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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第8話 新たに

 スーパーハイテンション親父と、いつもよりも優しいお袋は、オレが家にいても文句ひとつ言わないで生活をさせてくれた。

 息子が新たな道を歩むのを無理くり決めさせるのではなく、ゆっくり決めていいんだと言わないけど、そう態度で示してくれたんだと思う。

 まあ、毎朝、親父は応援をくれるのだが、頼むから昼か夜に頼みます。

 あれに対抗するために、めちゃくちゃ夜早くに寝ないといけないから、大変なんだ。


 「そんじゃ。七日もいたし、そろそろ先生の所に行くわ」

 「そう。じゃあ、お金は?」

 「そうだな。どんくらいあんの?」

 「はい」


 お袋がドンッと見せたのは、預金通帳と現金。

 二人は、銀行にも預けていた。


 「ば!? 馬鹿な!? まるっきり手をつけてないじゃないか」


 パラパラと通帳をめくって金額を確認。


 「ええ。それと手持ちはこれよ。こっちにもある」

 「え、まだあんの!」


 通帳には100万Gがあった。

 手持ちは10万Gである。


 ジェンテミュールのクエスト達成報酬は、分配形式である。

 内訳は、ファミリーと、クエストメンバーで50、50にする形式だ。

 

 そして、クエストに参加した人数でも割る形を取っていた。

 俺たちは四大ダンジョン制覇の内の二つをクリアしている上に、その他の難関クエストもいくつか達成しているので、個人収入も馬鹿にならない。

 だから、そのお金を仕送りしているので、通帳の中身を見てオレは驚いた。

 マジでお袋たちは一度も金に手をつけていなかったのだ。


 「そうだな。それじゃあさ。この通帳は置いておくわ。んで、今ある現金の5万くれ! そんでこっちの5万はお袋がもらってくれないか?」

 「え?」

 「親父はつっぱねるから、お袋が黙って受け取って欲しい。オレの気持ちをさ」

 「・・・え。いやよ。私だって、あなたの世話になるのは嫌よ」

 「いいの。これは生活費に入れるんじゃなくてさ。お袋の好きなものを買ってくれよ。食べ物でもいいしアクセサリーでもいいからさ。とりあえずもらってくれたっていう建前でもいいんだ。オレの心が晴れるからさ!」


 お袋は、難しい顔をしていたが、しぶしぶ承諾してくれた。


 「そう。じゃあ、そうするわ。でも一度きりよ」

 「ああ。でもオレも諦めないで仕送るけどな。んじゃ! オレ、マーハバルに行ってくるよ」

 「いってらっしゃい」

 「うん。いってきます」


 とにかくオレの母も親父と一緒で意地っ張りだ。

 是が非でも金を受け取らんという意思を感じる。

 でもとりあえず受け取ってもらえてよかった。

 オレはちょっとだけ喜んでマーハバルへと出立したのだった。



 

