第11話 世界を頼まれた男 調停者ルルロア
彼の最後の光が、オレの体と心を照らしてくれた。
思いを受け継ぎ。
記憶を受け継いで。
オレは、次へと進む。
これで、レミさんと普通に会話してもいい権利を得たんだ。
「レミさん。オレって今誰になってんだ。頭がすっきりした感じがするけど」
「お主は。ルルじゃよ。余の友のな」
「いやいや、それだとどっちか分からんよ。だって、イヴァンもあんたの友達じゃんか」
「そうじゃったわ。ナハハハ」
レミさんがふんぞり返っていた。
「ディオシニス。オレってどっちになったの?」
「どっちも何も。ルルで合っている。イヴァンは元々死んでいる。魂だけの存在で、記憶と技の継承をしただけで、ルルにそれらと思いを託しただけである」
「そうか。オレはイヴァンの思いと技を継いだのか・・・じゃあ、オレは彼の為にもやりきらないとな」
そうだ。
オレは今、イヴァンの魂と繋がったってわけか。
じゃあ、二人分の命だからな。
大事にして頑張らねえとな。
「そういうことだ」
「ディオシニス。大陸を一つに出来るのか? 鍵があれば、大陸を一つに出来る?」
「出来る。鍵の力で結界が頑強になっているから、それが邪魔をして大陸が一つになるまでには至らない」
「そうか・・・どっちが先? ファイナの洗礼の解除? 鍵が先?」
「鍵だ。鍵を使って。ファイナの洗礼を解除し、ファンの結界だけ残して、私とレミアレスとアルクスが世界を一つにする。これが正しい手順だ。こうなるとファンの結界は弱まっていく」
「なるほど。一つになれば、世界の切れ目が増幅して敵が進軍してくるってことか・・・そうなれば、オレたちは戦う羽目になる。でもそれはどうせ未来で起こりうること。ならばこちらから逆に攻めていけばいい・・・わかった。その順番でいこう。まずは鍵。オレたちはイナシスに行けばいいんだな」
「そう。イナシスじゃ」
イナシスの地下。
そこに何が眠るのかはわからないが、そこに鍵があるらしい。
ここからオレたちは世界を守るための戦いに出るのだ。
「ん? そういや聖なる泉に来たらさ。レミさんって神鳥に戻るんじゃなかったっけ?」
「あ、しまったのじゃ。イヴァンと会えれば戻るはずだったのじゃが・・・忘れてたわ・・」
「おいおいおい。それじゃあ。どうやってあんた、あの美しい鳥に戻んだよ」
レミさん・・・【てへ】じゃねえよ。
相変わらずマヌケドリであります。
いや、これが普通か。
さっきまでのレミさんがシリアスモード過ぎたんだよ。
「出来るぞ。今のルルは、イヴァンの力を継いでいる。調停者としての才能があるはずだ」
ディオシニスが語り掛けてきた。
「ん? オレが? 調停者?」
「イヴァンが誓約をして得た力が調停者だった。潜在能力の解放。触れた者の力を解放することが出来る力だ。それをルルが得たはずだ」
「なるほどね。じゃ、やってみようか。レミさん」
「うむ」
「ちょっと来て」
レミさんをそばに呼んだけど、ここで思いついたことがある。
この家の中で大きくなったら・・・この家が壊れると思った。
「駄目だな。この家の外でやろう」
オレとレミさんが外に出てすぐ。
「いくよ・・・・・どう!」
「おおお・・・おお・・・おおおおお」
手に乗ったレミさんが大きくなっていくので、オレは手放した。
徐々に大きくなるレミさんは薄紫の体から濃い紫へと変化。
羽も顔も体も全部が大きいサイズに変わった。
「すげえ・・・綺麗だな。レミさん」
「そうじゃろ。美形じゃろ!」
「まあな。さすがに今回は褒めてやるよ」
「どんなもんじゃいなのじゃ!」
「よかったな。デカくなってさ」
オレとレミさんはこのヒュームの町を解除する。
聖なる泉の町は夢の町。
ここにいる人々に安らぎと幸せを提供する町だが・・・突然世界へ放り出される。
少し怖い町だ。
でもオレはここも解放するよ・・・。
いいだろ。イヴァン。役目は果たしたよ。この町の人たちもさ。
贄じゃなく、自由に生きようぜ。
「レミさん。もう必要ねえよな。この町」
「うむ・・・そうじゃな。その力があれば、ここのヒュームは、贄として必要ないのじゃな。己の人生を歩んでもいいじゃろな」
「ああ。解放して、自由にしてあげよう・・・ここから出るのもあり、ここに留まるのもありだ」
オレは右手をかざしてここに作られた結界を解除した。
世界を拒絶していた結界を解除すると、この町は明るくなった。
空の色が変化したのだ。
オレたちがいつも見る空に・・・。
「よし。あとはこの人たちにまかせよう。オレたちは入口に戻る」
◇
結界が解除されれば、オレたちがいた場所と町は繋がる。
