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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第5話 初依頼は失敗。でもこれからの人生としては成功

 次の日。

 シエナの母親の部屋。

 

 シエナの母親と、オレは二人きりで話した。

 彼女にはあまり体を動かしてもらいたくないので、念のためにベッドに寝てもらい、オレがその脇の椅子に座っている。

 

 「いや、だいぶ回復しましたね。筋力はちょい落ちていそうですけど。倒れてからそんなに時間が経ってませんよね?」

 「ええ。そうです。大体、一週間くらい前らしいですね。私よく覚えてないんですけど」


 シエナの母親は、日めくりカレンダーを見て、自分が眠り続けた時間を確認した。


 「よかった。それだと間に合いますね。重症となり倒れてからでは、一か月くらいで心臓を動かせなくなりますからね。ここに来れてよかったですよ。いやぁ、オレが気付いてよかった」

 「はい。あなた様には感謝を」

 「いえいえ。当然の事っスよ」


 明るく言って、重荷にはならないように努めるが。

 それでも彼女は頭を下げてきた。


 「感謝以外の言葉が出てきません。シエナのあんな依頼書でこちらに来て頂けるなんて、本当に私は運が良かった。ありがとうございます。ルルロア様」

 「いえいえ。あの子の字が、切実に訴えていたんですよね。だから感謝するならシエナにしてあげてください。あの子を大切にしてあげてくださいね」

 「は、はい。ありがとうございます」

 

 シエナの母親は、また頭を下げてきた。

 もういいですよと言っても感謝しきれないのだろう。

 気の済むまで頭を下げさせてあげることにした。

 

 「それで、一つ重要なことを言うんですが」

 「なんでしょう?」

 「あの子。おそらくかなりの才能があると思います」

 「え? シエナがですか!?」


 彼女の才は特別な感じがする。


 「はい。天啓を得ていないので、ハッキリ分かりませんが。おそらく、才能の方はかなり優れている可能性があります。なので、彼女のことを愛してあげてください。過度な期待でもない。見捨てるわけでもなく。ちょうどよいバランスで、あの子を愛してあげてください。お願いします」


 英雄の四人は、それで苦労したんだ。

 親からの期待に、村からの期待にさ。

 彼らと似たような才があるかもしれないのがシエナだ。

 彼女も同じように苦労をするかもしれない。

 だから、母親が普通に愛してあげてほしいんだ。

 ただの普通の無償の愛をだ。


 オレが頭を下げると、シエナの母親は慌てた。


 「いえいえ。頭をお上げください。あの子に才能ですか・・・それはどんな? あの子は普通かと」

 「いいえ。普通ではないと思います。たぶん、シエナは異常に記憶力がいいです。あの幼さでハンター上位クラスのマッピング能力と方向感覚を持っていますし。それに欲しい花の色と形状を覚えていた。それとたぶん。字や言葉もその記憶力を使っています。だからきっと特別な才があると思いますよ。なので、周囲から浮く可能性もありますが、家族が十分に愛してあげれば、きっと困難も乗り越えていけますからね。お願いしますね」

 「そ、そうですね。そのようにします。私たちはあの子を愛します」

 「ええ。それはよかった」


 このオレの家族のように、家族として協力し合えば、オレたちは真っ当に生きていけたんだ。

 だからシエナも、家族に助けられればきっと大丈夫だろう。




 会話を終えると、二人が帰って来た。


 「おにいちゃん。かえってきた!」

 「おう! そうか」

 「ぐし」

  

 とシエナは言って、オレの足にタックルしてきた。

 これは懐かれているのか?

 それともぶつかり稽古か?

 どっちでもいいけど、シエナが笑顔だからいいでしょう。


 デカい荷物を持ったシエナの父親は、玄関で重そうにしていた。

 

 「う。うう。おもい・・・。ああ、ルルロアさん! パ、パーティーにしようと思いまして、妻はもう大丈夫ですよね」

 「ええ。大丈夫ですよ。激しい動きさえしなければ、もう動いてもいいですよ。脱力さえ取れれば病ではないんで、大丈夫! でも花壇、すみませんね。オレンジの花がびっしりあって、あそこの花壇が大好きだったろうに、歯抜けみたいになっちゃって」

 「いえいえ。私共の為にルルロアさんがわざわざ忠告して、取ってくれたのですから。どうかお気になさらないで」

 

 マリーゴールドで固められた花壇の中に、マールベルがあったため。

 オレはそれを全部引っこ抜いてマジックボックスに収納した。


 捨てるのはもったいない。

 何かに有効活用しよう。

 あ、ちなみにだが。

 これらの行為は親父さんに許可を取ってますよ。

 そんなん勝手にやったら、泥棒だからね。

 やばいでしょ。勝手にやったら。

 頭のおかしい奴じゃん!



