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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第6話 見つけよう

 ファールスにて。

 オレは、冒険者ギルドの受付のお姉さんにジュークウルフを討伐した事を言いに来た。


 「お姉さん。すみません。ジュークウルフを倒したので、依頼料ってもらえますか?」


 冒険者のクエストの中で、捜索クエストや採取クエストなどの依頼は、達成したら後払いがされるのに対して、討伐クエストなどの依頼は、あらかじめ依頼者がギルドに達成報酬を納付することが義務付けられているから、冒険者ギルドから直にお金を貰える。

 なので、冒険者ギルドはその金額を金庫に預かっているわけだ。

 ここらのギルドの依頼管理は、おそらく大都市のファルテの冒険者ギルドが管理してると思うので、こちらのファールスの町のギルドが、このジュークウルフの討伐クエストの代金を代わりに出せるのかは謎である。


 ジュークウルフの討伐代金。

 それは、20000Gだ。


 『そんな金、ここにあんのか。貧乏なのに』


 なんてオレは思いながらも、受付のお嬢さんと話しているわけだ。


 「え・・あのモンスターを。もうですか!?」

 「いやあ、もうって。すでに三日は経ってますよ。遅いくらいですって」


 オレにしては遅い。

 たぶんシエナの件がなければ一日で終えたはずの仕事だ。


 「三日もかかったって・・・まだ三日ですよ。まだまだ三日ですよ」

 「あのぉ。信じてもらうには証拠を見せればいいんですかね。首、いや、解体してないんで。すんません・・・そのままの死体でもいいですかね?」

 「し、死体で!?」

 「ええ。持ってきますよ。ほら」


 ギルドの受付前に、マジックボックスから、鎖でグルグル巻きになっている死体のジュークウルフを取り出した。

 

 ここでマジックボックスの便利な点を教えよう。

 これは、冷凍保存されたみたいに物が腐ることがないのである。

 だから死体も腐る心配がないのだ。

 そう腐らないから、腐ってしまった際の匂いもしない!


 「死にたてに見えるでしょ。マジックボックスって便利すよね」

 「・・え・・・・ふえええええええ」


 受付のお姉さんが奇声をあげて、動きが止まった。


 「あれ!? また止まっちゃったよ」


 それにしてもこちらの女性、いつも目を回して混乱している。

 うんうん。

 オレと会話するとなるのかな。

 失礼なのかな。この人。


 彼女の瞳に色が戻ってから、オレはすぐにクエストのお金をもらえたので、この町を後にした。

 お金をたんまりもらったので、これも貯金用のマジックボックスに入れておいた。


 

 「さてと、ジャコウに帰るか・・・・飛空艇は高いからな。船って個人だといくらかかるんだ?」


 ジーバード大陸は世界の南西。

 ジャコウ大陸は世界の南東。

 

 この二つの大陸は、海で隔てられているが隣同士だ。

 ちなみに、五つの大陸も海により隔てられている。

 だけど、一番北にある魔大陸だけは空も隔てられている。

 霧にも見える薄い膜のような白のベールが、大陸を包み込んでいて、その魔大陸に行くには、そこを強引に突破して、向こう側に辿り着かなくてはならない。

 だけど、そこに至った者で、帰って来た者がいないので、そこの突破方法がよく分かっていないのだ。

 あそこを突破して、大陸まで行けたのか。

 それともあそこに阻まれて海に沈んだのか。

 どちらにしろ帰って来たとされる人の情報がないので、三大クエストの中で、唯一具体性がない。

 魔大陸の踏破。

 これで良いとされているわけだ。


 だからオレは、色んな意味でジェンテミュールのメンバーには強くなってもらわないといけないと思っていたんだ。 

 あいつらだけが強い。

 それだけでは、あの大陸を踏破するのは不可能だろう。

 色々な職種の仲間が必要だ。

 それは戦闘職だけじゃなく、例えば、錬金術士とかの内政職もいないと、何が起こるか分からない魔大陸を生き延びるのも難しいだろう。

 オレがもしファミリーに残っているのなら、四大ダンジョン挑戦の四つ目あたりで、特殊な職種の人たちをスカウトするだろう。


 ってオレがジェンテミュールに関わるのはもうないのに、そんな事ばかりを考えていた。

 あいつらの為になることを考えるのが癖になっているみたいだ。


 

 ◇


 ジーバード大陸東の港町イエメテ。


 「ジャコウ行き。ジャコウ行き。あと十分で出るよ」


 威勢の良い船員さんが、港で声をかけていた。

 船の席に空きがあるようだ。


 「すんません! 一席お願いします」

 「はいよ」


 オジサンはチケットを見せてくれた。


 「いくらすか?」

 「一人3000G」

 「お! いい値段すね」

 「そうだろ」

 「・・・安くなったりしますかね」

 「チケットがか? さすがにそれは・・・・」

 「そうですか。なら別なところに頼むかな……」


 オレはこのオジサンと船から離れようとする。

 

 「まてまて。いくらがいいんだよ。あんちゃん!」

 

 オジサン。チケットを売りたくて必死だよ。

 とくに顔がね!

