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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第10話 大賢者と無職

 マルサンガリに到着したオレは、港に行って波を確認した。

 しかし、それも意味がない。

 すでに真っ赤な波が、海岸に来ていたんだ。

 問題は、それが、何度目の波であるかだ。

 おそらく師匠が全体指揮を取っているはずだ。

 オレは、真っ先にグンナーさんを探す。


 「師匠! 何度目の敵ですか!」


 海岸に近い位置に師匠がいた。

 位置が後方ではなく、前目の位置で戦っている辺りに、軍が完全にモンスターに押されていることが分かる。

 最後方となるはずの師匠たちが、前線までいかねばならないのは、交代が早めに行われている証拠だ。


 

 「誰だ? 民間人は引っ込んでろ! ん。師匠???」

 「オレです。ルルロアです。師匠!」

 「なに!? お前があのルルか! 見違えたな」

 「はい。でも懐かしむのは後で、オレも参加します! 指示を! 師匠の指揮をください!」

 「・・・いや、駄目・・・違うな」

 

 師匠は一瞬ためらったが、オレに任せてくれる。


 「分かった。お前はそのまま、前進でいい。周りをフォローに回す! 暴れてよしだ!」

 「分かりました」


 グンナーさんの指揮を得て、オレの動きは良くなる。


 「うおおおおおおおおおおおおお―――桜花流『乱れ桜』」

 

 武闘家のスキル『肉体加速』を使用して、オレは桜花流を重ねた。

 肉体の速度ではなく、加速能力をあげるスキルだ。

 一つ一つの初速が異様に速くなる事で、ルナさんの剣技『桜花(おうか)流』も加速させた。


 大体にして、オレはスキルを同時に扱えないので、ルナさんのオリジナル技が頼りだった。

 ルナさんは侍の技スキルじゃない。

 特殊な技が使える。

 変わった人なのはご存じの通りだが、変わった侍でもあるのだ。

 だから、師匠は、オレとの修行をするのに最も適した人物を、ルナさんに決めたんだと思う。


 脇差を持つ手を加速させる。

 それにて、剣が花を咲かせる。

 乱れ咲く花びらは、相手を斬り刻む。

 この連撃によりモンスターを一度に三体撃破した。


 「雑魚の数がやばい。相変わらず、赤い波は凄まじい。ん! パルコスさん!」

 「い。お。だ、誰だ?」

 「オレです。ルルです!」

 「なぬ。お前、デカくなって。立派になったな。オジサン嬉しいぞ・・・ってそんな暇ないわ」


 口周りの髭がトレードマークのパルコスさんは、モンスターの攻撃を剣で受け止めた。

 

 今の戦場にいる雑魚モンスターは『ローブバックス』

 人間並みの大きさのザリガニで、両手の左右で二本ずつの手が、ハサミになっているので、それで人をチョキチョキ切り刻もうとする迷惑極まりないモンスターだ。

 ついでに口もなんかヒョロヒョロ紐みたいなものが出てて、気持ち悪い。 

 出来たら見たくない顔立ちである。

 大体、こいつは二級冒険者で倒せるレベルであるが、それが無数に出てくるので、軍の兵士たちでも耐えるのに精一杯である。

 

 「パルコスさん、今は何波目ですか」

 「こいつは四で、その終わりも見えてくると思うが。でも異例でよ。ほれ、あそこにボスが出てきた。波を起こした張本人がもう見えているんだ」


 パルコスさんが海を指さす。


 モンスターウエーブは、波を引き起こすボスが存在する。

 一度、二度と波をドンドン引き起こして、ボスモンスターは前進してくる。

 

 モンスターウエーブのボスは、波の間で海岸の様子を窺う。

 これは、ボスモンスターの気持ち次第なんだと思うが、この海岸の奥を攻め込めないと感じると波を起こさずに海の方に引いてくれるという性質がある。

 だからこちらとしては籠城して戦う事になるんだ。


 でも数が多いから、こちらの被害は甚大。

 何度も来る波が、モンスターの数を徐々に増やしていくからだ。

 こちらとしては終わりの見えない戦いを強いられる。

 

 だが、ここでオレは、そこに終止符を打とうと思う。


 「あれは・・オクトパスミラーだな。よし」


 超巨大な青いタコの見た目をしているのがオクトパスミラー。

 頑強なガラスのような外面をしていて、防御力がある。

 キラキラと輝いて見えるのはその反射の光だ。

 モンスターランクはA。

 ただし、こちらが陸。あちらが海。

 討伐難易度はおそらくSランクとなるだろう。

 つまりは特級クラスの冒険者がいて、倒せるレベルだ。


 