外に出るまでもなく、皆がいた。
「会えたか。その姿。レミアレスだな」
「うむ。元に戻ったのじゃ。ウルダーナ」
「ウル・・・じゃないや。ウルダーナさん」
記憶の中の映像と相まって、オレはついついウルと呼んでしまった。
「ウルと呼ぶのは・・・お前さん。まさか。イヴァンか。魔力に懐かしさがある」
「いえ。違います。オレは彼の記憶と技を継承しました。それでつい呼んじゃいましたね」
「なに!? どうなったのだ」
「オレに全てを託して、彼は消えていきましたよ。でもオレの中で生きてます。オレは彼と共に世界を守ります! 守ってみせますよ」
「そうか・・・友は消えたか。でも消えていないか。継承者の中で生き続けるか・・・」
ウルダーナさんは深くうなずいていた。
「ええ。それでオレはやるべきことが出来ました。これからイナシスに向かいますが、ウルダーナさんはどうします?」
「わっち? どうするとは?」
「ここはもう守る意味がないです。あなたの使命が終わってます。だからオレたちと来ませんか? 共に世界を守るために、旅をしません? マリューもいますし」
「わっちがか・・・・どうするか・・・」
彼女が悩むと、マリューが駆けつけてきた。
「お師匠様。一緒にいきましょう」
「む! マリュー」
目の前がマリューの顔だけになったウルダーナさんはのけ反った。
「お師匠様!」
「・・・そうだな。することがないのはまずいか。イヴァンらのためにも、わっちも協力せんとな・・・いくか。ルルと共に」
「やったぁ。お師匠様とまた一緒ですね」
マリューは両手の中にウルダーナさんを包み込んで、頬ずりした。
「離さんか・・・これこれ・・・」
二人がじゃれ合ってるのを微笑んでいる間。
オレは。
「じゃあちょっと皆こっち来てくれ」
皆を呼んで、一人一人に潜在能力の解放をした。
今持つ才能を限界まで開く。
それが潜在能力の解放の効果らしい。
皆、成長の限界を引き上げた姿になった。
「こ、これは・・・ルル、どうなってるの?」
ナディアが自分の力に驚く。
「それがナディアの眠っていた力だ。ここからその能力を伸ばすのはお前次第になる。潜在能力の解放はあくまでも現在の潜在能力の解放。ここからは本人の努力次第みたいだよ」
「そ、そうなんだ」
「ああ。特にナディアには眠れるナディアの部分があるからな。それを全部引き出した」
「うん。力が湧き出るよ」
「それである程度までは奴らと戦えるはずだ。ある程度だけどな」
これは万能ではない。
あくまでもその人物が持つ成長曲線の限界値までの成長を強制するだけで、そこから先の成長は本人次第だからだ。
努力を重ねない奴には効果がない技でもある。
でもオレの仲間たちは違うはず。
自分の限界を超える修行はお手の物。
更なる強さを手に入れてくれるはずだ。
【何の力を手に入れたのだ?】
「神と誓約をしたイヴァンの力だ」
「「「「は?」」」」
全体が驚く。
「イヴァンは神と誓約をして、肉体と引き換えに人の成長の限界を引き上げる能力を得ていた。ファンは、心臓を捧げることで大魔法を発動させて、ナディアは我が子へ力の継承をすることで、代々洗礼を見守る事が決まっていた。ウルダーナさんは、そういうのが無いみたいだな」
マリューから何とかして逃げ出してきたウルダーナさんが、俺の肩に乗った。
「わっちは。三人を見守る。その事が引き金で結界術が強化されている。わっちの結界術はカーベントの枠を超えているのだ」
「そうなんだ」
「うむ。結界術はまかせんしゃい」
彼女は【エッヘン】とオレの肩の上で可愛らしく仁王立ちしていた。
「ええ、ウルダーナさんに頼みますよ」
「うむ。ルルも、ウルでいいぞ。イヴァンと雰囲気が似ているからな。畏まられると少々話しにくいな」
「そうか。じゃあ、ウル。これからよろしくな」
「うむ。ルルと共に、世界を変える旅に出るかな」
こうして結界術が得意なカーベントのウルダーナが仲間になった。
「そうだ。じゃあ、レミさんたちは?」
「余は、大陸を動かすのに力を使ったぞ。それと、可能性のある人を見てきた。歴史を見てきたのだ」
「ジーバードで?」
「そう。たまには行き来していたが。可能性があるのはジーバードだと思っていたのじゃ」
「そうか。アルクスか?」
「そうじゃ」
アルクスの能力はつまり。
女神の能力か。
「じゃあレミさん、アルクスの能力はさ」
「そうじゃ。付与じゃな」
「やっぱりな。ジーバードのヒュームへ力を与える事か。あれで、人の歴史に強さを生もうとしていたのか。己が持つジョブの力を知っていく作業だったってわけか」
「そうじゃな。アルクスはそういう風に考えていたか知らんじゃがな」