 なんて昨日のことを回想していると。


 「おにいちゃんも、おいわい! プレゼント! はい」

 

 タックル少女シエナが、オレに小さな箱をくれた。

 ピンクの外装に、オレンジのリボンがついている。

 シエナは、やっぱりオレンジが好きらしい。


 「ん? オレにか?」

 「うん!」


 誕生日じゃないけどオレはプレゼントをもらった。


 「開けてもいいのか?」

 「うん! あちしから、おにいちゃんにプレゼント」

 「おお。そうか。ありがとな」

 「へへへへ」


 中身はリストバンドだった。

 色はここでもオレンジ。でも何故か一個である。

 リストバンドは基本が二個ではないのか。


 「お。リストバンドか・・・一個だな」

 「おにいちゃん!!! ほら」


 シエナはオレのズボンをクイクイと引っ張る。

 下を向いたら、シエナが満面の笑みで、自分の右腕に装着したオレンジ色のリストバンドを見せた。


 「おそろい! へへへへ」

 「ああ・・・・そうか。だから一個か。わかった。じゃあ、オレも着けるぞ。ほれ」

 

 左腕に装着して、シエナの前に腕を出した。

 それを見て嬉しそうにした彼女は、何故かその場で両手を上げて踊った。

 

 「わーい。わーい。おそろい!!!」

 「そんなに嬉しいのか? いや、疑問に思うのも野暮か。嬉しいならそれで良しだ!」


 彼女の頭を撫でて、オレはこの家族と誕生会の準備に入った。



 ◇

 

 「おかあさん。げんき! うれしい。たんじょうび、どうぞ!」

 

 シエナは、おぼつかない手つきでケーキを持ってきた。

 あちしが切ると言って、ケーキを四等分。

 十字に切ればいいのに、何故か潰れた✕印に切った。

 大きい箇所と小さい箇所が生まれる。


 おいおいと言いたかったけど、この子はまだ5歳だ。

 むしろ、包丁を扱えることが凄い!

 と思うことにしよう。


 「おにいちゃんこれ。でっかいの。おかあさんといっしょ!」

 「え? いや、これはシエナが食えよ。お母さんと一緒はシエナの方がいいんだぞ」

 「これ、おれい! おかあさん、なおしてくれた。おれい」

 「・・ん? そ、そうか。わかった。もらうよ」

 「わーい」


 シエナは、オレがケーキを受け取ったのが、よほど嬉しかったのか両手を上げて喜んだ。

 


 「うまいな。シエナはおいしいか」


 一口食べてシエナに聞いた。

 鼻の上にケーキを食べさせているシエナは


 「うん! おいしい」


 と言って、フォークを投げ飛ばす勢いで喜んだ。

 あぶねぇよ。

 とは言えないくらいに大喜びだ。

 だから、水を差す言葉は要らないだろう。


 「そうか。よかったな・・・そいつはな」


 その後。

 お腹がいっぱいになってきたシエナは、机におでこをつけてフォークを持ったまま眠った。


 「おいおい。まあいいか。シエナのお父さん。お母さん。この子を部屋に連れて行きますよ。いいですか」

 「いえいえ。そんなご面倒をおかけ・・・」

 「大丈夫です。オレはこういうのに慣れてるんで。寝かしてきますよ」


 オレはイージスで慣れている。

 この子はまだいい方だ。

 イージスはところ構わず眠るし、しかもオレのそばで眠るから、オレが世話をしないといけない。

 にしても、あいつらの世話。

 誰かがやってくれているのだろうか。

 あいつらは意外とパーフェクト人間たちじゃないんだ。

 世話を焼いてやらんと、まともな生活は出来ないだろう。

 マールダ。

 やってくれているかな。

 大丈夫かな。


 

 あれこれ考えている内に、シエナのベッドに到着した。

 彼女をベッドに置いて、掛け布団を被せてやる。

 すると、寝ながらオレの手を握って来た。


 「おにいちゃん・・・だいすき・・・へへへへへ・・・おにいちゃん・・・あそぼ・・・」


 夢の中で遊んでいるらしい。

 何の遊びだ?

