第2話 待ち望んだ人物
街を出て西へ進むのに一番の近道は、フーガギード山脈。
でもそこは通らない。
ここは一度南西に出て、山脈沿いを移動してガイロの森を目指すのだ。
我々の冒険の手助けをする物はメロウとルドーが開発した【魔晶石の車】だ。
風の魔晶石でタイヤを動かして前へと進む。
非常にシンプルな作りで、道が整備されていないから、ちょっとガタガタするが、それは仕方なし。
この車は試作品のようなモノだし、文句は言えない。
皆一生懸命作ったんだ!
「これから、どこへ? 森のどこに行けば?」
ルドーが聞いた。
「奥だよ。マリューが案内してくれる」
「はい。皆様を私の故郷にお連れします」
夜中でも元気なシオラが、勢いよく手を挙げる。
「はいは~い。ガイロの森ですよね。西にある森の?」
「ハイ正解。レミさんの目的・・・ってかレミさん。最近いねえな。一年くらい見てねえ」
「確かに。どこにいったのでしょうか。レミアレス様は……」
アンナが心配そうに言った。
「たぶん、ふらっと戻ってくるわよ。あたし、最後に見かけた時。どこかに行くからって言ってたよ」
「そうなのか。ナディア、会ってたのかよ」
「うん。えっと、あと二か所くらい回ったら、古い友達の所に行くからって、言ってたわ」
「そうだったのか。なんでオレに言わねえで、ナディアに言ったんだ?」
「さあ。飛び立つ時に、あたしがたまたまそばにいたからじゃない」
「そうかもな」
レミさんっていつもいなくなるしな。
まあ、誰かに伝えていただけ進歩したことにしよう。
「ほんじゃ、交代制で寝ようぜ。オレが魔力出すから、皆寝てていいぜ。ルドーとオレでやるからさ」
オレの指示に全員が納得。
「「「「 わかった 」」」」
返事をして寝る体制になった。
オレとルドーが、運転席と助手席に移動した。
運転席は運転のための席であるが、助手席は魔晶石に魔力を込める席である。
「加速したいなら言ってくれよ。オレが魔晶石に魔力を足すからさ」
「はい……わかりました」
「ルドーさ。今回のメンバーに入ってもよかったのか? 無理に連れまわしてるみたいになってないよね」
「大丈夫です。もの凄い楽しみにしてましたよ。ルルさんと旅に出られるなんて、数年前の僕ではありえない話ですからね」
「そうか。ならよかったわ」
ルドーは戦闘タイプじゃない分、そこが余計に心配だった。
でも彼にも冒険者としての素質があるようだ。
ジェンテミュールにいないタイプの人間で、知識や知恵がある。
そして戦い方も独特で、工夫するタイプの中距離型の戦闘スタイル。
これは、戦場を好転させるジョーカー的な人物だ。
オレって、ルドーのようなタイプをもっとスカウトすればよかったと思うよ。
それとマリューもだ。彼女のような司令塔は貴重だ。
希望の星には、オレの他にも広い視野を持つ人間が必要だったんだ。
今にして思えば後悔することはたくさんあった。
あいつらに頼ってばっかでさ。
もっともっと、オレたちが支え合う形を作ればよかったんだ。
それなのに、オレはあいつらを支えるだけに集中していてさ。
仲間を集めてはいたんだけど、育てていなかったんだわ。
そこが後悔している部分だ。
でも、今は後悔しねえ!
