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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第16話 英雄と無職 ③

 「それでは、ここからミルフィー山に登りますよ。皆さん、登山靴に履き替えましたか?」


 ガイドのママルさんの一声から、護衛任務が始まる。

 オレたちはミルフィー山の麓で観光客30名と共にママルさんの話を静かに聞いていた。


 「標高は850メートルの小さな山でありますが、準備をしっかりして登りましょうね! 靴は大丈夫ですかぁ」


 油断をしないでいきましょうと念を押すママルさんは、浅黒い焼けた肌に白い歯が輝いていた。

 ハキハキと話すその様子で分かる。

 陽気で万人に好かれそうな感じの元気いっぱいの人だ。

 それに、めっちゃくちゃ美人な人だった。


 だからこそ、オレは、こいつの様子を窺わなくても手に取るように分かった。

 このクエスト・・・・この人が目的だぞ。絶対な!

 

 横を向く。

 ハートの目になっているレオンが彼女に熱烈な視線を送っていた。

 だから、オレの方はこいつに軽蔑の視線を送ってやる。


 「ああ、麗しい人だ。どうやったら付き合えるかな。口説き文句って何が良いんだろう。彼女は攻略が難しそうだ」

 「色ボケ。そんなこと知らんわ!」

 「ルル、そんなに怒んなよ。眉間にしわが寄るぞ」

 「この依頼さ。ギルド会館の窓からあの人を見てたからだろ? あの人。美人だもんな」

 「ギクッ」


 レオンの肩が微妙に上に上がった。


 「何がギクだ! このスケベ勇者!」

 「なに!? ルル! 俺はスケベじゃないぞ!」

 「なんだと!?」

 「俺は、伝説のドスケベ勇者だ!!!!!」

 「んなことで自慢すんな。ボケ!!!!」


 ドスケベ勇者レオン。

 そんな事をオレに恥ずかしげもなく宣言するな。


 「おお。神よ、なぜこいつを勇者にしたんですか。ちょっとお間違いになられたのではないですか。この人、屑ですよ!! 変態ですよ!! もしかして勘違いなされたんじゃ。今取り消せば間に合います。神の手違いとして、間に合いますよ・・・あ、待てよ、こっちの方が良いな。処理をしておきます!」


 オレは天に向かってお祈りしながら言った。


 「何言ってんだルル。コノヤロー」

 「うっせ。馬鹿。黙ってろ」

 「んだと。やるか」


 とまあ、盛大に喧嘩したオレたちは、登山の護衛に入ったのである。

 

 ◇


 指示を出しおかねば、レオンたちが、好き勝手に護衛すると思ったので。

 オレは、動き出す前にレオンたちに先に指示を出した。


 「いいか。みんな、護衛の任務ってことはな。オレたちの命よりも彼らの命を優先することが第一だ! それを頭に入れてくれ。いいな!」

 「「「 おう 」」」「はい」


 四人が返事をくれたので、隊列を発表する。


 「よし。じゃあ、先頭はレオン。ガイドさんの脇に立って、先頭集団を守れ。モンスターが出たら真っ先に対処しろ。お前は前衛で、突撃隊長でもある。レオン、前線にモンスターが出たら、オレの許可なく戦えよ」

 「おうよ。まかせろ」


 レオンは胸を叩いて、任せろと言った。


 「次に、エルミナとミヒャル。二人は、お客さんの真ん中で、二人一緒に並んで登山してくれ」

 「え? 普通に登山ですか?」

 「なんでだよ。うちも前を」

 

 二人はそれぞれ別の反応を示した。


 「エルは、もしもに備えて、お客さんの為にプロテクトウォールの準備をして欲しいんだ。だから中間距離にいてほしい。そんで、ミーは、前にいたら駄目だろ。後ろに敵が現れた時に、魔法が遠くなっちまう。だから中間距離にいてくれ。全方向への攻撃。いわば、最強の砲台をそこに置いておきたい」