 ◇


 マーハバルの東。

 そこにあるのが日曜学校である。

 内政職の為の研究棟。戦闘職の為の訓練棟。授業を行うための校舎。

 様々な施設が生徒たちの才能を伸ばそうとしている。

 素晴らしい教育機関、それが日曜学校なのだ。


 三年ぶりの学校だけど、ついこの間まで通っていたかのように感じるくらいに、ここも変わり映えしなかった。


 オレは、校舎にある職員室の中に入り、先生を探す。

 すると窓辺に立って、下を覗いている先生がいた。

 校庭で走り回る生徒たちを笑顔で見ていた。

 相変わらずのほほんとしている先生だった。


 「ホンナー先生!」

 「ん?・・・どなたでしょう?」

 「え、オレですよ!」


 先生はオレのことが分からなかった。

 三年しか経ってないのに、覚えていないなんて、心が少し傷ついた。


 「……黒い髪。黒い眼。キリリとした眉。いい耳をお持ち・・・おお! もしや、ルル君では!」

 「そういう認識なんすね。先生の中のオレは」


 かなり独特な覚え方だった。


 「いえいえ。あまりに立派になっていたので、誰だかわからなかったのですよ。成長しましたね。身長も伸びてますし、ガタイも良くなりましたね。はははは」

 「そうですかね。自分ではよくわかってないですね」

 「いやいや、とても凛々しくなられて。あれ。お一人ですか? 皆さんは?」

 「それが・・・」


 話しにくそうなオレに対して、先生は場所を変えてくれた。

 職員室から生活指導の部屋に移動し、誰もいない場所で会話した。

 全ての事情を説明すると、先生もまたお袋と似たようなことを言った。


 「そうですか。心配ですね。彼らが・・・」 

 「え? あいつらがですか。オレに比べればあいつらは大丈夫でしょう。オレは仲間にあいつらを託しましたし」

 「いいえ。逆ですね。むしろ君こそが大丈夫な人です! 君は、一人でも自分の道を決められるはずです。でも彼らは君を失えば・・・おそらく、大変な事になるでしょう。彼らは君に依存していましたからね。入学して卒業するまでの間に、君たちをバラバラに成長させたのは、君への依存度を下げる事でしたからね。だから、彼らは……んん、完全に君を失えば、どうなる事やら・・・」


 先生は今後のあいつらを憂い、紅茶を飲んだ。


 「え。バラバラに? それってあれですか。二年目の時にオレと先生だけになったのは」


 あれが意図的だったらしい。


 「そうですよ。君と私のマンツー授業は、彼らと君を引き離すための口実。彼らはあの時、君がいないと精神が絶えられない。そんな感じが見受けられたのでね。大人になっても君に依存しては、ダメでしょ!」


 先生の目がチラッと開いたような気がした。

 その目で、こちらを見てくれるのも珍しい。


 「だから、私は彼らを一人一人にして、他の授業に組み込んだのですよ。卒業までは、それで成功しましたが、果たして、今の彼らは、自分たちの力で英雄の役職を乗り越えることが出来るでしょうかね。君の支えなしで、あの重荷を背負っていけるか。そこが心配です」

 「オレの支え? 冒険者になってから、別に大したことはしてないような」


 先生は真剣な顔でオレの顔を見た。

 先生の重そうな目が更に見開いているような気がする。


 「いいえ。君という稀有な親友は、彼らの生きる糧であります。なんでもない事で笑い合える普通のお友達がそばにいること。それが彼らにとって、どんなに幸せであるか。彼らの人生は君にかかっていましたからね。でも、君は違いますよ。なぜなら、グンナーやルナ。あそこにいた兵士たち。それに別な職場の方々とすぐに仲良くなりましたからね。君は自分の道を自分で歩めますよ。だから今目標を決められないことを焦る必要はありません。君は必ず自分を成長させますからね」

 「は、はい。ありがとうございます。先生の言葉は嬉しいですね」


 先生は欲しい言葉だけをくれる。

 だからオレはこの人を心底信用してるんだ。


 「そうですか。私も久しぶりに君に会えて嬉しいですね」

 「・・・そうだ先生! グンナーさんは? 師匠にも会いたいんですけど、軍にいますかね?」

 「いますよ。ですが今は」

 「今は???」


 急に先生は話しにくそうにした。


 「モンスターウエーブが来ているのです」

 「え・・・あれが・・・まずいじゃないですか・・・でも、またか。いや、周期がおかしい。三年? あれは五年から十年の間のはず?」

 「ええ。そうなんですが、すでに波が発生しているかもと、ジャコウの東。マルサンガリの港に薄い赤い波が来たとの報告を受けて三日ほど前に行きました」

 「三日。それはまずいですね。オレ。急いでいってきます! 手伝ってきます! 今度こそ、絶対に皆を守ってみせます」

 「い、いえ。ルル君。君はもうあれはいいでしょう。辛い思いはあの時で・・・」


 先生も心配してくれた。

 あの時の出来事を・・・・。


 「大丈夫です。オレは乗り越えています。それにマルコさんに、証明しないといけない」

 「・・・わ、わかりました。では、終わったら私の元に帰ってきてくださいね。少しやってもらいたいことがあります。だから生きて帰ってきてください」

 「ん??? はい。先生がそう言うならお手伝いします。では、オレ。いってきます!」

 「よかった。では帰りを待っていますからね。絶対に無事でいてくださいね」

 「はい! わかりました」


 こうして、未曽有の災害モンスターウエーブに参加することになったのだ。


 

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