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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
長きに渡る南北魔大戦の終結

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第4話 新生連合軍

 「あれは反則よね。ヴァイスちゃん」

 「そうだな。ガイルハイゼンもやつらの力で勝ったのだな……」


 ジュズランの城壁に立つ二人は、敵軍の中にいる小巨人族(ヒュガ)を見つけた。

 小巨人族(ヒュガ)の標準サイズを遥かに超える大きさのヒュガ。

 見た目はもう古にいた巨人族にしか見えない。

 巨人が四人。

 彼ら一人がいるだけでも、兵が一万人分追加されたように感じる。


 「あんなのでビビるな。ワイが奴らをぶちのめす。ビビりのおめえらは、大人しく休んでろよ」

 「ああ。はいはい。クヴァちゃん。駄目よ」

 「ぬ。アイヴィス……くっ」


 アイヴィスは、クヴァロの肩に乗って耳をつねった。


 「いい。クヴァちゃん。ここでは無茶をしちゃ駄目なのよ。私の言う事を聞きなさい。ルルちゃんはね。ここで時間を稼ぎなさいって私に言ったの。ということはね。その意味の中に、相手を倒す必要がない。ここを守る必要があるという事なのよ」


 作戦は防衛が基準。

 アイヴィスは理解していた。


 「いい、わかったぁ。好機が来た瞬間に反撃をするのよ。最初から前がかりでは駄目。今は私が指揮官。言う事を聞きなさいね。聞かないとお仕置きしちゃうからね」

 「・・・む・・・仕方ない・・・おめえが言うなら、そうしよう」


 クヴァロは大人しく言う事を聞いた。

 一度わからされたことがあるから、アイヴィスには気を使っているのである。


 「クヴァちゃん。大変よろしいわ。いい。ヴァイスちゃんも、落ち着いてね。一人で行ったら駄目よ」

 

 ヴァイスの気合いの入った顔を確認したアイヴィスは冷静に忠告。

 目の前に広がる連合軍は、七万の軍で解放軍は三万の軍だ。

 この圧倒的に不利な状況は、冷静に対処しなくてはならないのだが、この不利な条件のおかげで、逆にヴァイスのやる気に火がついていたのだ。


 クヴァロの肩から降りたアイヴィスは城壁の縁に腰かけた。


 「さて、連合軍とはどのような攻撃をしてくれるのかしらね。解放軍の四天王がいるジュズランは、先の都市よりも甘くはないわよ」

 

 彼女は、敵軍に向かって不敵に笑った。


 ◇


 連合軍の本陣……。


 会議を推し進めているのは、連合軍を指揮する盟主ハールセン・マイキャ。

 種族は小巨人族(ヒュガ)である。

 ヒュガは普段、小さい形態に留まることが多い。

 サイズがほぼヒュームと同じにして生活することが多いのだ。

 たまにめんどくさがってそのままのサイズで生きる者もいる。


 荒々しい物言いの男が、ハールセンである。


 「てめえら、明日から攻撃だ。兵らは囲うだけにして。俺たちの戦いは、先の戦いと同じ戦法だ。リョクナン。エステメス。カーマイン。シオラの四人で蹴散らすぞ。他の兵らはただ四方を囲えばいいだけだ」

 「了解だ。右将軍として、このリョクナンが先陣を切ろう」


 エメラルド色の髪をした男は自信満々に言った。

 

 「リョクナンが東。エステメスが北。カーマインが西。シオラが南で終わらせるぞ」

 

 ハールセンの指示を素直に聞いたヒュガの四人。

 連合軍最強の戦士『ヒュガ四人衆』

 ハールセンを軸に作り上げた巨兵部隊。

 ヒュガの最小はヒュームサイズで、最大は4メートルほどだ。

 でも彼らの最大サイズは12メートル。

 これはある特殊な力のおかげでそうなった。

 それは、彼女のおかげだ。


 「おい。また血を出せよ。それしか出来ねえんだからな。おんな!!!」


 エステメスが檻を蹴る。


 「きゃ・・・」

 「悲鳴だけはいっちょ前だよな。このおんなはよ」


 ルビー色の髪をしたエステメスは、檻の中にいる麗しい女性を睨んだ。

 これ以上叫ばないようにするために、女性の口を押える手が震えていた。


 「……」

 「話すつもりがねえよな」


 エステメスに睨まれても女性は話し出さなかった。


 「もう終わりでいいでしょ。ボク、その人を連れだしてもいい? ここに置いておくんじゃないでしょ。牢の天幕に置くんでしょ」

 

 トパーズ色の髪のシオラは、会議を終わらせようとした。

 

 「ふん。お前は優しすぎるんだよ。こいつは俺たちの為に。血だけ流せばいいんだよ」

 