今度のオレの仲間は、この時を迎えるために最強に鍛え上げた。
冒険者の仲間として、連携も実力も申し分ない。
オレがいなくても最強の仲間たちだ。
おそらくだけど、魂を刈り取る者らが同時に三体出ても、軽々と粉砕できると思う。
それくらいこの人たちは強え。
オレの話。嘘みたいに聞こえるんだけどさ。
ジェンテミュールよりも強いんじゃないかと思ってますよ。
ジェンテミュールは英雄が四人。
でもこっちはあのクラスがごろごろいる場所だ。
バケモノクラスの強さなんだだよ。
ここの人たちはさ。
なのにみんな、オレが最強だって言ってんだぜ。
うん。でもそれも間違いないかもな。
オレって一対六でも勝ったしな。
やばい人になっちゃったかも。
もしジーバードに帰ることが出来たらさ。
オレって浮いちゃったりしてな。
そんなことになったら悲しいな・・・。
なんて思いながら、ドライブを楽しんだのだ。
◇
朝となり、皆が目覚めると、休憩に入った。
車を止めて、木陰に入る。
レジャーシートを出して、食事の準備をする。
オレのマジックボックスの本領発揮だ。
美味しいママロンさんの食事をふるまう。
「ここに来ても、これか。助かるな」
ママロンさんの食事にユーさんが満足していた。
「まあね。美味しく食べるのが一番だよな。皆で食べるからおいしいのもあるけどさ。どうよリュカ。美味いか?」
「ああ、これは美味いよ。これがママロン殿の食事か」
「そうよ。あの人、めちゃくちゃ美味い食事を作る料理人になったからな。これ、食べに来てよ。リュカならすぐ来れるじゃん」
「ははは。たしかに。拙者、リュカから遊びに行こうかな」
「どんどん来てくれ!」
リュカも笑顔になって食べてくれた。
誰かを料理で笑顔にする。ママロンさんも貴重な人だと思う。
平和にはそういうのが不可欠だよな。
笑顔が世界をよくするはずだからな。
「ということはだ。ここからの冒険はそういう事を守るための冒険だ」
「ルル? どうしたの??」
隣のナディアが聞いてきた。
「世界を守るための戦いっぽいからな。やるしかねえぞ。レミさんたちの謎を解くためにな」
「ええ。そうね。あたしたちが真相に近づかないとね」
冒険者となった俺たちは進む。
世界を知るために。
◇
五日後。マリューの記憶にあるガイロの森に入った。
ガイロの森で言うと北部である。
そこから自分は出てきたと言っていた。
「でも、私がいたのは五百年ほど前です。今もそこにあるかは・・・」
「五百年か。確かにあの頃が懐かしいな。お前をマーゼンだと思っていたが、マリューだったとは」
「申し訳ありません。リュカ王。ゼルファを言えないとのことでして」
「そうか。ゼルファってのは何だろうな。重い意味がありそうだが・・・拙者たちの歴史に書いてないからな。よくわからん」
「はい。私も調べた時がありましたが。何もつかめずでありまして」
リュカとマリューの会話。
そこが疑問だった。
オレが聞く。
「本当に知らないのか。竜人種の頭のようなものなんだよな。リュカってさ」
「今はそうだが・・・だとすると三千年よりも前の話かもしれないな。ゼルファについてはな」
「なるほどね。たしかに、それ以前ならな・・・・知らなくても当然か」
歴史に残っているのは三千年前から。
大陸が別れた後の記録しか残っていない。
「まぁ。まずは、マリューのお師匠様に会えばわかるか・・でも七つの誓いがかかっているはずだな」
そう七つの誓いがあると事情を話せない。
自分から話すことが出来なくなる相手と会話する。
俺たちの方に、何も情報がない状態では、会話自体が難しいものだ。
でも一つでも手がかりを増やしたいから挑戦するしかないのだ。
森に入って一時間。
おかしなことに気付く。
「これは・・・さっきの木だな」
「はい。風景が一緒ですね。十字路を進むと再び同じ場所に来るようです」
ルドーは気付いた。
勘がいい。冒険者としての能力が高い。
「そうなの? あたしには分からない」
「儂もだ。どこが同じなんだ? さっきからずっと同じで分からん」
「あの木の葉っぱの数が一緒です」
二人はわからないらしいが、ルドーはオレも思った箇所を指摘した。
そうこの木は葉っぱが同じ枚数なんだ。
「ボク。リタと一緒に後ろの木に目印書いてたよ」
「そうですね。あれ?」
二人は木に傷をつけて目印を書いていたらしいが、振り返った木には傷がなかった。
「なに? どういうことだ?」
オレは地図を展開している。
でもこの森は地図をメモすることが出来ない。
オレのスキルを無効化する力がこの森に働いているのかもしれない。
ジーバードのダンジョン以上の森だ。
