職。英雄職。
世界の職種は、様々な分野に別れていて、分類もされているのに、オレはどこにも所属していない。
同じ時代に一人しかいない英雄職らと同じ。
オレは、世界に一人だけの無職であったのだ。
あいつらはクソカッコいいのに!
オレはめっちゃくちゃにカッコ悪い!!!
当時のオレは、そう思った。