 オレンジサファイアの髪のカーマインがシオラを叱責した。

 意見が合わない二人は睨み合う。

 そこにハールセンが間を持つ。


 「うるさい奴らだ。黙らせるためにも。シオラ、てめえは、そいつを移動させておけ。俺たちは宴会するからよ」

 「・・わかった。ボク、運ぶね」

 

 シオラは檻の中に入れられた女性を檻ごと運び出した。


 ◇


 檻の中の女性をとある場所へ運搬しているシオラは、優しい声でその女性に話しかけた。


 「ごめんね。リタ。みんな、酷い人たちでさ」

 「私はいいの。あなたこそ大丈夫なの。怪我とかない? 戦いをしたんでしょ」


 檻を押している彼女の方にリタは寄った。

 シオラの傷だらけの体を心配している。


 「うん。ボクは大丈夫。ボクはね、君の方が心配だよ。血とか取られ過ぎてない? また具合悪くなってない?」

 「大丈夫よ。私は、あなたが無事ならいいの。私はどうなってもいいの。あなたは生きてね」

 「う~ん。嫌だ。ボクは君が心配なんだ。解放軍より、連合軍のあいつらの方が君を殺しそうだもん。こんなにいい子なのに」 

 「それはあなたこそですよ。私が今まで生きてこられたのも、あなたがいたからです」

 「ボク。絶対あいつらよりも強くなって君を助けるんだ。こんなの可哀想だもん。ボクは君を閉じ込めて血だけをもらうやり方が許せないんだ……だからボクは絶対あいつらよりも」

 「シオラ、その気持ちだけで十分ですよ」


 リタは、シオラの優しさが大好きだった。

 敵の中にいる唯一の味方が彼女。

 リタにとっての心休まる友人がシオラである。

 彼女の辛い幽閉生活を支えてくれたのは、ヒュガの女性シオラだった。

 血だけを抜き取られるだけの悲しい毎日を、明るいシオラが支えている。


 彼らヒュガは人魚としての血を欲していた。

 それは、ヒュガの眠れる才能を引き出すから。

 人魚の血は、ヒュガの体を巨大化させることが出来るらしく、有用だった。


 その不思議な力に気付いたハールセンが、リタを狙うために前盟主のイルヴァを騙し討ちにして連合軍を乗っ取った。

 強さを求めたヒュガ。

 それが今回の新生連合軍の成り立ちだ。

 別にファイナの洗礼などどうでもよく。

 都合の良いタイミングでの戦争を求めていたのだ。


 絶好の機会が訪れたのが、今回の解放軍の動き。

 軍を準備しているとの情報だけで、こちらも軍を動かしてもいい言い訳になる。

 戦える機会を手に入れたヒュガは、この時を待っていた。

 全軍を持って移動するのはただの人数合わせで、ガイルハイゼンを落としたのは四人のヒュガたち。

 圧倒的な巨体を駆使して都市を四方から包囲して、城壁にいる兵士たちを蹴散らした。

 その際に当然のことだが怪我を負う。

 だが、その怪我もマーメイドの生き血さえあれば瞬時に回復。

 これはまさにゾンビ戦法と呼んでもいい攻撃方法だ。

 何度傷を負っても、何度も回復して敵を攻撃し続ける。

 そんな攻撃を受ける相手の恐怖は計り知れないだろう。


 

 ◇


 ジュズラン防衛戦争。

 これが後の世の名前ではないが、当時はそう呼ばれていた。


 開戦の合図は、笛の音。

 甲高い音共に連合軍全体が都市を囲む。

 ヒュガ四人衆を前に出し、その四人がジュズランの城壁に向かった。


 

 のしのしと迫るヒュガに対して、冷静に対処するのはアイヴィスだった。


 「これは、なるほど」


 敵の戦法に気付いて、アイヴィスは頷いていた。


 「そういう展開をするのね・・・それじゃあ、あの四人の中で一番弱いのはあそこの子ね。南。常備兵を一万で対処するわ。東はヴァイスちゃん。西はクヴァちゃん。北は私がやるわ。皆移動を!」


 クヴァロもヴァイスも、解放軍の兵たちも命令通りに移動。

 敵を迎え撃つ態勢になりながら、アイヴィスはもう一つ指示を出す。


 「ヨンちゃん」

 「はっ。アイヴィス様」

 「何かあったら私に連絡を、あなたの連絡部隊で各自の状況を私に伝えて」

 「はい。お任せを」

 「うん。お願いね」


 アイヴィスは手つきが滑らかなバイバイで、ヨンちゃんを送り出した。

 ジュズランの北に迫るヒュガを見つめた。

 

 「さてと、ヒュガと戦うのは好きじゃないわ・・・めんどくさいもの。脳筋すぎて。そういえば・・・クヴァちゃんもだわ。あの子も諦めないからね」


 どんな時でもアイヴィスは不敵に笑い続けるのであった。

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