「正しく生きるには・・・正しい手順が必要・・・たしか、お師匠様はそう言ってましたね・・・いつも私には・・・そんな指導をしてました」
マリューがヒントを言った。
「正しい手順ですか。どういう手順でしょうかね。メロウさん」
【どこかに結界があって、解除するには手順があるようだな】
ルドーの質問に答えたメロウの意見に俺も賛成だ。
正しい手順で結界が張り巡らされているんだ。
「それならあたしが。探知結界で」
「駄目だ。やめとけ。ナディア」
「え? なんで?」
「正しい手順で。これがキーワードだから、結界の位置を探るのは無しだ。たぶんそれをやると、ここの主の怒りが来るぞ」
「怒り??」
「ああ。たぶんな」
ナディアを諭した後。マリューに話しかける。
「マリュー。ウルダーナさんは、ここを守護するって言ってたんだよな」
「はい。ラルペントの泉を守護すると言ってました」
「それがたぶんレミさんが言っていた聖なる泉だ。そこを守るには厳重な仕組みで守るはず。だから正しい手順じゃなくて突破すると、何らかの罰が与えられるはずだ。結界術に長けた者がする結界は、おそらく色々な条件を付けられるはず・・・だったら正しくない手順で強引に結界を破ると・・・」
「天罰という名の反撃が来るという事ですね」
ルドーが答えた。
「そう。おそらくだけどね」
アンナが背後に来た。
「ルルロア様。ここは迷いの森のようです。入り込むと発動するみたいです……森を出ようとすると普通の森になり、帰り道が示されます。そして、森の中に入ろうとすると迷路になる。そんな森です」
「なるほどね。後ろに下がれば、出ていけるのか……」
アンナもまた優秀。
情報収集が出来る人物は貴重だ。
冒険者としての素質はピカイチなようで、ナディア以外の皆は冒険者として一流の素質がある気がする。
ナディアだけ素質がない様な気がするのもまた悲しいわ。
「それじゃあ、こっからは要注意で進むぞ。リタ、シオラ。君たちは右。リュカとユーさん。二人は左。そんでオレとメロウ、ルドーが前。アンナは後ろを見ていてくれ。皆で真っ直ぐ道を進んで、違和感がある場所を言ってくれ。その都度メモをする。オレが手書きで地図を作るわ」
オレはメモ帳を取りだした。
「ちょっと。なんであたしに指示がないのよ」
「お前はその魔法以外で違和感を見破れんのかって話よ。特に後ろは難しいからよ。アンナの邪魔になっちゃ悪い」
「なによ。役に立たないって言ってるわけ」
「違う。お前は中央にいて、もし敵が出てきたら魔法を出してくれ。この中で瞬間的に魔法を出せるのはお前しかいないからな。移動する固定砲台になってもらう」
「・・・そういうことね。早く言ってよ、もう」
とオレは見事な嘘をついてごまかした。
すまん。
ここでは、お前が活躍する機会はない。
そう思っていることは絶対に内緒にしておこう!!
◇
ガイロの森。
その奥一歩手前に。
小さな少女と、小さな鳥がいた。
「レミアレスか・・・久しいな」
「おうなのじゃ! 久しぶりにここに来れたのじゃな。ここは相変わらず、めんどくさい道のりじゃ・・・のうウルダーナ!」
「当り前だ、そう易々と入って来られても困るのだ」
二人ともぷかぷかと宙に浮いていた。
飛ぶのも少し疲れたと、二人は同じ切り株の上に座る。
「来るのじゃぞ。ここに」
「ん? 誰がだ。お前さんは以外がか? 他にもここに入れる者が来るのか?」
「うむ。余らが待ち望んだ人物がここに来るのじゃ」
「ほんとか。三千年経ってか。ようやくやって来るというのか」
「うむ。余はその者が世界を守る男だと思っとるのじゃ」
「ほ~う。レミアレスが信じた者が来るとは。奴以来か・・・面白い。期待して待つとしよう。どれくらいで来る」
「そろそろじゃ、長い時を待っていたのに・・・あと少しが待ち遠しくなるとは、不思議なものじゃな」
「はははは。確かにな。それはそうだな」
ウルダーナは背後を見た。
「ついに来るか・・・・そうだな。よかったな。イヴァンよ」
「ん? 奴はまだいるのじゃ? 存在は消えておらんかったかじゃ?」
「まだいる。レミアレスよ。中に入ってないのか?」
「うむ。入りたくとも入れんのじゃ。この体だと無理らしくて、誰かと一緒じゃないと無理みたいじゃ」
「そうか。お前さん、力を失ったからか………ここにいるぞ。イヴァンは最後の人物としてな。自らの力を託すべき人物を待っている」
「そうか・・・・・ならば、余も想いを託すとしよう。余が信じたルルにじゃ!」
珍しくも真面目な表情のレミアレスは、光の先を見つめて言った。
希望はここにやってくるのだと・・・。




