第12話 今後必要な事
「ルル! お前……腕に磨きが掛かってんな。強くなってるわ」
師匠は、オレと兵士さんたちの訓練を見てくれていた。
皆よりも一つ高い位置で、全体訓練を見ながらも、オレの実践稽古も確認している。
この同時に色々な事を把握する能力が、師匠が軍師として天才である証拠だ。
「本当ですか! いやぁ。なんとなく強くなったかなっという感じですね。あいつらに比べればまだまだでしょうけどね」
「いや……お前さ、割と自己評価が低いと思ってたけどさ。かなり低すぎじゃないか。もっと誇れ。もっと自信を持て。たぶん今のお前は、英雄職以外の奴と戦ったら、誰にも負けんぞ」
「え? ま、まさか。そんなに強くはないですよ。師匠。オレ、無職っすよ」
「いいや。この軍の誰よりも強い。それは確定だわ。な! お前ら!」
師匠が、皆に同意を求めると、速攻で返事をした。
「「「 はい。司令! 」」」
皆が、師匠に敬礼してから、これもまた速攻で俺の方を見た。
その時の目が、みんな笑っていない。
普段なら、優しく見守ってくれる眼差しなのに、皆が真顔で真剣である。
「え? いやいや。そんな。少しは強くなったかなくらいに思ってたから、そこまでは・・・さすがにないでしょう」
「お前、どれくらいスキルを獲得したんだ? 相当数あるよな」
「ええっと、大体150はあると思いますね」
こう言った瞬間。
周りの兵士たちが、嘘だろとマジかよを連発していた。
顔も引きつっているし、ドン引きされたようだ。
「150だと!? ああ、なんか頭が痛くなってきたわ。ガキの頃はたしか、50くらいだったよな。100も増えたんか……十分バケモンだわな」
「化け物だなんて。ありえないありえない。師匠は本物をそばで見てないから、そう言えるんですよ。オレなんてヒヨッコですよ。あいつらを見ていればね」
「お前な。比べる対象がおかしいんだよ。あいつらは化け物だけど、もはや人の領域を外れた者たちだ。なのに、お前は人の領域にいながら、人の領域を超越しようとしてるんだぞ。アホ!」
「何もそんな言い方しなくても・・・」
師匠が辛辣なのはいつも通りだけど、今回はかなり辛辣だ。
オレに呆れていたんだと思う。
それくらいに強くなったみたいだ。
オレって、その実感がないから、皆の気持ちがちょっとわからない。
まあ、自虐はしないように、気をつけよう。
◇
その後も、オレはしばらくみんなと一緒に模擬戦闘を繰り返した。
一対三十くらいの戦闘で、高速でスキルを切り替える特訓も兼ねていた。
みんなの実力が、大体二級冒険者と準一級冒険者くらいで、師匠仕込みの訓練のおかげで、とても強い兵士さんたちである。
これを滞在ギリギリまで繰り返すこととなった。
そして、滞在残り一日となった時、師匠が自分の天幕にオレを呼んだ。
「やっぱ、あれが欲しいよな。あれでお前はもっと成長すっかもしれん」
「ん?」
師匠が会話のスタートから、あれを連呼する。
それは一体なんだ?
