第14話 英雄と無職 ①
冒険者。
それは、大陸を股にかけて旅をする者。
それは、未知なる素材を求めて、ダンジョンへと潜る者。
それは、誰も倒したことのないモンスターに挑む者。
それは・・・・・それは・・・・それは・・・。
冒険者は、どんな職業を持っていても、誰しもがなれる分、冒険者には色んな目的を持った人がいる。
人それぞれ、夢や目的が違うけれども、冒険者が冒険することには変わりない。
人生という大冒険を。
その機会は、等しく誰にでも与えられているわけだ。
冒険者を始める時。
オレは、いつも一緒の英雄たちといた。
こいつらと一緒なら何でも出来るんじゃないかと、胸躍る大冒険が出来るんじゃないかと思っていたものだった。
無職が一人と英雄が四人。
どこか歪であったのに、でもなぜかバランスが取れた冒険者パーティー。
それが、オレたちである。
彼らは、オレの為に冒険者になったのだ。
一緒に冒険すること。
それが彼らの夢で、オレの夢は、英雄職にふさわしい偉業を彼らに。
前人未到の偉業を、あいつらに達成してほしい!
であった。
その偉業達成の時、そばにいられたら幸せだ。
こいつらが、オレの自慢の友達なんだって。
ジジイになった時にでも、孫に自慢してやろうかと思ってたんだ。
◇
学校卒業後。
オレたちはすぐに冒険者として動き出そうと、マーハバルのギルドに向かった。
「お姉さん、そこのお美しいお姉さん。冒険者になるにはどうしたらいいんでしょうか?・・・そんなことよりも今日はお暇でしょうか。今は、お忙しくても夜にでも。成人したばかりですが、お酒は飲めますよ。ぐびぐびっと、俺とどうです?」
勇者レオンはいつも通りの屑。
受付の女性をナンパして、ついでに重要な質問をしていた。
大事な事の方をついでに話すなよと言いたい。
「どうしたの。君・・・あら、まあ」
「いやあ、あなたがあまりにもお美しく。俺は見とれてしまいましてね」
会話の中身が、どんどんナンパの方に傾いたので、オレはその隣の受付の人の前に立った。
あのモードになると、埒が明かない。
オレは、こいつをほっといて、話を進める。
「すみません。冒険者登録ってどうやるんですか?」
「はい。ええ、こちらの白のカードに名前を記入してもらいます。それとこの裏面に天啓で得た職種を書いてもらいます。それでこちらに持って来て頂ければ、冒険者登録は完了です」
「説明ありがとうございます! 技能検査とかないんですね」
「ありません。冒険者ギルドは、冒険者になりたい人をいつでも歓迎しています」
「そうですか。分かりました。助かりました」
白のカードを四枚手に入れて、オレはギルド内の丸いテーブルに座る四人の前に行った。
彼らにカードを配って、自分の名前を書く。
「ルル! レオンの分は?」
ミヒャルがカードをもらいながら聞いてきた。
「ミー。あの感じで。素直に名前を書いてくれると思うか。今のあいつは、この席にも来ないわ」
「そうだな。いつものか・・・駄目だなあいつ」
ミヒャルが冷ややかな目でレオンの事を見た。
「ああ。だから、あいつだけ、後で自分でやらせればいいと思うじゃん。オレたちは勝手にやろうぜ」
「そうだな。賛成!!!」
オレとミヒャルの意見が珍しく同意見となる。
レオンはまだ女性を口説いていた。
「ルル! 本当に職業を書かなければいけないのでしょうか」
「ん?」
「あまり書きたくないですね。知られたくありません」
「そうか・・・でも、書かないと、冒険者になれないみたいだぞ」
「そうですか」
目の前にまでカードを持ってきて、ジッと見つめていたエルミナは、意を決してテーブルの上に置いてあるペンを取り出した。
名前を書くだけで躊躇っている。
「仕方ありません……我慢します」
少しがっかりしたエルミナは、自分の職業が気に入らないのではない。
重いと感じているんだ。
聖女という役職に、常に重みを感じていて、自分が聖女という崇高な人間であると微塵も思っていないから、いつも『私には荷が重いのです』と、これが口癖になりそうなくらいに言っている事なんだ。
でも、オレはそんな彼女にこそふさわしい職業だと思ってる。
だって、女神のように綺麗で、女神以上に優しいんだ。
これは内緒にしておこう。
「・・・・ルル・・・・おら、書いた」
「お! 珍しいな。イーが最初だなんて・・・っておい!!!」
「・・・な、なんだ!?」
イージスの字が汚すぎて読めません。
ぶれぶれの字では、ギルドの職員さんたちが、読み取れなくて困ってしまいます。
「ったく、イー。オレがお前の手を握ってやるから、書き直すぞ」
「・・・えええ・・・・めんどい」
「誰がめんどいって、オレがめんどいんだよ。お前はただペン握って、大人しくしてろ」
「・・うん」
しょんぼりしたイージスは、ペンを握り、その上からオレが手を握って、イージスの記入をやり直した。
イージスという男は、世話のかかる弟みたいな奴なんだ。
「・・・おお! 出来た・・・寝る!」
「寝るな! アホ」
イージスの頭にチョップをするが。
「zzzzzzzz」
寝た。
とにかく眠るイージスである。
◇
それぞれカードに記入し終えたので、オレが立ち上がって皆の分を回収した。
「そんじゃ、提出するぞ。皆の分。持っていくわ」
「任せた」
「ルル、お願いします。ありがとうございます」
「・・・・うむ・・・おらのも・・・・たのむ・・・ぞ」
