エピローグ 洗礼との話
ナディアは、初代の意思と話していた。
「初代様」
頭を下げたナディア。
【いいえ。私は初代ではありません】
彼女の言葉を初代の意思が否定した。
「でもややこしいので、初代でもいいでしょうか」
【・・・いいでしょう。たしかに、ナディアと言い換えても、あなたもナディアですものね】
「はい」
なんとなく二人で微笑んでいる気がする。
四代目ナディアは黄金球の前で笑顔だった。
「ファイナの洗礼を解除する。その事が決まりました」
【え・・・まさか、そんなことが?】
「はい。イヴァンから、力を継承した者が現れたのです」
【な。まさか、彼が言った人がついに・・・この世界に?】
「はい。それで初代様の事情を聞いています。初代様は、この洗礼を守るために。歴代のナディアに力を継承させたのですね」
【そうです。イヴァンとファンが言うには、呪いの代償らしいですが。私は祝福だと思っていました。のちの代まで、世界を見守るという大切なお役目を授かったのです】
「では、そのお役目はもう十分であります」
【そうですか。その方は、信用できるのですね。ナディアも決めたと?】
「はい。彼こそが世界の救世主。イヴァンが、世界の調停者となりうる男だと言ったらしいです」
【・・・なるほど。イヴァンがそこまで信頼するとは】
イヴァンが信じた者を信じる。
それが、ファンとナディアだった。
ファンの最後もまた心臓を捧げる際にそのような事を願っていた。
「初代様。三人のお力は、今の人間よりも強く感じるのですが。それは各々が誓約のおかげで、得たのですか。特別になられたのでしょうか?」
【そうです。私と、ファン。イヴァン。この三人が最も力を得ました。そのかわり制約も大きいものです。それと他の四名も力を得ています。それが・・・】
イヴァンの力は、世界を繋ぎとめる力。
その代償が、事情を話せない事と、己の肉体を失って、この世を彷徨う者となる。
ファンの力は、結界を生み出すための膨大な魔力。
その代償が、事情を話せない事と己の心臓である。
ナディアの力は、結界の維持をするための魔力。
その代償が、事情を話せない事と、子への力の継承である。
ウルダーナの力は、結界の力の強さ。
その代償が、事情を話せない事。
アルクスの力は、人々に新たな可能性を見出す事。タレント、スキルの付与
その代償は、事情を話せない事と、ある場所への幽閉。
レミアレスの力は、人々の意志を把握する力。共鳴力。
その代償は、事情を話せない事。
ディオシニスの力は、この世界への出現。本来は出現できない。
その代償は、事情を話せない事。
【以上で。それぞれが力を得ていますね】
「なるほど。七人が世界を守るためにですね。己を犠牲にしても・・・」
【そうです。我々が世界の為に、次の世代に賭けたのです】
「わかりました。その期待に応えます。私のルルが。必ずあなたたちの期待に応えます」
【ルル?】
「はい。世界を託されたのは、ルルロア。イヴァンから力を継承した彼は、世界を一つにする気です」
【世界を一つ? まさか、ジーバードとですか?】
「はい。双方の大陸を一つにして、人々を一つにしてから、上位の世界に乗り込むらしいです。話をつけに行くと言っています」
【話をつけに行く? なんともまた不思議な物言いで】
「ええ。彼はこんな風に言いました」
ナディアはルルロアの真似をした。
「お前らの好き勝手にはさせねえ。こっちの意見を一つでも譲歩しねえのなら、ぶっ潰す。譲歩するなら、話をしていこう。そんで、それでも駄目なら、下の者の反逆の意志を受け取るがいい! オレたちは、いつまでもお前らの下にはならん。オレたちは絶対に言いなりにならん。手足にもならん! 絶対に負けてやらねえ! オレたちは自由なんだ!」
と言い切った。
【ぷっ・・・ふふふ】
初代は笑ったのだ。
感情のある黄金球だった。
「凄い人でしょ。初代様」
【ええ。まるでイヴァンのような人ですね】
「そうでしょう。面白い人なんです」
【大切なのですね。ナディア】
「え」
【声が弾んでいますよ】
「そうですか。あれ?」
【ふふふ。ナディア。その気持ちを大事にしましょう。洗礼を無くす。その判断もです。私は、あなたの意思を信じています。当代のナディアの好きなように生きてください。救世主が現れたのです。もはや使命の事はいいのです。思う存分生きてください】
「はい! ありがとうございます。初代様」
満足したナディアは、この部屋を後にした。
◇
オレは塔から帰ってきたナディアと家で話し合った。
「ナディア。行って来たのか?」
「ええ。行ってきたわ」
顔がスッキリしていたから、良い話し合いだったのだろう。
「どうだった? 洗礼は?」
「うん。初代ナディアは、洗礼を維持する。その意味を教えてくれたわ。そもそも、私たちナディアは口伝で伝承していたらしいの」
「なるほどな。同じナディアであれば、継承と同時に誓約も受け継ぐから、死の瞬間がいいってことか」
「ええ。そうみたい。そしてナディアは、世界の争いを見守るのだとしたらしいわ……初代ナディアは、話せる仲間たちが消えたことで、世界を強くする方法は争いしかないと思ったらしいわ。争いで人間を強化する。だから、ナディアは戦争を黙認したみたいなの」
戦争で兵士を鍛え上げるってことか。
だいぶ妥協したな。
「・・・そうか。皆には事情を言えないから、戦争で皆を鍛えようとしたのか」
「そうみたい。初代はそういう意思だったけど、二代目からの考えは分からないわね。ナディアは別に同じ個体じゃないからね。一人一人、違っているから」
「そうだよな。親子だもんな。同じ人間じゃねえもんな・・・それに・・」
「それに何よ」
オレは正直者である。
「初代ナディアって、めっちゃお淑やかで美人だもん。お前と全然タイプが違えわ。あれは文句なしに超美人だよ。何もマイナス要素がない。威厳もあったしさ。でもよ。お前はその点さ。お転婆娘過ぎんだわ。四代目は、ただのじゃじゃ馬だな!!!」
「なんですって!? この!!!!! このこのこの」
「いてえ~~~~」
ナディアがオレの頭をぐりぐりした。
余計な一言ってさ。
今後は言わないようにしようと後悔しましたとさ。
◇
それから、半年ほど。
連絡が返ってこない現状にしびれを切らしたオレは、ジーバードにいくしかないと思った。
鍵を手にしてくれているかは分からないが、レオンたちの元に行くしかない。
だってレオンたちがオレの元に来るのはまずいんだ。
なぜなら、ファイナの洗礼が先に消滅してしまうと、正しい順序の解除じゃなくなるからな。
だから先にあっちに行ってしまった方が良いんだ。
それで、ルドーとメロウたちと何度も話し合い。
あっちに飛ばす方法を考えてもらったのだ。
正直難航してる。
でも、上手くいくように頑張らないといけない。
だから、解決する案が出るまでの間は、オレは出来る限りジークラッド大陸の人々の戦闘力をあげていった。
力を蓄える時期を、オレは過ごしていったのだ。