オレは、あれを読み解かなくてはならない。
「あれだ。なんだっけな・・・あれ・・兄貴の」
「師匠、あれってなんですか!」
気になる言い方をしているのに、師匠はしばらくあれだけしか言わないのである。
いい加減中身を教えて欲しい。
「兄貴のスキル『指導』と『教え』だ」
「先生のスキル!?」
「ああ。お前、兄貴のスキルを知ってるか?」
「いいえ。先生は自分のことをあんまり話しませんからね。よくわかりません」
「そうか。兄貴のスキルってのはな・・・」
師匠が教えてくれたのはジョブ『教師』についてだ。
教師の初期スキルは『指導』『教え』である。
指導は、名の通りに誰かを教える事に特化したスキル。
教えは、人に物を教えるのが上手いというスキルであって、レベルが上がって来るとその練度が上がり、自分にもその教えの効果が帰って来るらしい。
たとえば、戦士の子に指導をしていくと、その教えの分だけ戦士の力を得られたりするらしい。
「それでな。通常、ジョブはルート選択がある。それは知ってるよな」
「はい。分かります」
「うむ。戦士だったら、パワー系。スピード系。バランス系と、取得できるスキルに違いが出ていくんだ。上級職の、重戦士。軽戦士とは違う形だろ?」
「はい。基本職の人もルート選択があるからこそ、上級のジョブと互角に戦えるってことまでは勉強してます。というか。ある事件で理解しました」
「よし。さすがは兄貴の教え子だ。んで・・兄貴の本来の」
ホンナー先生が持つ『教師』は特殊職だが、ジョブのルートが存在する。
生活指導。学習指導。進路指導。の三つに分岐するらしい。
「それで、実は兄貴はな。分岐せずにこれら三つを取得してんだよ。兄貴はすげえだろ・・・・んで、ルルは、兄貴の才能。聞いてるか?」
「いいえ。知りません」
「そうか。なら教えておくわ。兄貴のタレントは博愛だ」
「博愛?」
「ああ。博愛の能力は、人類皆平等という精神を持つ者って意味のタレントだったな。たしかな。それの副次効果が、ルート分岐の破壊だったはずだ。兄貴は三つの指導を得ることが出来ている。それで、この三つを取得した教師ってのは、指導と教えの上を覚えることが出来るんだ」
「指導と教えの上?」
「ああ、生徒指導と呼ばれるスキルになるんだ。全てのスキルが組み合わさって、人に物を教えるのが完璧になるんだよ。だから兄貴の授業ってさ、何でも覚えられただろ? 興味ないのでもよ」
「・・・たしかに、先生の授業は一時間で、スッと頭の中に入っていく授業でした」
「だろうな。でもな、兄貴の凄さはそこじゃない。実はな、兄貴は剣と魔法が扱えるんだ」
「え!?」
「兄貴の生徒指導ってスキルは、元々教えのスキルも入っている。そこで教えのスキルの効力を教えておこう。あれは、相手に物事を教えると相手の物覚えが良くなるという効果と、教えた人間自身も成長するという効果がある。だから、兄貴は様々な人間を指導してきたから、兄貴自身の能力の基礎は盤石でな。普通に戦ったら、一級冒険者以上かもしれん。それにタイマンで戦えば、俺よりも強いかもしれんぞ」
「せ、先生が・・・・信じられない」
普段ニコニコした姿の先生が、戦う?
オレのイメージにはない姿だった。
剣や魔法を扱うなんて、そんなイメージは出来ない。
「それでな。お前は兄貴から、指導と教えを貰った方がいいかもしれんわ。もしかしたら、お前の職人気質で兄貴の生徒指導と似たような効果を得られるかもしれん」
「オレがですか!? いや、先生の教師は特殊職ですよ。覚えるのに何年かかるのか」
「何言ってんだよ。ルル! お前、あいつらの英雄職のスキルを覚えてんじゃないかよ。だったら覚えられるだろ!」
「いや、あれは生まれた時から一緒に育ったからこそ使えるスキルで、先生とは三年しか一緒じゃないですし」
「ん! いいんだよ。やってみりゃいいんだ! 今は何も考えずに兄貴の所に行って勉強して来い。兄貴の手伝いはおそらくだが、お前にとって、人生の分岐点になると思う」
「はぁ。そうなんですかね」
「いいか。やってみろ。なんでも挑戦だ!」
「わかりました!」
なんか、師匠の言い方が、オレの親父のようだった。
「そんじゃ! 明日は朝早いからな。帰ったら兄貴の手伝いしてみな」
「そうですね・・・そうしてみますね」
「おう! 寝ろよ!」
今後のオレの目標が決まる。
それは先生と過ごす事になり、先生を理解する事。
それと指導と教えだ。
たしかに、このスキルがあれば、もっとファミリーの仲間たちを強くしてあげられたかもしれない。
オレは、なぜ先生のスキルを学んでおかなかったんだろうか。
この日。
オレは少しだけ後悔して眠りについたんだ。




