第1話 一人での初クエスト受注
よく考えると、今まで。
オレは一人になったことがない。
生まれてすぐに、あいつらの幼馴染になり、ファミリーを追放されるまでの間。
そばにいたのは常にあいつらだった。
改めて思うのは、べったりだったな。
その一言だ。
そして、大事なことに気付いた。
「金がねぇんだわ! いや、最低限はあるんだけどさ。旅するにゃ金が足りないぞ!」
とまあ、盛大な独り言を吐いた。
大都市ファルテから南のファールスの町中で、ついつい大声を出してしまったもんだから、オレはキョロキョロと確認をする。
人通りがなくて助かる。
オレの話なんて、誰も聞いていなかったのだ。
「ここってギルド……あったっけ」
田舎町でもあるだろうと信じて、とりあえず冒険者ギルドに向かうことにした。
◇
『カランカラン』
ドアを開けると喫茶店が出す音がした。
人が来ると鐘が鳴る仕組みということは、受付には・・・。
「え、誰もいない。マジで。ギルドに誰もいないって、ありえんの?」
冒険者ギルドの受付に誰もいないのは、初めての経験だった。
人の出入りがほぼないからこそ、鐘が鳴る仕組みを考えたのだろう。
「・・・あ。誰か来てる。少々お待ちを! ここの火を消してと。今、いきま~す」
奥から女性の声が聞こえた。
話している内容は、ギルドの仕事内容じゃない。
主婦の内容だ。
奥からエプロン姿の女性が出てくると、彼女はエプロンで両手の水気を拭きとっていた。
間違いない。
裏で料理をしていたのだ。完全に家でしょ。ここ!!
おさげの女性が笑顔で受付に立つ。
「あ、冒険者様ですね。クエスト受注ですか。それともクエストの完了報告?」
「受注の方ですね。掲示板どこですか?」
「あちらです。やりたいものがあればこちらに持って来て頂いて」
「わかりました。ありがとうございます」
女性が手で示した場所に向かうと、掲示板が、ボロボロだった。
しかも木の板で、紙を張り付けるタイプのボードだ。
端の部分なんて、木が削れている。
おいおい。
ここはよほど貧乏なのか。やばいギルドだぞ。
と思うオレは、依頼書を眺めていく。
依頼は、基本民間人からが多い。たまにギルドからも出たりする。
あの素材が欲しい。
このモンスターを討伐して欲しい。
護衛をしてほしい。
明確な依頼から・・・。
彼を助けて欲しい。
何かください。
どこかにいるあの人に届けて。
などの漠然とした依頼もある。
依頼主が書いてくれた紙には、色んな内容と色んな思いが見える。
だから面白い。
人のしてほしい事なんて、様々なんだ。
願いも人それぞれで、皆、書き方も違って面白いのさ。
そして、小さな町のクエストボードにしては、結構な数の依頼があった。
オレがこの中で気になったのは、これだ。
字が汚くて、文章が拙い。
オレが思うに、子供が書いたように思う。
『しきゅう、おはながほしい・・おねがい・・・たのもう・・・あちし、こまってる』
怪文書かこれ?
と思ったのが最初の印象。
だって、依頼料も、たったの100Gだ。
これだと、村の宿二回分で、都市の宿だと泊まれない金額。
海を渡って、ジャコウ大陸に帰ろうとしているオレにとってだと報酬として少額過ぎた。
引き受けるメリットがない。
オレは、違う依頼書に目を通した。
高額報酬のモノもちらほらあったりする中で、結局この一番下にある依頼書に目が行く。
オレはアホだ。
「でも、気になるよな。これ、子供だよな。誰もやってくんないよな。100Gだし。そしたらこの子大変だよな。この、しきゅうってさ・・・至急って言ってんだよな。急いでほしいんだよな」
子供が至急って言葉を書くのが変だと思うが、これが誰かを騙すような字じゃないと思う。
そうだ。これは、子供が一生懸命書いた字に決まっているんだ。いたずらじゃない!