 この子、5歳の癖に腕力と握力が凄いんだが。

 まじで、シエナは何らかの特殊な才がある事は確定だな。


 この日のオレは、この子が真っ直ぐ育ってくれることを祈って眠りについた。




 ◇


 翌日。


 「そうっすね。そろそろお暇しようかなと。お邪魔しましたね。シエナ、お二人とも」

 「ありがとうございました。最初の無礼が今や、生涯の恥であります。本当に感謝してます」

 「いえいえ。そんなに恐縮しなくても。俺はそういう扱いに慣れてるんで、全然大丈夫ですよ」

 「・・そ、そうですか。ありがとうございます」


 シエナの父親は、深いお辞儀をしてくれた。


 「私も感謝を、ありがとうございます。あなた様のおかげで、すっかり元気になりました」

 「ええ。よかったです。あとは、約束を頼みます。旦那さんと共にお願いしますね」

 「はい。もちろん。この子を愛し続けます」

 「それなら安心です。お二人の愛を受ければ、この子は立派な子になりますよ」


 シエナの母親はオレとの約束を守ると固く誓ってくれた。

 

 「あちし・・・さびしい・・・おにいちゃん。ここにいてよ」

 「お! そうか。お兄ちゃんも寂しいぞ。でも、お仕事しなくちゃならんし、またいつか会おう!」


 オレはしゃがんで、目線を合わせた。

 泣き顔のシエナに笑顔を見せる。


 「あえるの? おにいちゃんここにくる?」

 「・・・うううん。どうだろうな。ここに来るかはわからんな。でも、シエナが学校に入る頃には会えるかもな。都市の方に行きゃクエストを受けてるかもしれんしよ」

 「えええ・・・それじゃ・・・ずっとさきだ・・・」

 「ずっと先か。でもあと七年後くらいだろ。学校が終わるのはさ。すぐだ、すぐ!」


 たぶん、成長したら凄い子になるのは間違いないだろうからな。

 何かで成功するはずだ。


 「あちし、すぐにぼうけんしゃになる・・・あちし、あいにきてもらうんじゃなくて、あいにいく・・・やくそく!」

 「お! そうか。約束か。それじゃあ、冒険者になったシエナに、オレは会うことを約束しよう! だから、頑張れ。冒険者は誰でもなれるけど、強くなるのはほんの一握りだからな。精進しろ!」

 「しょうじんする。しきゅう!」

 「そうだな。至急精進か。はははは。ほんじゃ。じゃあなシエナ」

 「ばいばい! おにいちゃん・・・ばいばい・・・・だいすき!」

 「ああ、じゃあな。また会おうぜ」


 オレは、シエナのおかげで名残惜しい所も出来たけど、晴れやかな気持ちで出立できたんだ。

 彼女との出会いは良き出会いだった。


 そして・・・・気付く。


 「あ! 100G もらうの忘れたって・・・・それは野暮だな。あの子の笑顔が100G以上の価値があったってことにしよう! だから、十分もらったわ!」


 こうしてオレが個人で受けた初のクエストは失敗に終わった。

 オレは、彼女の花の依頼を達成できなかったんだ。

 でも心はかなり満足してる。

 彼女の笑顔を見られただけで十分幸せだったんだ。

 一人になって、少し不安であったけど。

 その心の隙間を補ってくれるようなお母さん思いの心の優しい少女との出会い。

 これがオレ個人の初クエストだった。

 納得のいく終わり方でよかったと思って、この貧乏旅はもうちょっとだけ続くのであった。




 ▢

 

 こうして、ルルロアと出会った記録力抜群タックル少女シエナは、のちにとある天啓を得る。

 英雄職『マスターハンター』

 才能を異端の能力『即時記憶』

  

 彼女は、のちにとある師の元で冒険者となり。

 ハンター最強の職業を駆使して、即時記憶の才能をフルに活用することになる。

 彼女は、無敵の狩人となるのであった。

 世界を股にかける冒険者となるのである。

 しかし、それはまだ先の話。



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