四人分を持って受付の前に行くと、オレの隣ではまだ・・・。
「いやぁ、お姉さんのようにですね。お美しい肌になるには、どうすればよいのでしょうかね。俺もあなたのように・・・なりたいですね。どうです今晩」
ナンパが続いていた。
だから、思いっきりレオンの尻を蹴る。
「いでえ。だ、誰だよ。ってルルか! 何すんだよ」
「あほ! オレたちは、もう登録するからな。お前だけ登録してねえかんな」
「え? ずるいぞ。ちょっちまて、俺を待て」
勇者レオンは、わがままである。
「そんじゃ、そのお姉さんから、白のカードをもらって名前書けよ。馬鹿!」
「辛辣だ。お姉さん。この友達、酷いですよね」
「いえ。その方の言う通りで、早く受付してください。それにここから帰っていただけないでしょうか。仕事が出来ません」
お姉さんはナンパに負けていなかった。
毅然とした態度で、早く書けよ馬鹿と言っている気がした。
「ガーン。脈なしだったのか・・・俺は」
「うっせえわ。お前! いい加減にしろや」
オレはもう一度レオンの尻を蹴った。
「いでえ。お前の蹴り強いんだよ!」
「それは当り前だろ。こういう時の為に鍛えてあるからな、ナンパ男」
受付のお姉さんが、若干笑った気がした。
◇
四人分提出して、その確認を取っている女性の顔色が、七色に変化していくのに、オレが気付いた。
彼女が見たカードはオレからだった。
「え?・・・え?」
無職なのこの子。
彼女が鼻で笑った気がした。
次にミヒャルのカードを見た。
「だ・・だだ・・だ」
カードに驚いて、「だ」しか言ってない。
そこまで「だ」を言うなら大賢者まで言えばいいのに。
さらに彼女はエルミナのカードを見た。
「ぶは! 息が・・・」
息が詰まったらしい。
聖女の衝撃ってやつのせいですかね?
その衝撃、腹にでも来ましたか?
お腹を押さえていますが。
そして最後に彼女は、イージスのカードを見た。
「・・・あああ・・・あ」
急に息絶えた。
女性は受付のテーブルに頭を打ち付けて気絶した。
「あの。この場合、受付はどうなるんですかね」
シンプルに倒れた人に聞いてみるが、当然に反応がない。
マジでいい迷惑である。
とっとと受付をしてほしいのに、一人コントを披露してくるんだ。
「ぎゃあああああああああああああああああああ」
隣の美人な受付のお姉さんは、ものすごい悲鳴を上げた。
「ゆ、勇者!?!?!?!??!!?!?!?」
隣の受付の人は、最後に勇者と言って気絶したのである。
「何ここのギルド、気絶が流行ってんの?」
「ああ、そうみたいだな」
レオンが言ったことに、オレは全面同意した。
受付の人たちが、お仕事出来なくなったのでした。
◇
この一連の流れが騒動になった。
オレたちが起こした騒ぎだと勘違いしたギルドマスターが登場。
ここのギルドマスターを一度も見たこともないのに、オレたちは速攻でギルドマスターだとわかった。
その訳は、このギルドマスターの胸に『マスター』とでかでかと文字が書いてあったのだ。
洋服の上にゼッケンのようなものが掛かっており、『マスター』と自己主張激しく書いてある。
何だこの人、自慢したいのか。おっさん!
マスターの顔が怒っているのは、どうやらオレたちが女性を襲ったとでも勘違いしているらしい。
オレは心の中では勘違いすんなよって思ったんだけど。
確かに、実際にナンパしてた屑が隣にいるから、そう言われると完全に否定できないのが、なんかむず痒いし、嫌だった。
何もかも、レオンのせいである。
「君たち、私の職員に何をしたのかね。暴れるなら出禁にするよ」
「オレたちは暴れてないですよ。こちらの女性たちが、オレたちのカードを見て気絶しただけです」
オレは冷静に答えて、女性の手にあるカードを指さした。
「ん? ギルド登録で? 気絶? ありえるの?」
そんなのこっちに聞かないでほしい。
初めてギルドに来たんだからさ。
もしかしたら、他の人でも気絶するかもしれないじゃん。だから答えられないよ。
マスターのおっさんがカードの中身を見る。
すると、勝手に腰が砕けて、勝手に足が崩れ始めていく。
まるで酔っぱらいみたいに千鳥足になった。
「な、ななな。なんだって、勇者に大賢者に聖女に仙人!? し、信じられん」
やはり、その驚きの中にオレが含まれていない。
当然である。
無職でビビるわけがない。
無職は馬鹿にされる部類だからだ。
「それで、冒険者として登録できるんでしょうかね。マスターさん」
レオンが聞くと。
「ゆ、勇者様・・・そ、そうですね。登録します」
手が震えるマスターのおっさんは、冒険者ギルドの書類にオレたちの写しを取った。
登録はこれにて完成らしく、簡単すぎる登録方法に、これだから誰でもなれるのだろうと思った。
そして、まだ手の震えが治まらないマスターから、カードを受け取った。
「あ・・と・・これを。冒険者の基本事項をまとめた本です。今、五冊はないので一冊しかありませんがよろしいでしょうか。勇者様」
「え。ああ。それでいいですよ。受け取ります」
レオンが教科書のような分厚い本を受け取る。
「ルル、まかせた」
「おう」
流れるようにオレに本を託す勇者レオン。
完全にオレは読みませんと言っているのである。
やはりわがままである。
こうして無事に登録が終わったのである。
ひと悶着あったが、とりあえず冒険者になれた事件だった。