 「はい。いつでもできるように準備します」

 「なるほどな・・・それもそうだな。うちはエルと一緒にいるわ」

 「ああ。そうしてくれ」


 二人がすんなり納得してくれた。


 「・・・ルル、おらは・・・」

 「イーは、オレと一緒に最後尾だ。お前の気配とオレの索敵を同時に展開する。二人で協力すれば、不意打ちなんてもらわないはずだ。だから後方だぞ。いいな!」

 「・・・うん!・・・まかせて・・・zzz」

 「おいおい! 寝るなよ。今から山に登るんだからな」

 「・・・努力する・・・」


 若干不安が残るがイージスは努力してくれるらしい。

 オレは信じることにした。


 

 ◇


 山に登り始めると感じるのは、ウォーキングとして考えると、少し重めの運動量だということ。

 緩い坂道を歩き続けて、息が上がるというよりは、心地良い疲れを感じてくる山道。

 これだと、一般の人たちでも簡単に登れそうだ。

 観光客の人たちも笑顔で会話しながら登っているし、呼吸も整っているみたいで、全員が順調である。

 オレは、時々お客さんの様子もスキルで見ていた。


 「イー。気配は」

 「んんん、動物くらいかな。今はまだ」

 「そうだよな。オレの鼻もそんな感じがしてるわ」

 「・・・ルル、気配。広げてみる?」

 「ん?」

 「・・・感知、自分を中心に円で600m先までできる!」

 「範囲デカ!? でも、イー。それって大変じゃないか?」

 「たいへん・・・疲れる」

 「そうか。じゃあ、それはなしだ。いざ戦う時にお前という貴重な戦力が抜けるのは、こっちとしては大損失だ。索敵の基本は小範囲で、オレの鼻が広範囲。それと、オレが指示をした時だけ、そのスキルを開放しよう。無駄に使うな」

 「そうか・・・わかった。言われたらやる」

 「ああ、頼んだ」


 イージスは、意外とオレの指示を忠実に守ろうとしてくれる。

 それに、寝ないでいてくれるだけ立派でもある。


 

 ◇


 山の中腹まで進んでも、結局何にも起こらなかった。

 でも、これは護衛任務。

 だとしたら非常におかしいのだ。

 任務が『護衛』という名目であるのにも関わらず、一体も出て来ないのがおかしい。

 ここに多少のモンスターが出るからこそ、護衛の人が必要であるとガイドさんの会社が考えていたはずだ。

 それにDランクの護衛任務だから、最低でもEランクのモンスターが出てくるはずである。 

 スライムやウルフ、アルミラージなどの初級のモンスターたちだ。

 なのに、何も起きやしない……おかしい。


 