 オジサンの雰囲気で、本当はいくらであってもチケットを捌きたい人だと、既にオレはその雰囲気を感じていた。


 「すんません。今。手持ちが2000Gしかないんですよね」


 真顔でめっちゃ嘘ついた。

 全身から貧乏そうな雰囲気を醸し出す。


 「そりゃ・・厳しいな・・こっちも無理かなぁ」


 オジサンはその値段設定は厳しいと言い、苦い顔をした。


 「ああ、それじゃあ。座る席じゃ無くていいんで、立ったままでいいんで、2000でもいけますかね?」

 「立ったまま!? この海、途中で荒れるんだよ。大荒れだよ」 

 「大丈夫っす! 足腰強いんで!」

 「いやぁ、さすがに。船で吐かれても困るんでね」

 「大丈夫! 吐いたら身ぐるみ剥いでもらっても結構なんで」

 「いや。俺たちは船乗りだし・・海賊じゃないんだぞ。あんちゃん」

 「ははは。それくらい大丈夫ってことっすよ」

 「しゃあないな。立つなら2000Gでいいよ。あんちゃん」

 「ありがとうございます。じゃ! これで」


 おじさんに2000Gを渡した。

 

 このやり取り。

 実はオレのスキル『取引』が発動している。

 このスキルは、上手い具合に会話を進めると最低でも一割引きに出来る商人必須のスキルだ。

 ただし、オレの場合。

 これを結構鍛えてあるので、大体半額まで交渉できる。

 ただし、今回のようなチケットの場合は難しいので、値引き率四割未満に設定した。

 当然商品の場合は五割を目指しますよ。

 旅は安くが基本だ。

 冒険者は常に金欠に気を付けないといけないのである。

 旅の最初から金欠のオレだったけどね・・・・。

 

 ◇


 船に乗って三十分。

 船乗りたちがいう激しい波がやって来た。

 船体が大きく上下に揺れる。

 座っている人たちですら、バランスを崩すような大波だ。

 だからこそ、大陸間移動をする場合は飛空艇を使う者が多いのである。

 でもあれは、お値段が超お高め設定。

 1フライトで大体10万は下らないだろう。

 『金持ちしか無理じゃん』と言いたい。

 せめて1万に値下げしてほしい所だ。



 船の甲板に立つオレは海をずっと見ていた。


 「あんちゃん! ビクともしないな。船乗りだったんか?」


 操舵している人の近くにいる船員さんが甲板にいるオレに聞く。

 

 「まあ、そんな感じっス。昔、船乗りさんに船の乗り方を教えてもらいましたから」

 「そうか・・・だからビクともしないんだな」

 「ええ。でも、ちょっとは揺れてますよぉ~」


 その昔。

 船乗りのダイゴさんという方にスキルを教えてもらったことがある。

 スキル『バランス感覚』

 船乗りの初期スキルである。

 ちなみに、拳闘士などの肉弾戦をする戦闘職も、このスキルを覚えることがある。

 ただし、そっちはレベルが上がってからのスキルなので、オレだと覚えられない。

 だから直接船乗りさんから覚えたのである。


 両足に力を込めたり、込めなかったり、全身と足のバランスを保つのがこのスキルのコツである。

 船は大きく揺れているのに、オレはビクともせずに甲板に立って、遠くに見えてきたジャコウ大陸を見た。


 「久しぶりだな・・・まずは、親父の所に行くか。そんで次は先生かな。後は師匠と、ユナさんもだな。ああ、早く会いたいな。親父たちだと、六年ぶりか?」

 

 懐かしい顔ぶれに会い、元気をもらってから何をするのか決めようと思った。

 オレの目標は、元々あいつらを伝説のジョブにふさわしい人物にすることだったんだ。

 自慢の友達は、世界最高の人だってさ。

 世界に知らしめたかったんだよな。

 三大クエストを制覇すれば、その夢が叶うかもって思ってたんだけど。

 追放されちゃったら、その夢はオレの手では叶えられないからな。


 だからまた別の夢を手に入れよう!

 前向きに。

 元気に。

 生きていれば、何かが起きるんだ。

 後ろを振り返るのは、あの辛かった時代だけ。

 今のオレは、悲しくとも辛くはない。

 きっと無職が板についてきたんだろうな。

 なんてな。ははははは。


 

 「ぐえええええええええええええええええええ」

 「いや。あんたが、吐くんかい!!!」


 最後に、オレにチケットを売ってくれた人が、海に向かって吐いていた。




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