そう思いこんで、オレはこれを取った。
だから、アホだ。
オレって、お人好しらしいぞ。自分でも思ってしまった。
この紙に詳細や具体的な内容がない。
お花が欲しいしかないんだ。
だから、これをクリアするには本人に会わないといけない。
住所があるはずだと、裏面を見た。
そしたら、ここよりも西になるエジュの村からの依頼だった。
「よし。これは受けてあげよう。でもこれだけだと、めちゃくちゃ金が少ないから、近くのないかな」
これを基準にして、ダブル受注にしようと、次のも探した。
それで見つけたのが、エジュの村の近くの討伐クエスト。
『ジュークウルフ』の討伐である。
モンスターランクはCランク。
オレ一人でも余裕だから、このまま受付の女性に出してみた。
女性は、例の紙と、討伐クエストを見て驚く。
「え? こちらをですか。お一人は危険じゃ。それにこちらはお安いですよ。よろしいのですか」
おさげの受付の女性は、ジュークウルフの依頼書を見てから、紙をテーブルに置いて一呼吸。
そして、次に謎の怪文書のような依頼内容を見て、紙を破きそうになっていた。
受付としてどうなのと思うよ。
どっちも民間人からの依頼だよ。
クエストは平等に扱ってあげてよ。
とオレは思った。
「ええ。両方いいですよ。大丈夫。お気になさらずに」
「ですがこれはCランク。死んじゃったら嫌ですからね・・・あなた様のランクは?」
「オレすか。準特級ですよ。だから、C如きは余裕です。気にしないで」
「じゅじゅじゅ・・・準特級!?!?!?! こここここんな田舎に!?」
お姉さんは固まった。
彼女の前で手を振っても、何も反応がない。
「すみません。クエスト……よろしいでしょうかね。これ、カードにクエストを記載してくださいよぉ」
自分の冒険者カードを女性に差し出す。
依頼を受けるには、カードの裏面に依頼内容を記してもらわなくてはならない。
この行為が完了すると、冒険者はこのクエストを引き受けたとなる。
ファミリーの場合は、依頼引き受け書を別に発行してもらうのが常である。
冒険者は、冒険者専用のカードを持っている。
証明書の様なものだ。
それは、ランクに応じてカードの色が違う。
準特級は銀色。
ちなみに特級が金。一級と準一級が赤。二級が青。三級が黄色。四級が白といった具合だ。
受付の女性は銀色のカードを見て、正式にオレが準特級であると分かると顎が外れた。
もう少しで彼女が話せそうだったのに、彼女はまた話せなくなってしまった。
どうしよう。
二人きりなのが気まずいです。
「・・だ・・ば・・え・・あ・・・はい。準特級様・・・・・無職!? え」
「はい」
「え。無職!?」
「はい」
「でも・・銀!」
「はい」
「だって無職!」
「そうです」
「でも・・・銀!!!!」
女性は、無職と銀だけを繰り返す人になってしまった。
どうしよう、壊れたオルゴールになったぞ。
「いやあ、オレって無職なんですよ。でも安心してください。準特級の実力は絶対にあるんで。マジで。信じてほしい!!! 出来れば今すぐにでも!!!」
「・・あ・・・はい」
カードには職業が書いてある欄がある。
だから、これのせいで、いつも苦労する。
まず無職が準特級になると思う者が少ない。
つうかそれが当然だ。
オレだって、相手の立場に立てば思う。
普通の無職だったら、三級にだってなれないはず。
彼女が当たり前の反応を示したことに、オレは腹を立てていない。
というか受注早くしてほしい!
このクエスト。
至急って言ってるから早く行ってあげたいんだよね。
「お・・終わりました。これでクエスト完了したら、どこかのギルドに報告を」
「わかりました。ありがとうございますね」
こうして、オレはやっと依頼を受ける事が出来て、エジュの村へと向かったのである。




