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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
無職の再出発 大王の先生編

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第3話 エジュの森

 歩いて五十分。

 エジュの村からエジュの森までの時間は、子供を連れてもその程度だった。


 「結構、近いな。子供連れでも、ふらッと立ち寄れる場所だな。ここは・・」

 

 入口に差し掛かってもモンスターの気配はなし。

 なかなか平和な森である。

 怪しさ満載の森だと、出入り口には確実にモンスターがいたりするから、ここはそんなに慌てる必要がない森のようだ。


 「よし、オレから離れるなよ。シエナ」

 「うん、わかった」

 「そんで、どこら辺に行きたいんだ? シエナ。場所がわかってるのか?」

 「えっと・・・こっち!」


 彼女が指さす方向へ進む。

 しばらく進むと、「こっち」と言って彼女は指さす。

 またまた迷いなく進むと「こっち」と言って指さす。

 これはまさか適当に言ってんのか。

 とオレが思い始めた瞬間に、スキルが感知した。


 「花の匂いだ……この子、まさか」

 

 この子は、確実に普通の子じゃない。

 似たような木や草がある森の中。

 一つも間違えずに、森の中を進むなんて、ベテランレンジャーくらいに凄まじい才能を持っている。

 しかも五歳で、この能力。

 もしかして、天啓を受けたらとんでもないジョブを持っているのかもしれない。

 いや、それは分からんな。

 あの女好きのアホが勇者なんだ。

 人の優秀さと職業の優秀さは比例しないのが、確定しているからな。

 うんうん。

 あいつらよりもしっかりしてるオレが無職なんだしな。

 決めつけちゃいけないな。そうだ。

 

 「よし。そろそろ花があるよな」

 「うん。もう少し先」

 

 二人で並んで歩いていると、木々が減っていき、周りが明るくなっていった。

 そして、視界も開けていく。

 森の中にぽっかり空いたスペースに大きな花畑があった。

 

 中央には、小さな池があって、この水源があるからこそ、周りよりも多くの花が咲いているようなのだ。

 七色の花々が、それぞれいい匂いを出し続けて、ここはとても過ごしやすそうな空間となっていた。


 「・・わーい・・・おはなだ・・・おはな・・・」

 「そうだな。よかったな。んで。何の花を取るんだ?」

 「んんんっと。さがす」


 シエナは興奮しているけど、言う事を守っていて、オレのそばを離れずに花を探し始めた。

 これでもない。あれでもない。と、色々目移りしているようにも見えるが、確実に目的の花を選んでいるようだ。

 彼女はやっぱり頭がいいんだと思う。

 それも相当な記憶力を持っている。その力が五歳だとは思えない。


 「どれだい? 結構探しているけどさ」

 「・・・ない・・オレンジのおはな」

 「オレンジの花か……あそこの花壇にもあった奴だな。マリーゴールドか?」

 「わからない。なまえ」


 名前までは分からないようだ。

 見た目で覚えているのかもしれない。

 やっぱり彼女は頭がいいらしいぞ。

 形状で覚えているなんてさ。


 彼女がしばらく花を探す。

 池の周りから始まった捜索は徐々に外に向かい、最終的には、この場の外れの方にある一輪の花に近づいた。

 彼女はこの花だ! 

 と言う顔をして、オレの顔を見た。

 

 「これ! これが、おかあさん・・・すき」


 オレンジの花びらが六枚重なった花。

 花びら一枚の面積の内の半分が次の花びらに重なった特徴的な花だ。


 「ほう。こいつは……これはマリーゴールドじゃないな。ん!? 待てよ。こいつは、たしか・・・」


 オレがこのオレンジの花に疑問を持った瞬間。


 「オオオオオオオオオオオオオオオオオン」

 「雄叫び!? シエナ。オレのそばにいろ」

 「う・・うん」


 シエナは、今の雄叫びに恐怖を抱き、必死にオレの足にしがみついた。

 小さな手が震えていて、シエナの恐怖がオレの足に伝わる。


 「心配すんな。オレが守ってやるからな」

 「・・・うん」


 オレはシエナの頭に手を置いて笑った。

 安心するかと思ってやったが、やっぱり小さな女の子にはあまり効果はない。

 モンスターと出会うのは怖かろう。



 ここでお得意のスキルを回す。

 感知(臭)で方角。視野(狩人)で位置を把握。

 自分たちよりも北側からモンスターが来ることを察知した。

 そちらを向いた瞬間、木々の隙間から飛び出してきた。


 白き見た目のホワイトウルフを彷彿とさせるその姿。

 ウルフ系モンスターの中で、牙攻撃が最も得意なモンスターなのがジュークウルフだ。

 見た目穏やかな丸い瞳なのに、獰猛で機敏な動きを持っているので、二級冒険者が初めて挑戦するには難しいモンスターと言われている。

 