レミさんの後にウルダーナが続く。
「そうだな。わっちらと違って、あ奴はのほほんとしてるからな。よく分かっていないかもな」
マリューに頬擦りされているウルダーナは最後に答えてくれた。
◇
迷路じゃなくなったガイロの森を出て、北の大地を車で移動中。
「ルル。儂らはこれからイナシスにいってどうするのだ」
「鍵を手に入れないといけないんだよ。ユーさん」
「鍵?」
「世界を一つに戻すために必要な鍵だ。イナシスにあるみたいでさ」
「世界を一つにする?」
「ああ。オレは今から、ジークラッドとジーバードを一つにする」
「「「 なに!? 」」」
それは驚くしかないでしょう。
前のオレだったら一緒になって驚くからな。
「世界は今、岐路に立たされている。それはこのまま自然に消滅する世界を選ぶか・・・それとも、こちらから仕掛けて、敵を討つかだ。真の平和を掴むために、オレたちは、オレたちの事を生んだ主を倒すか納得してもらうのよ。大体この二択になっているのさ」
「なるほど……僕なら後者ですね。ルルさんもそうでしょう」
「ああ。ルドーも選んでくれるか」
「ええ。戦わずしても滅びるなら、生きる可能性がある戦いを選びます。僕らの代だけが生き残っても意味がない。僕らの次の世代に・・・生きていてほしいです。それをルルさんも感じているのでしょう」
「そうだ。その通りだ。オレも次の世代が……フィリーたちの世代が生きていてほしいからさ。ここで戦ってオレたちが生きる先の夢を見ようぜ。みんな、どうだ?」
皆、頷いてくれた。
ここでオレたちは戦う決意をした。
自分とその次の世代たちが生きるために、世界と戦うんだ。
「それで鍵を手に入れたら、俺たちはやるべきことが三つある・・・」
それは、一つ目。
他の鍵を手に入れるために、ジーバードと連絡を取る事。
俺の親友たちに鍵を入手してもらう事だ。
二つ目。
来るべき戦争に勝つために軍が必要だ。
それは世界大戦となるだろう。
全員が一致した共通意識の元で、あっちの世界の奴らと決着を着ける。
そのための軍の育成だ。
三つ目。
それはオレがジーバードへ移動することだ。
あちらに状況を伝え、あちらの協力を仰ぎ、戦力を増強する。
世界統合よりも前に、オレたちは力を合わせないといけない。
「だから、オレたちがやるべきことは明確になった。ルドー。メロウ。二人には無茶を言うが、移動方法を考えてほしい。あっちに行く方法をさ」
「わかりました。考えてみます」
【了解だ。早速帰ったら研究しよう】
「頼んだ」
オレは二人に一番難しい事を託し。
「リュカ。ユーさん。マリュー。アンナ。この四人はイルヴァやアイヴィスなどの連合軍の幹部、解放軍の四天王と共に大軍勢の育成を頼みたい。あの猿みたいな魔物を一人で倒せるくらいの兵士じゃないと、あっちの世界への進軍が出来ないと思う」
「そうだな。儂らが協力するしかないな」
「うむ。拙者はやろう。リュカ式の育成方法も使ってな」
「私もですか。私の担当は指揮ですね」
「・・私も??? 隠密ですかね」
「そうだよ。皆の指導を期待しているよ。あと、それとオレはもう一つ。ナディアと、リタ。ウルを中心に。皆で氷の大地を解明したい。あれはおそらく、結界術の一種じゃないのかな。何かの術式が付与されていると思うんだ。解明して病気を克服しながら相手の世界に乗り込まないと、皆ただの魔物になっちまうからな。大陸を一つにする意味がなくなる。もし解明せずに乗り込めば、みんな全滅だよ」
「わっちもか。やってみるか」
「・・・私もやります。血が役立つかもしれない」
「それはそうなんだけど・・・・ルル」
ナディアがオレの肩をちょんちょんと叩いた。
「ん? どした?」
「あたし、ファイナの洗礼の補修塔に行きたい。エルマルの塔に」
「なんで? 必要ないだろ」
「あそこの初代ナディアの意思に会いたい。彼女の知識を授かりたいの」
「・・・なるほど。前に言っていた事か。良いかもしれないな」
「・・・うん」
ナディアの提案は案外よいものかもしれない。
初代の残留思念。
あれならば、情報を引き出せるはずだ。
誓約があるのは、生きている間のみ。
イヴァンがそう言っていた。
だから思念を持っているナディアの意思ならば、何でも話せるはずだ。
それにクオルターナの導き。
あれについても知っているからな。聞きだせるはずだ。
「道が決まって来たな・・・やるべきことがよ。開かれ始めてきた道を進もうぜ。よし。みんな、ここが正念場だ。全員で切り抜ける。頑張るぞ!」
「「「 おおおお 」」」
オレたちは、皆で決める。これからを・・・