 「イー。嫌な予感がする」

 「・・・ぬ!? ルル、どした?」

 「オレ、先頭にいるママルさんの所に行ってくる。イー、背後の警戒を頼む」

 「・・・任された」


 嫌な予感がするから、先頭に行った。



 ◇


 「どれくらいの頻度でガイドしてるんですか」 

 「私は、週5ですね。多い方です」

 「そうですか……ママルさん、体力が着きますね」

 「ええ。おかげさまで足が、太くなっちゃって、いやですね」

 「ママルさんのような美しい足は、今まで見たことがない・・・ええ、美しいですよ。本当に全部が美しい」


 レオン改めナンパ屑男は、口説いていた。

 相変わらず女性であればところ構わず、何でも褒めまくるのである。

 照れているママルさんの後ろから、オレが声をかけた。


 「ママルさん!」

 「あ・・・はい。どうされましたか?」

 「現在の位置。中腹まで来ましたよね?」

 「ええ~、そうですね。大体今は、三分の二くらいですかね」


 首を振ってママルさんは周りの景色を確認した。

 オレたちはすでに半分以上も登っていたらしい。


 「な!? そんなに登ったのか・・・あの、一つ聞きたいんですが、ここまで来てモンスターが出ないってありえますか?」

 「・・・そういえば、変ですね。ここまでくれば、一つや二つのモンスターは出ますね」

 「やはり」


 彼女の答えが予想通りで、オレはスキル展開して思考加速させた。


 「なんだよ、ルル。どうした」

 「ちょい待ち、レオ。オレは考えをまとめる。スキルで思考加速させてるから話しかけないでくれ」

 「わかった!」


 レオンは一歩引いてくれた。

 こういう時になると、黙って見守ってくれる性質を持つのがレオン。

 ナンパ屑男だけじゃないのが、レオンという不思議な魅力を持つ男だ。

 だからこそ憎めない男でもある。基本が屑なのが残念だが・・・・。



 数十秒後。


 「レオ! やばい気がする。オレは引くことを提案する」

 「なに!? 何も起きていないのにか」

 「ああ。こいつはおかしい。何もないのがおかしいんだ。まさかと思うが、Eランククラスが委縮している可能性がある」

 「委縮だと」


 オレの声が聞こえる先頭に近い観光客たちは頂上へと進みたがっていた。

 山登りが止まっている現状にやや不満を抱いているわけだ。でもオレはそんな不満な状態を見ても、退却の指示を出したいと思っている。


 「鼻に匂いがこない…そして、イーの気配にも敵が引っ掛からない。ということは辺りにモンスターがいない。でもママルさんがいうには、普段であれば、一つや二つのモンスターが出るって言っているなら」

 「なら・・・?」


 オレの予測は、この状態が問題だらけだという事だ。


 「Cランク以上のモンスターがここにいる可能性が出てきた。Dランク程度であればEは委縮しないけど、Cランク以上であればEは委縮するはずなんだ。これがモンスターの格の違いによる委縮だ。オレは軍で経験したことがある。レオン、モンスターには序列があるんだよ」

 「なに! Cっていやぁ。二級冒険者が必要じゃんかよ」

 「ああ。それが護衛任務なんだ。この三十名を守りながらだと、それはもうBランクのクエストだぞ。俺たちのような四級がやっていい任務じゃない。準一級か一級がやらねばならん」

 「マジかよ。でもなぁ」


 レオンは隣にいるアルマさんを見た。

 ママルさんが困った表情になっている。

 起きてもいない事態で、この仕事を放棄してもいいのか。

 この悩みは分かる。

 ママルさんも、この仕事のプロだからだ。

 皆を頂上に連れて行くのが第一優先だろう。

 起きてもいない事で、止まるのも怖い。

 でも起きそうな事で、止まるのも勇気が必要だ。


 だけどオレは、これと似たような経験をいくつかしている。

 それは師匠との合宿で、こういう事態に遭遇したことがあった。

 モンスターは二つ上のクラスが近くに存在する場合。

 基本身を隠す傾向がある。

 だから、もしかしたらその可能性があるのかもしれないと思ったのだ。


 「ほ、本当でしょうか。Cランクのモンスターってここでは見たことがないです。ミルフィー山は他の山に比べても安全な山で、だからこそ人気の観光スポットですし……」

 「そうですよね。ママルさん。オレのは、あくまでも予想です。進む事を決めるのはガイドのママルさんと、オレたちのリーダーのレオンなんで。どっちでもいいんです。オレは注意して欲しいとだけの連絡に来ました」

 

 進言はしたが、レオンの意向に沿おうと思う。

 オレたちのリーダーはレオンだからだ。


 「ママルさんが決めていいです。俺はどっちにしても全力であなたをお守りしますよ」

 「そ、そうですか。でも私よりもお客さんを」

 「それは当然、ですがあなたは全力で」

 「ま、まぁ・・・そんなぁ」


 とまあ、オレをいいダシに使って、ナンパを始めたので、レオンに蹴りを入れてから、オレはイーの元に戻った。


 ◇


 後方に戻った後。


 「ルル、どうだった」

 「ああ。進むって」

 「・・・そうか。なら、気配をあげるか? ・・・おら、範囲を広げてもいいぞ」

 「いや、もしかしたらCランクのモンスターが出てきた場合。お前たちが戦わないといけないから、待機で頼む。索敵はオレだけがやる。イーは休憩で頼む」

 「・・・うむ・・・そうする」


 オレの警戒レベルを上げるだけにした。

 そして、山の頂上が見えてきた時に異変が起こったのであった。

 

  

  

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