 レベル的には、二級でもなんとかして倒せるほどだ。

 でも、いかんせん今のオレは、幼子を脇に抱えている。

  

 だから、クエスト難易度で言えば、相当難しい現状となる。

 おそらく依頼ランクは、Bランクまで上がるだろう。

 それをたったの100Gでやろうなんて、自分でも思うけど、正気じゃない。

 オレって、かなりお人好しみたいです!

 自分から難易度上げましたからね。

 

 

 ジュークウルフは飛び出した勢いとは違い、距離を保ったままオレを睨んでいた。

 おそらく本能で強さの違いを感じているのかもしれない。

 確実にこいつよりもオレが強いからな。


 「やっぱりジュークウルフだったな・・・にしてもこれは、割に合わん仕事を引き受けたな。でも、この子の笑顔を守るためだ。依頼料なんてどうでもいいや。それについでのクエストとして、ここで消化しよう!」

 

 ここでオレはスキル展開を変える。

 アイテムボックスから鎖を取り出してから、シエナを左腕で抱きかかえた。 

 彼女の顔は、オレの左肩の方に持っていき、オレの左手は彼女のお尻を支えた。

 敵を見えないようにした。


 「シエナ。お前の手で、オレの肩を掴んでろ。それと目を伏せてくれるか」

 「・・・う・・うん」


 シエナは言われたとおりにオレの胸で丸くなった。

 服の肩部分をギュッと引っ張って必死にしがみついてくれた。


 「よし。いい子だな・・・さて、かかってこないのか。こちらから行くと、お前は瞬殺だぞ」

 

 言葉が聞こえているのか分からないが、ジュークウルフが走り出した。

 それを見て、オレは鎖の先をグルグルと回しながら、敵が領域に入って来るのを待つ。


 「きた! お前は、短絡的だな。動きが直線で分かりやすい。くらえ「束縛チェーンバインド」」


 この技スキルは、特殊ジョブ『トラップハンター』の初期スキル『罠業(トラップアタック)』である。

 罠で魔物や野生の獣を狩るトラップハンターが、あえて攻撃に出る技。

 相手をギリギリまで引き付けて相手を拘束する技だ。

 落とし穴よりも確実性はあるけど、鎖の扱いを失敗すると一気に形勢が悪くなる諸刃の技。

 トラップハンターにとっての一か八かの技となる。

 

 これを初期技で会得しないといけない職業ってかなり厳しいですよね。


 ってオレはあのグンナーさんの修行の時に思ったのであった。

 意外と器用なオレはこれをマスターするのに時間がかからなかった。


 「よし。こいつをだな。シエナ。まだ目を伏せていろよ」

 「・・・うん」


 両手に両足。口に腹にと、鎖でグルグル巻きになったジュークウルフ。

 全てを拘束して身動きを出来ない状態にした後。

 オレはそいつの首に脇差を刺して終わりにしてやった。

 ジュークウルフは、口も拘束されているから声も漏らさずに死んでいった。


 こんな風にあっさりと敵を倒しているのだけれども、これはかなり難しい事をしてるよね。

 一人でこの子の護衛をしながら、二級冒険者が挑戦するモンスターを倒す。

 しかもこの子に、その戦いの衝撃が来ないように、動かずその場で戦う。

 自分でも思うわ。

 オレ、異常に強くねえか!


 基準がレオンたちだったから気付かなかったけど、準特級冒険者って、やっぱり強いんだな。

 はははは!!!!


 って暢気に笑ってる場合じゃないか!


 一人で受けた二つ目のクエストはこうして無事に終わったのである。

 しかし、続けて難題は訪れるのである。

 


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