 ◇


 オレは一度グンナーさんの所まで引いた。


 「師匠。一気に片をつけます。あそこらへんでオレのことを守ってもらってもいいですか」


 砂浜の中央を指さして、防御陣を敷いてほしいと言った。


 「何!?」

 「あの、オクトパスミラーを。オレが絶対に倒します。それで終わりにして見せます」

 「え? 何? 終わらせるだと」

 「はい師匠。時間がありません。全体指示をお願いします!」


 オレが絶対に倒して見せるからと頭を下げると師匠は。


 「わかった。信じるぞ。このままじゃ、戦列維持も辛いしな。よし、お前を守る方向でいく。A、B班、ルルを守れ。CはA。BはDの持ち場を一旦守ってくれ。戦列を維持だ」


 信じてくれた。

 現在、軍は班体制を変えていた。

 あの時の戦いで、多くを失ったので、班編成の数を多めにして、ABCDの四つの班を作っているみたいだ。

 数からするともう一部隊とも言っていいだろう。

 数にして50~100。

 ざっと見てもわかるくらいに大編成をしていた。


 「「「「 はい! 」」」」


 各班の隊長はグンナーさんの指示に返事をした。


 A班とB班が沿岸にて、オレを守る。

 盾を持った兵が、敵の攻撃を封じると、オレはあるスキルを呼び起こす。


 「来いや。魔法の最高到達点 大賢者スキル『魔法の心髄』」


 今までのオレは魔法を使ってこなかったが。

 実は魔法を扱える。

 そしてその中でとっておきのスキル。

 魔法の最高到達点の大賢者のスキルも扱える。

 こいつは、ミヒャルの初期スキル『魔法の心髄』だ。


 普通の無職で、普通の探究者ならば、覚えることは不可能だろう。

 でもオレは普通じゃない。

 だいぶ自覚してきた。


 オレは、友のスキルを扱えることで、英雄と似たような力を扱えるんだ。

 だから分かる。

 オレって、あいつらの事が大好きなんだってな。

 心から、大好きなんだ。

 こんな無茶苦茶なスキルを覚えることが出来るくらいにさ

 ああ、そうだ・・・・大好きなんだぜ。お前らがさ。

 無職は自慢にならないけど、これだけが自慢だ。


 「いくぜ。はああああああああああああああああ」


 右手の中に押し込めるようにして魔力を最大限まで高める。

 バチバチっと、稲妻のような轟音がオレの手から鳴った。


 「こ・・・これを、もっと集約してだ・・・まだまだ」


 初期魔法サンダー。

 力が外に霧散しやすい魔法だが、オレはこの手に集約し圧縮していく。

 通常サンダーの色は黄色であるが、オレのサンダーは集約すると紫。

 周囲に轟いていた音が無くなると、魔法が完成したい合図だ。

 紫の色へと完全変化して、音が消えた。


 「これはサンダー。オレだけが使用するただの初級魔法」


 サンダーを右手で投じる動きに変えた。


 「くらえ。この野郎! オレたちの大陸から跡形も無く消えちまいな! 無音無職の稲妻(リラサンダー)


 やり投げのようなスタイルから、一気に振りかぶる。

 目標は海岸よりも遥か沖にいる敵。

 普通のサンダーなら届くはずがない距離だ。

 だから敵は油断をしている真っ最中だった。


 「余裕ぶっこいてんじゃねえ。何度も波を起こしやがって。大人しく死にな。この腐れタコが!!!!」

 

 紫の稲妻は音を立てない。

 無音で光って、オクトパスミラーの頭を貫く。

 奴のガタイからみても、とても小さな穴が眉間に出来上がった。

 あれでは、貫通した穴からの痛みを感じないだろう。

 オクトパスミラーが、この程度は大した傷ではないと、余裕の笑みを見せた瞬間に、頭から紫の炎が沸き上がった。

 赤い海の上で、頭が紫に燃え盛る。

 奴は、海に潜って火消ししようとするも、その火は絶対に消えない。

 なぜなら、紫の雷は体の表面を焼いているのではなく、体の芯を焼いているからだ。


 「海に潜った程度で・・・・お前、なめんなよ。オレの雷は、お前の命を食らい尽くす」


 赤い波が段々と薄くなってきた。

 どうやら敵は海の中で燃え尽きたらしい。

 これにて討伐完了である。

 パルコスさんの声が聞こえてきた。

 

 「やったな。ルル! お前。魔法を使えたんだな。って。おい! ルル! グンナー司令官! ルルが!!!」

 

 パルコスさんの声が遠のいていく。

 オレの意識は消え始めていた。


 「パルコス、どうした! な!? ルル、大丈夫か。ルル! こいつは・・・」


 師匠の慌てた声も遠のいていった。


 魔法は扱えても、やはり大賢者スキルが厳しい。

 あの勇者スキルを使った時よりも消耗度が激しいんだ。

 肉体が限界を迎えて、意志とは無関係に、勝手に眠り始めた。

 もう動かせない。

 体が休みたいと言っているんだ。

 皆の慌てる声が子守歌になっていく。

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